2010年9月20日月曜日

ミニペニス(=マイクロペニス)形成


■FTMへの近道―ミニペニス

男性から女性への性別適合手術は比較的に簡単で、手術は一回で済みます。熟練した医師チームなら3時間前後ですべて完了し、2週間後には帰国できます。

一方、女性から男性への手術で、本格的なサイズのペニスを望む場合には通常数ヶ月間隔で行われる4段階の手術工程をへて、一年以上もの時間を要します。ペニス形成のための筋肉・皮膚組織を移植するドナーサイト(腕、太もも、腹部など)には、大きな傷跡が残るという問題もさけて通れません。また、手術にかかる費用と時間は、当事者には大変な負担になります。

それでも、GID症状に深刻に悩む当事者にとっては、簡単にあきらめるわけにはいきません。一時的な悩みならともかく、幼少時代にはじまり、悩みが深刻になる青春期、さらに社会人として今後の人生を考え、真剣に解決方法を模索している当事者は大勢いるはずです。PAIのプリチャー医師も、日本人にはとくにFTM患者が多いという印象を語っています。

SRS発祥の地、ヨーロッパ

近年では従来からある本格的陰茎形成法のほかにミニペニス(=マイクロペニス)というFTM手術が注目を集めています。これは最近開発された手術法というわけではなく、ヨーロッパでは20年ほど前から実施されていて、手術法も洗練され、医師、患者双方の満足度も向上し、すでにFTM手術の有効なオプションとして定着しています。その先端を行くのが中央ヨーロッパ、セルビア共和国の首都ベオグラードのFTM手術で名高いペロヴィック医師です。

ペロヴィック医師の実績は2003年の英国泌尿器学会や2008年のアメリカ泌尿器学会のジャーナルでも特集され、解剖学的にも手術技法の面でもレベルの高さが注目を集めました。ペロヴィック医師とPAIのプリチャー医師とは長年の親交があり、2004年にバンコクで行われたプリチャー医師主催のSRSワークショップには特別講師として招待されました。このワークショップには日本からは埼玉医科大学の原科教授(当時)及び高松助教授(同)も特別ゲストとして招待されていました。

PAIのプリチャー医師とその医師チームも毎年のようにベオグラードに出向き、ペロヴィック医師と技術交流を行いながら、ミニペニスの手術技法の向上に努めています。まずミニペニスとは何か、その手術の主眼は何か、という基本を理解する必要があります。

ミニペニス(マイクロペニス)とは

女性に備わっているクリトリスは発生学的には男性のペニスと同じものです。どれも性的刺激を受けると勃起し、大きさを増し、そして性感覚が鋭敏になり、快感が絶頂になるとオーガズムに達します。クリトリスは個人により形やサイズはまちまちですが、ペニスに似た亀頭部分があるのが普通です。

大きな違いはペニスにはその中心部に尿道が通っているのに、クリトリスには尿道がないことです。女性の尿道口はクリトリスの下方、膣入り口のすぐ上にあり、外に向かって出っ張っていないため、立ったままでの排尿はできません。FTM当事者が術後になによりも感激するのが、男性として立ったままで排尿できるようになったことだ、とよく聞きます。

包皮に包まれたクリトリスの根元から亀頭の先端までは、約2センチ-2.5センチ前後の長さがあります。手術を考えているFTMトランスセクシュアルは、ホルモン療法を受けているのが普通ですが、男性ホルモンの影響でクリトリスはさらに増大する可能性があります。このクリトリスを覆っている包皮から開放し、ペニスのように立てて、包皮などで周囲を包んで補強します。さらにこの筒の内部に延長した尿道を通して、ペニスの先端から排尿できるようにしたのがミニペニスです。

男性には睾丸が備わっていますが、これも丸いシリコンボールを大陰唇の袋の中に挿入して、小さいながらも男性の性器に類似した性器官ができるのです。

ミニペニスの有意性

●名前の変更には精神科医のGID診断書があれば問題ないようですが、戸籍上の性別変更は外科的な方法により反対の性別に近似した外観の性器を有している場合には、家庭裁判所もとくに問題視せずスムーズに性別変更ができます。

