2008年5月31日土曜日

ホルモンによる性転換(2)

ホルモンによる性転換(2)


《FTMの場合》
女性から男性へのトランスセクシュアルのホルモン治療の目的は、男性化を促すことです。男性型の体毛と男性的体型の促進、そして月経の停止です。ホルモン治療の中心はテストステロン投与です。従来は2週間ごとの筋肉注射が一般的であったが、最近は経皮テストステロン・ジェルが使用可能になってきている。時たま月経時の出血が止まらないことがあるが、黄体ホルモン薬の追加投与が必要になる。経皮テストステロン製剤を使用する場合には、必ずと言っていいほど黄体ホルモン薬の追加が必要となると考えてよいでしょう。

ホルモン治療の効果
FTMの場合には次のような効果が期待できます。

●体毛
体毛についてはほぼ思春期の男性と似通ったパターンの発育が見られます。口ひげ、あごひげ、頬ひげ、などです。多毛症の傾向については、同じ家族の男性の多毛のパターンとその程度からだいたい予測できます。男性ホルモン性の脱毛症についても同じことが言えます。

●声の変化
アンドロゲン投与開始から6週間から10週間後に低音音域が増してきて、もう元には戻りません。アンドロゲン投与は皮下脂肪の減少を招きますが、腹部脂肪は増大してきます。除脂肪体重の増加は平均4キロですが、体重そのものの増加はもっと大きくなります。

●にきび
にきびは40%のケースで起こり、とくに背中に目立つことが多い。これは、通常の思春期を過ぎた年齢で性腺機能低下のためアンドロゲン治療を始めた男性のケースに類似している。

●陰核の増大
クリトリスの増大はすべてのケースで見られるが、その程度には差がある。およそ5-8%のケースでは、膣性交が可能になる大きさになる。

●性欲
ほとんどの対象者が性欲亢進を体感している。

その他
●アンドロゲン投与により乳腺活動は減少するが、乳房のサイズの縮小には影響しない。

●卵巣摘出手術の後も男性化の維持と骨粗鬆症の予防のため、アンドロゲン投与は続ける必要がある。

●血清LH(黄体形成ホルモン)濃度を基準値内に抑えることにより、アンドロゲン投与が適切に行われているかどうかの目安になる。


■ホルモン治療の合併症

●静脈血栓症
手術中の長時間の肉体的活動束縛が血栓症のリスク要因であるので(エコノミー症候群のように)、性転換手術を受ける場合には2,3週間前にエストロゲン投与を中止した方がよい。手術後に行動の自由が回復するとエストロゲン投与を再び続けることができる。

●アテローム性動脈硬化症
心臓血管系の疾患については男女の間に相当の差があると期待されるのも無理ないが、実際のリスクについてはまだ実証されていないのが現状です。MTFへのエストロゲンとFTMへのアンドロゲン投与の効果について生化学的なリスクマーカーが研究されたが、アンドロゲンよりもエストロゲン投与の方がよりネガティブな結果がでたと報告されている。

●乳ガン、前立腺ガン、卵巣ガン(FTM)、などが合併症として起こりうると言われているが、医学的な根拠が確立されているわけではない。しかし、これらの可能性には注意を払う必要がある。

●禁忌
ホルモン治療には上に述べたような合併症の可能性があるので、エストロゲン投与の禁忌とされるのは、家族に乳ガンの症例のある場合。アンドロゲン投与の禁忌は心臓血管系の合併症を伴う脂質障害のある場合。高濃度の性ステロイド剤の使用上の禁忌は、心血管系の障害、脳血管系の疾患、血栓塞栓性疾患、顕著な肥満、コントロール出来ていない糖尿病、そして活動性肝炎などです。

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ホルモンによる性転換(1)

ホルモンによる性転換(1)

GID患者が性別適合手術(SRS)を目指すに当たって、その第一歩となるのがホルモン治療です。アメリカでは7歳の少年時代から治療を始めるという動きがあることを先回の投稿でとりあげたので、そのホルモン治療についてあらためて勉強せざるを得なくなりました。

