2009年5月21日木曜日

クリスティーン・ジョーゲンセン--50年前の肉声 (II)


<クリスティーン・ジョーゲンセン赤裸々に語る>(Part I)


全米にセンセーションを巻き起こした帰国直後のクリスティーン

Q.ミス・ジョーゲンセン、クリスティーンとお呼びしてもよろしいでしょうか。最初にお聞きしたいのは、あなたは女性ですか、男性ですか。

「人間には男と女しかないと思いがちですが、科学的に見れば実際にそれぞれに程度の差はあるものの、両方のセックスの特徴がそなわっています。ここで深く議論してもしょうがないので、私は男よりも女に近いとだけ答えておきましょう。」

Q.医学的、生物学的に言って女性の性器官をもっていますか?

「このように答えましょう。いろいろな検査を行い診察した医師たちの見解では、私の身体のどこかに女性の性器官、または相似する部分が存在しているそうです。生化学的な検査では特定できる組織はないとのことでしたので、ならば検証するための手術をしてみてはという医学関係者もいたようですが、マスコミの好奇心を満足させるためにそのような手術をするのは悪趣味で論外である、という私の担当医の一言で落ち着きました。医学の倫理的な見地からもこのような検証目的の手術は考えられません

Q.マリリン・モンローのような魅惑的な曲線をもつ女性を見たときに、もとの男性にもどりたいと思うことはないですか。

「いいえ、それは全然ありません。私は対象が男であれ女であれ何であれ、普通の人たちと同じように美という対象には何でも惹かれます。」

Q.ヨーロッパでの従軍経験のあと、海外滞在中に性転換の手術を受けたと世間では思われていますが。

「それは事実と違います。私の軍隊経験については尾ひれのついた話しが広まっているようですが、軍隊に籍を置いていたのは第二次大戦が終わったあとの14ヶ月間だけでした。ヨーロッパでの従軍経験などは一切なく、大砲や銃を撃ったり、泥の中や危険な地雷原を歩いたりして戦闘に参加した「元GI」と思われるのは、正直なところ少し抵抗を感じます。

「実際の私は1945年8月からニュージャージー州のフォート・ディックスで除隊事務処理担当として勤務していました。1946年12月に除隊になり、1950年にヨーロッパに渡り医学的検査を受けるまで少なくとも4年間が経過しています。除隊後の私はアメリカの大学に通い、また写真学校でも勉強していました。」
       
1951年手術前のジョージ・ウィリアム・ジョーゲンセン

Q.要するに、女性に性的に惹かれることはなかったということですか。男として軍隊にいた時期も、他の兵士と同じように愛情または支配の対象として女性への性的興味は持たなかったですか。

「男同士で女が話題になるときはちょっと気恥ずかしい思いをした記憶はありますが、そういう話題には全然興味がなかったのでできるだけ避けるようにしていました。」

Q.軍隊生活では裸姿の男達と一緒の身体検査などもあったと思いますが、女性的な貴方は抵抗感があったのでは。

「ちょっと気恥ずかしい思いをしたことはあるとは思いますが、ニューヨークの閑静な自宅ではバスルームのドアにカギをかける必要のない環境で生活していたので、とくに気になることはなかったです。(笑い)」

Q.「ヘマフロディート(両性具有の人=ふたなり)」について医師から聞いたことがありますか。

「これについては以前に医師に聞いたことがあります。人間はみな程度の差はあれ両性の特徴を備え持っており、“ヘマフロディート”はひとりの人に両性の特徴的な性器管が同時に存在することですが、遺伝子やホルモンや精神状態には関係ないそうです。これは別名“インターセックス”とも呼ばれていますが、インターセックスは一方の性の特徴が他方の性の特徴より顕著に見られる場合に使われているようで、その意味では人間みんな程度の差はあれ基本的にはインターセックスですね。」

{注}hermaphroditeは今日では死語となり、通常はintersexが使われています。

Q.あなたの手術、つまり性転換はもう完成していると思ってよいですか。今後の経過の見通しなどもついていますか。

「肉体的な面ではもうすべて終わっています。もちろん子供を産むことはできませんが、普通の性行為をするのは問題ありません。まあ、言ってみれば子宮摘出した女性のようなものですね、ハハハ。」

Q.女性用のトイレに入るときには、他の女性たちはあなたを女性として受け入れてくれますか。

「まったく問題ありません。自然におしゃべりしたりすることがよくありますが、トイレの中ではセックスに関する話しにはあまり興味はないですね。(笑い)」

Q.ホルモン剤の身体に及ぼす影響についてですが、あなたはホルモン剤は摂取していますか。

「ホルモン剤は飲んでいますが、あまり規則的にではありません。本当は毎日飲む方がよいのですが、ホルモン摂取は資格のある医師の指導のもとでのみするべきです。」

Q.ホルモン剤は身体の特定の部分の女性化に変化をもたらしますね。

「男性ホルモンであれ女性ホルモンであれ、それぞれの肉体的な特徴や外形を強調する作用があります。私の場合はとくにすべての部分が小さいですからなおさら必要です。」

Q.舞台や映画にでる女性は身体の曲線を際立たせるためにパディングすると聞きますが、あなたの場合はどうですか。

「笑い)私も舞台に上がるときにはパディングします。それに加えて25から30ポンド(約13kg)の重さの衣装を身につけるのは身体にたいへんな負担がかかります。それに、最近の時代の傾向として統計的にも現れていますが、一般の女性でバストのサイズを意識する女性が多く、コンプレックスをもつ女性が手術を受けるケースが増えているのが気になります。美容のための豊胸手術はたいへん危険な手術だと私は聞いています。」