●晴れて男性として社会生活が送れるようになれば、長年の悩み、苦しみから解放されて、前向きな人生設計が可能になります。

●ミニペニスは短すぎるため、挿入セックスはできないと思ってください。しかし、元のクリトリス性感は維持されるのでいろいろ工夫はできるでしょう。

●性別変更もできるということは、正式に異性と結婚もできるということです。残念ながら、ふたりの間で子供を産むことはできません。

●本格的な陰茎形成とはちがい、ミニペニスでは身体の他の部分からの皮膚移植はありません。そのため目に付く傷跡が一切残らないことは、精神的な負担もやわらげてくれます。

●本格的な陰茎形成法を望む場合には、このミニペニスは無駄にはなりません。クリトリスを含むミニペニスを土台として、さらに尿道を延長して、腹部などからの筋肉皮弁移植により、本格サイズのペニス形成が可能です。

●ミニペニスは本格的陰茎形成のための必要条件ではありません。ミニペニスのままでも、本来の目的だった男性として社会生活を送りたいという望みはかないます。これで精神的な余裕ができて、種々の条件や態勢がととのった段階で、あらためて本格的なペニス形成を目指すというオプションがあるのも大きなメリットでしょう。

●ミニペニスは一回の工程、3時間ほどで終わります。バンコク滞在期間は2週間。したがって、時間と経費の大きな節約になり、望んでいた自分本来の性別で早期に社会に参画することが可能になります。

         <包皮から開放されたクリトリス=ミニペニス>


技術上の問題

尿道形成
女性の尿道はおよそ4cmの長さ、男性の尿道は20cm近くあります。これが肉体的には反対の性を目指すSRSをむずかしくする大きな要因です。SRSを手がける医師のほとんどが、尿道形成が一番やっかいだと認めるでしょう。尿道自体がやわらかい海綿体でできていて、接合がむずかしい。術後の尿漏れや、尿道狭窄という後遺症も起こり得ます。ただ、経験をつんだSRS医師は技術の向上によりこのような問題は最小限におさえていて、再手術を要するようなケースはまれにしかないといえます。

提供される材料に左右される
内視鏡手術やロボット手術など、近年の医学界では技術革新は日常的な話題になっていますが、SRSの世界はすべて医師の手先の技術と経験により磨かれた職人芸のようなものです。CG合成によるシームレスな変身とは無縁の世界です。患者さんから提供された材料を使ってしか手術はできません。したがって、仕上がりも材料の質、大きさ、形体に左右されることは理解しなければなりません。その意味で、過大な、空想的な変身願望は現実的ではないと思います。ベオグラードのペロヴィック医師も「仕上がりは医師の技術よりも、提供される材料に左右される」と述べています。

クリトリスの大きさ
ミニペニスにはクリトリスのサイズが大事な要件になります。というのも、ミニペニスの仕上がりは、提供されたクリトリスという材料に大きく左右されるからです。クリトリスは一年以上の男性ホルモン治療により増大するのが普通ですが、当然ながら個人差があります。2年以上の期間をかけるか、それでも十分でない場合にはとるべき方法はあるようですので、検討してみてください。(*注参照のこと)

同じく、挿入する睾丸インプラントや陰嚢の大きさも、その袋として転用される大陰唇のサイズにより左右されます。小さすぎる袋に大きいインプラントを入れると裂けてしまいます。これは、手術への準備として、大陰唇を指先で引っ張って、皮膚面積を伸張するストレッチ作業を根気よく続けると効果があるでしょう。

手術に完璧はない
夢に描いていたSRSも、終わってみれば結果は現実的です。自分にとってSRSの大事な目的は何か、順番をつけてリストアップしてみてください。目的意識がはっきりするでしょう。

いかなる手術にも完璧はありません。目的意識がはっきりしていれば、そしてその大事な目的が達成されていれば、過大な期待や、失望感からの呪縛から開放され、前向きな人生に向けて前進できるのではないかと思います。いかなる手術にも完璧はありません。これは、全世界の医師からの真摯なメッセージだと思ってください。

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*《注》 クリトリスをさらに大きくしたい方には、ヨーロッパ/アメリカなどから入手できる男性ホルモン・ジェル(クリーム)があります。ジヒドロテストステロン(dihydrotestesteron=DHT)配合ホルモン剤で、ペロヴィック医師もこれをクリトリスに塗ると1ヶ月ほどで効果があるとして推薦しています。すでに投与中の男性ホルモンとの関連もあるため、かかりつけの専門医と相談してみてください。

なお、値段の安いバキューム式の吸引器具もあるようですが、これは国内のアダルト系のサイトで探してみてください。

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