2009年5月21日木曜日

クリスティーン・ジョーゲンセン--50年前の肉声

近代的SRSに道を拓いた先駆者<クリスティーン・ジョーゲンセン>



彼女は本当に女性?
    彼女の性生活は?
    母親になれるのか?
    世界中にセンセーションを巻き起こしたセレブが、
    その私生活を赤裸々に語る


性同一性障害(GID)に興味のある方は、まずクリスティーン・ジョーゲンセンという名前は聞いたことがあるでしょう。簡単に略歴を紹介しますと、1926年にジョージ・ウィリアム・ジョーゲンセン・ジュニアとしてニューヨークのブロンクス区で男児として生まれ、7歳から自分の性に違和感を覚え、1952年から1954年(26歳から28歳)にかけてデンマークで性別適合手術(SRS)を受け、帰国するや否やブロンドの美女として一躍マスコミの脚光を浴びる身になりました。美貌と恵まれた才能を生かして舞台やラスベガスのナイトクラブ、ラジオ出演や講演などで世界的に活躍しますが、同時にGIDや同性愛などの性的マイノリティーへの理解を促進することに多大な時間と労力をさきました。

彼女を最初から精神的に支え導いてきた精神科医ハリー・ベンジャミン博士ともに、GID治療に精神科医の関わり、ホルモン治療を経て、さらに別の性での生活体験を経た後にSRSに進むという、今日のGID治療基準への道筋をつけた、患者の立場からの偉大な貢献者として記憶されるべき人物だと思います。婚約歴はあるものの生涯結婚はせず、1989年に62歳で肺がんのためカリフォルニア州で死去し、波乱に満ちた生涯を終えました。

50年前の録音インタビュー

インターネットの迷路をさまよう内に偶然たどり着いたサイトで、半世紀も前の1958年に録音されていたクリスティーン・ジョーゲンセンの肉声を聞いて感嘆しました。1954年に「性転換手術のスター」として世界的に有名になった彼女の肉声にまず感動すると同時に、彼女の話した内容が現代の医学的な見地からもなんら遜色なく、性転換者として世界のマスコミの脚光をあびた自分に誇りと自信を持っている彼女の話しぶりに、当事者でない私も驚きと感動を覚えたのです。

クリスティーンの話す洗練された英語にまず驚きました。デンマーク系のアメリカ人としてニューヨークで生まれ育ったため英語を話すのは当たり前ですが、彼女の端正な発音と的確な話しぶりはそこらあたりのアメリカ人とは明らかに違います。また、全くと言っていいほど無駄のない、理路整然とした話しぶりからは彼女の教養の高さがうかがえます。

「元GIがブロンドの美女に!」というセンセーショナルな当時のマスコミの扱いから想像する、「兵隊上がり」というイメージは全く感じられず、逆にインタビューした方がたじたじとしていたことに一種の快感を覚えたほどでした。

この録音インタビューにはオチがあります。このレコーディングは《クリスティーン・ジョーゲンセン赤裸々に語る》という俗受けするタイトルで、30cmLPレコードとして販売するためにプロモーターが企画したものでした。「赤裸々に語る」という思わせぶりなタイトルに彼女は抗議したそうです。ところがクリスティーンの話す内容は正統的で、俗受けしそうな露骨な質問は冷静にかわして答え、性同一性障害とはどういうものか自らのSRSにいたる経緯を話しながらも、世に大勢いるGID当事者への配慮を忘れることなく、無知で無理解な世間を啓蒙しようとするすぐれた解説だったのです。

結局のところ、俗受けをねらっていたプロモーターはこれでは売り物にならないという判断となり企画はボツ、50年前のこの貴重な歴史的録音インタビューは日の目を見ることはなかったのです。クリスティーン本人には1ドルの出演料も印税も払われなかったと、その後に出版された彼女の自伝に書いています。(上の写真はその幻のレコードのジャケットです)

この歴史的なインタビューが行われた時は、彼女はニューヨークに隣接するロングアイランドに母親と姉と姪二人と同居していました。その約50分に及ぶ録音インタビューの概要を以下にご紹介いたします。

興味のある方は、以下のサイトで実際の録音インタビューを聞くことができます。録音の聞き書きによる翻訳は少々長くなりますので、項を改め2回に分割して掲載します。

http://www.queermusicheritage.us/aug2000a.html

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