Q.あなた自身はなにか美容整形手術はしましたか。

「美容整形は一カ所だけ。それは胸ではなく、耳です。私の耳は“ドアを開けて走るタクシー”とからかわれるほど大きく出っ張っていて、子供の頃からコンプレックスをもっていました。デンマークに行ったときとても親切な形成外科医と知り合いになり、簡単な手術で直せるからと勧められ外来で整形手術を受けました。実際に信じられないほど簡単に問題が解決してとてもうれしかったです。」

Q.あなたは名声とともに悪名もふくめて世界的にセンセーションを巻き起こした存在になったわけですが、ご自分としてはどのように受け止めていますか。

「1952年12月5日に最初のニュース種になった直後は、私も大変なショックで驚きもしました。しかし、その後の世間の反響は意外にも好意的で、私の人生にどういうことが起こったのか興味をもつひとが多かったのです。時間の経過とともに、私がヨーロッパで受けたような手術が受けられるかどうかは別としても、同じような悩みをもつ多くのひとたちにとっては、私のケースが重要な意味をもつステップだと理解されはじめたのです。」

Q.新聞の見出しに「ブロンド美人の元GI」という表現が使われていますが、これはどう受け止めますか。

「そう言われてうれしく思う面もありますが、ただ元GIという言い方にはちょっと抵抗を感じます。それは“元GI”という表現には、なにか悪いニュアンスが込められていると感じられるからです。」

Q.今までに人を愛した経験はありますか。それは男として、それとも女性としてですか。

「愛にはいろいろな意味合いがありますが、今までの人生で2回だけ真剣な愛を経験したことがあります。いずれの場合も結婚には至りませんでしたが。男性としては完全な身体でなかったことも事実で、男としてというよりは、男性の服装をした人間としての愛です。愛にはたいへんパワフルな意味があります。ヨーロッパに渡って手術を受けたのも、中途半端な人生ではなく、フルに人生を生きたいという思いがあったからです。」

Q.手術する以前から演劇に興味をもっていましたか。

「そうです。写真と映画にはずっと興味があって、ヨーロッパで手術を受ける前までの仕事も、雑誌のカバー写真や映画関係などの仕事が中心でした。その当時は自分が公衆の面前に出ることは考えられなかったので、その裏側の仕事に興味をもっていたのではないかと思っています。大学を出てからも写真専門学校で学びました。今後も写真は趣味として続けて行きたいし、舞台の仕事にも興味があります。

Q.あなたが舞台に出るときはホモセクシュアルの観客が多いですか。またホモの友人も多いですか。

「いいえ、観客の中にはそういう人も交じっているかもしれませんが、主にごく普通の中年の夫婦連れが多いように思います。芸能界にはたしかにホモセクシュアルが多いのは事実ですが、その理由は同性愛者は自らが社会的な差別意識の中で生きているので、感受性がするどく、洞察力があり、すぐれた演技者であることが多いからだと思います。」

Q.同性愛の問題についてあなた自身はどう考えていますか。

「個人的には同性愛が社会にとって問題だとはぜんぜん思っていません。性的異常者や幼児に対する性的犯罪に同性愛者が係わっていることが多いという誤解が世間にはあるようですが、見識のある精神科医に聞いてみればこんな誤解は一笑されるはずです。もちろん、例外はあるでしょうが、現実的に同性愛者が社会的に害を及ぼすことは全然ありません。ただ一つ問題になるのは、みんなが同性愛者になってしまうと、次の世代をになう子供が生まれなくなってしまうことですね。(笑い)」

Q.少し前までは、ワシントンの政界では秘密保持に係わる職務にはホモを雇用してはならないという規則があったようですね。つまり、ホモを理由に脅迫されたりして政府の機密を漏らす危険性があるという理由だと思いますが。どう思われますか。

「同性愛自体が問題なのではなく、社会が同性愛者をどう見ているかが問題にされるべきだと私は思います。同性愛には男性も女性もいますが、同性愛者はたえず社会から疎外され、精神的な迫害にさらされています。その弱みを利用されるからだと思います。」

Q.酔っぱらって女装したりする男もいますが、あなたの場合は女装するとどういう気分になるのですか。

「たいへん快適に感じますね。衣服は単なる習慣だとも言えなくはないですが、自然な自分にもどったという感じになります。」

Q.世の中には自分が女であるという妄想癖にとりつかれている人たちがいると聞きますが。

「人間は一人ひとり異なった存在ですから、一人の個人は他の個人と同じではないのです。世間ではグループとして一緒くたに扱っていますが、医学的な教養のある人なら個々の患者はそれぞれ違った性癖をもった存在だと知っているはずです。」

Q.世間にはいろいろな人がいるので、ナイトクラブのステージで観客からいやがらせとか、街頭で罵声を浴びるというような扱いを受けたことはありませんか。

「お酒を飲むナイトクラブでは男性より女性の酔っぱらいが扱いづらいものですが、実際には侮辱的な思いをさせられた経験はまずありません。それどころか、面と向かってはいろんな人たちから好意的なコメントを頂くことが多いです。ただ一回だけ南アメリカを旅行したときに、街頭の人混みの中でわたしの身体に触ろうとした人がいましたが、周囲にいた人たちが中に入って防いでくれたので何事もなかったです。」

Q.男性からデートしたいと言い寄られたりすることがあると思いますが。

「たいていの女性も経験があるように、声をかけてくる男性はいます。しかし、ほとんどの場合やさしい配慮ある態度で、いやな思いをしたことはありません。彼らは抱いている好奇心や自分なりの疑問を解くためにわたしに近寄ってくるのではないかと思いますが、わたしはべつに気にしていません。座って一緒におしゃべりすることもあります。」

以下(Part 2)に続く。

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