2012年10月14日日曜日

クロスドレシングに違法判決 (マレーシア)

(Online news: The Bangkok Post; 10/12/2012)

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TS活動家団体の発表によると、4人のイスラム教徒のマレーシア人トランスセクシュアルが、女装禁止令の撤回を求めてイスラム法廷に提訴していた話題の訴訟が敗訴に終わったとの発表が昨日あった。

イスラム教徒が国民の約6割をしめるマレーシアでは、同性愛とトランスセクシュアルのライフスタイルはタブーとされており、今回の裁判はクロスドレシングを違法とするイスラム法廷の裁定を覆そうとする最初の挑戦だった。

首都クアラルンプールのすぐ南に位置するセレンバン州の高等裁判所は、同州の宗教法であるシャリア法は差別を禁じた憲法上の権利を侵害するものであるという4人の原告の訴えを退けた判決であった。

今回の提訴が実現するまで助力を惜しまなかった女性TS活動家のティラガ氏の言によると、判決はクロスドレシング禁止令を覆すのを拒否したが、マレーシアでは法体系が二つあり、イスラム教徒の生活面に関する事柄にはシャリア法が介入し州政府が管理監督する役目を果たしているとのこと。

判事によれば、4人の原告は男性として生まれ、現在もまだ男性であるためイスラム法が適用される。クロスドレシングはイスラム社会では排斥されるべきであると判事は述べたと、取材したAFP通信に答えた。4人は上告すべきかどうか検討中であるとのこと。

提訴した4人はジュザイリ24歳、シュコール25歳、ワン・ファイロール27歳、アダム・シャズルール25歳で、それぞれブライダルショップでメーキャップアーティストとして働いており、日常生活でも女性の服装で生活している。

セレンバン州政府の監督下にあるイスラム法廷では、イスラム教徒の男性がクロスドレシングや女性として振る舞うことを禁じており、4人とも以前に同容疑で逮捕された経歴がある。

ジュザイリとシュコールの二人に対する以前の裁判は現在も進行中であり、もし有罪となれば最高6ヶ月の懲役となる。

昨年には女性としての性転換手術を済ませたTS当事者が身分証明書の性別変更を求めた裁判で、別の州の高等裁判所が訴えを退けた事例があった。この25歳の薬局で働いていたMTF女性は判決の数週間後に、報道によれば心臓病が原因で死亡したと伝えられた。

ソドミー法(男性同士のアナルセックスを禁ずる法)がまだ存在し、20年の懲役刑で罰せられるマレーシア。同様にトランスセクシュアルも社会の片隅に追いやられた存在であり、就業の機会が閉ざされてその多くがセックスワーカーとして生きていくしかないのが現状である。

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(余談1)

ソドミー法はアメリカでは2003年になりほとんどの州が廃止したが、いまだにオクラホマ州、カンザス州、テキサス州には残っている。イスラム教だけでなくキリスト教社会でも同性愛やソドミー行為を忌避するのは、ごく最近まで当然とされていた。それは性行為が子孫を残すための聖なる行為であり、ソドミーや同性愛では子孫は残せない。“産めよ、増やせよ、地に満ちよ”のキリスト教の根幹を揺るがす行為として敵視された歴史がいまだに残っているからだと解釈できます。

同性愛者やトランスセクシュアルは子孫を残せません(精子・卵子保存法などを除いては)。これが一般社会から異端扱いされる原因ではないかと思います。その偏見はイスラム教、キリスト教社会を問わず根強く存在しています。先進国、途上国も問いません。

(余談2)

自分のせいではない、親のせいでもない、社会のせいでもない。自分の感じる性別違和感はだれにもわかってもらえない。それでは、TS当事者はどう生きていけばよいのでしょうか。だれの責任でもない以上、わが身の災難を嘆いてもなにも解決しない。それならば、特別視する世間にも罪はないと開き直ること、そして自分の打ち込める仕事を見つけ自立していくことです。自分なりの生き方を身につければ周囲のひとの見る目もちがってくる。やがて自分の方から違和感なく社会に同化していける日が必ず来ると思うことです。その過程としてSRSの手段をとるかどうかは、当事者個人の判断と行動しかありません。現実に生き生きとして生活しているTS当事者を知る立場にある者からの発言として秤にかけてください。

(余談3)

イスラム教国家マレーシアでもアメリカ同様に、州により社会環境がかなり違う。地方にいくにしたがい保守的な風土となり、とくに女性の自由度は制限されている。首都クアラルンプールは開放度が高く、マレー人女性でもスカーフをかぶるかどうかは個人の自由。やはりスカーフ姿の女性が圧倒的に多いが、これは家庭環境も影響している。また現実的なメリットもあるようで、色とりどりのスカーフでファッションを楽しむ、髪にほこりがつかないので外出時には便利、熱帯の国ながら腕は長袖か7分袖、若い女性はジーパン姿も多い。マレー風のツーピースの衣服も体をしばらず快適ですよ、とのこと。やはり女性が肌を露出するのはつつしむべき、と彼女たちも感じているみたいで、暑苦しそうなイスラムの服装に関してはわれわれが思っているほど束縛感はもっていないようです。若い女性の表情は明るく陽気です。
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