2014年10月2日木曜日

LGBTが虐待されるマレーシアの現状

トランスジェンダーを虐待するマレーシアの官憲

Human Rights Watch(HRW)が報告するマレーシアの現状 (2014年9月25日版Bangkok Post紙掲載のAFP記事より翻訳)

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(クアラルンプール発)マレーシアのトランスジェンダーたちは組織的な抑圧、挑発行為、虐待に日常的に遇っていて、政府は早急にトランスジェンダーのライフスタイルを犯罪扱いする法律を撤廃しなければならない、とアメリカを本拠とするNGO人権監視団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が最新の報告書を発表した。

      (HRWレポートに見入るマレーシアのTSたち)

Human Rights Watch(HRW)の発表した詳細なレポートによれば、東南アジアでもイスラム教徒が過半数をしめるこの国ではトランスジェンダーたちの直面する人権侵害行為は悪化の一途をたどっている。

その中には逮捕、襲撃、官憲による強要、強奪、公衆の面前で女性の衣服を全部脱ぐことを強要するなどトランス女性をはずかしめる行為、健康・医療、雇用、教育機会等に対するさまざまな障壁がたちはだかっている。

この人権団体でレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスセクシュアル(LGBT)の人権擁護推進を担当するボリス・ディトリック氏によれば、マレーシアでは保守的なイスラム教信奉者の影響が加速的に強まっているためにトランス当事者の状況は悪くなるばかりである。

「簡単に言ってしまえばトランスジェンダーであるだけで逮捕されるということ。こんなひどい状況は他の世界中のどの国を廻っても見られない。」

「この国の加速するイスラム化の現状とぴったり一致するのだ。」

マレーシアは元宗主国の英国の法律にもとづく民事法廷があるが、その一方でイスラムの教えへの遵守を規定するシャリア法によるイスラム法廷も存在する。このイスラム法は人口の6割を占めるマレー人だけに適用されるもので、マレーシア人でも中国系やインド系の非イスラム教徒には適用されない。

シャリア法とよばれるイスラム法では男が女の服装するだけで、最高3年までの懲役刑が科せられる。また州により、とくに保守的な東海岸の州では、女性によるクロスドレシングも同様に罰せられる。

HRWによれば、男として生まれながら女性としての感性をもつトランス当事者たちは、イスラム法を強要する官憲(宗教警察)の手によるさまざまな肉体的、性的な迫害にあっている。

73ページに及ぶ同団体の発表したレポートでは、そのような人権侵害を体験した何十人もの当事者へのインタビューが掲載されている。

そのひとりヴィクトリアは言う。「わたしはたとえようもない恥辱をうけました。公衆の面前で全裸にされ、身体をあちこちいじられたのです。」

「大勢が見ている前です。中には裸にされたわたしの身体の写真を撮っている人もいました。」

3人のトランスジェンダーが原告となった裁判が注目されている。クロスドレシング法は差別的であり憲法違反であるとの根拠でマレーシアのある州で同法を廃止するよう裁判に訴えているのだ。

HRWグループのディトリック氏は声明を出し、「マレーシアのトランスジェンダーたちは日常的に逮捕されるリスクを負わされている。その一方の加害者ともいえる官憲は相手をどのように扱おうとも一切の責任を問われないのである。」

同性愛も事実上は不法行為とみなされ禁止されており、同性同士の性行為は最高20年の懲役刑が科せられる。

人口3000万ほどのマレーシアの約60%はイスラム教徒のマレー人であるが、歴史的には穏健なイスラム教の国であった。それが最近になり特定のイスラム教勢力の保守化傾向がさらに勢いを増す傾向が続いている。宗教的にも民族的にもマイノリティであるグループや他の批判グループからはひんぱんに警鐘が鳴らされているが、政府は対応に手をこまねいていて見て見ぬふりをしているのが現状。

(以上AFP記事より) **********

<私的感想>

マレーシアには宗教警察という他国にはみられない警察機構がある。今年の3月、数回メール通信していたマレーシアのTS女性と東京で会うことができた。彼女からもその宗教警察の話を聞いていて、はっと息を呑むような残酷な仕打ちを受けたTS女性の写真も見せられていた。

そういう背景もあったので過去何十回も訪れているマレーシアのトランスジェンダー事情には興味をもっていた。8月末にクアラルンプールを訪れた際その女性のアレンジで、現地のTSたちが安全に集まれる場所でSRSのオリエンテーションとQ&Aの集会が開かれた。10人ほどのTS当事者たちと親しく話す機会が持てたのは私にとっても貴重な体験となった。一人は母親同伴で別途カウンセリングもしたが、母親は娘の手術には賛同しているとその場で感じとれた。

その直後にバンコクに来た彼女をプリチャー先生に紹介し、今や親友となったその女性をマレーシアの窓口としてPAIとのコーディネーター役も引き受けてもらったのも望外の収穫だった。彼女もプリチャー先生の寛大で温情あふれる人柄に感激した様子で、真心のこもった感謝のメールをもらった。

帰国後まもなく参加者の3人がPAIで手術したいということで、すでに具体的な日程まで決めているとの連絡があったのには驚いた。これには経済的に苦しい生活を強いられているマレーシアのTSには特別価格を提供するというPAIのプリチャー先生の配慮も大いに力となったのはもちろんです。

マレーシアのTSたちの多くが国境に近いタイ側の町やバンコク裏町のうらぶれたクリニックでSRSを受けているのはその親友から聞いていた。値段が安いのが最大の理由です。バンコクのPAIはよく知られているものの、彼女たちには「5スター」クラスで手が届かなかったのです。

東京に帰って間もない9月25日のバンコクポスト紙のこの記事を見て早速クアラルンプールの彼女にも知らせてあげた。まずマレーシア現地の大手マスコミは政府に遠慮してこのようなニュースは取り上げないと思ったからである。半面、隣国のタイではマレーシアのTS関連のニュースは英字紙が取り上げることがよくある。

その親友からはさっそく返事があり、TSコミュニティ全員がHRWレポートに歓喜の声をあげて、今後も権利獲得の闘いを続けていくことを誓ったそうです。話せばわかる相手ではない宗教警察にだけは気をつけてね!

HRWの報告書のコピーが届いたら、その内容の詳細を翻訳して報告できると思います。

(島村記) *****