以下にまとめたのは、2004年にバンコクで開催された「オリエンタル美容整形国際学会」後の性転換手術に関するポストコングレス・ワークショップでの講義からのものです。講師はオランダの内分泌専門家、ルイス・グーレン博士です。
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ホルモン治療には二つの目的があります。
〔その1〕まずホルモン分泌による元の性の二次性徴をできるだけ減少させることです。ただ、元の性の特徴を完全に解消するのはまず期待できません・・・たとえば、背丈、手のサイズや形、あごの形、ヒップの形状、などはホルモン治療によっても生来のホルモン分泌の影響を消し去ることはできません。

〔その2〕新しい性の二次性徴を強化することです。

《MTFの場合》
●体毛の除去、乳房の発達、女性的な脂肪分布の促進が基本ポイントになる。これらを達成するには、生来の男性ホルモンであるアンドロゲンを完全といえる程度に除去することです。女性ホルモンであるエストロゲン投与だけでも、男性の性腺刺激ホルモンの生成、つまりアンドロゲンの産出を抑制できるが、アンドロゲン抑制成分の投与と平行して同時にエストロゲン産出を促す療法を行う方がもっと効果が高い。

●アンドロゲンについて
アンドロゲンの産出や作用を抑制する薬は国や地域により入手できるものが違うので、医師または薬局に相談することです。

●エストロゲンについて
これも多くの種類があり、経口タイプか注射タイプに大別されます。薬によっては静脈血栓症を起こす危険もあるため、とくに40歳以上の人は医師の指導に従うなど注意した方がよいでしょう。

■ホルモン治療の効果
MTFの場合には次のような効果が期待できます。

●体毛について。
大人の顔のひげはホルモン治療に抵抗力が強く効果が少ないことが多い。とくに白人男性の場合には永久脱毛法などの追加処置が必要になります。他の部分の体毛はもっと効果的に反応します。

●乳房の発達
エストロゲン投与を開始するとすぐに乳腺の発達が始まり、大きくなったり一時止まったりのサイクルをくりかえします。アンドロゲンは乳腺の生育を抑制する働きをするので、エストロゲンはアンドロゲンの作用の及ばない環境でもっともその効果を発揮します。男性の胸部のサイズや背丈を考えると、エストロゲン治療により得られるサイズでは釣り合いがとれない場合が多く、さらに整形手術による豊胸術を希望する患者が多いようです。また年齢が高い患者の場合には乳腺の発達が限定されます。

●皮膚について
アンドロゲンの喪失により皮脂腺の活動が低下するため、ドライスキンやつめが割れやすくなることがあります。

●体型への影響
アンドロゲン喪失により皮下脂肪の増大と筋肉の減少が起こります。通常は体重も増えます。

●精巣の変化
性腺への刺激がなくなるために、精巣(睾丸)が萎縮して鼠径管に引っ込んでしまうことがあり、これを不快に感じることもある。

●前立腺
前立腺の萎縮によって排尿後に尿漏れを起こすこともあるが、大抵は一時的な症状です。

●音声への影響
エストロゲンも抗アンドロゲンの投与も声の調子に変化を及ぼすことはありません。言語療法の専門家から指導を受けるのがよいでしょう。男性的な声というのはピッチの高低ではなく、胸部の共振と声量により決まるものです。俳優になったつもりで女性の発声法を練習するのは一番現実的な方法です。咽頭部切開による声帯手術は声のピッチを変えることはできますが、声量は減少し、術後どういう声になるかは予測できません。

●長期ホルモン治療
性転換手術後もホルモン治療は続けなければなりません。精巣摘出だけの場合も同様です。男性特有の体毛が生え続ける患者の場合には、量を減らした抗アンドロゲンの投与が有効なことがあります。エストロゲン投与を継続するのは非常に重要なことで、ホルモン欠乏の諸症状を防ぐためだけでなく、骨粗鬆症を予防するという重要な役割があるからです。MTFの場合には、エストロゲン投与だけでも十分な骨量の維持が可能であることが医学的に証明されています。
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(続きはその2へ)


2008年5月23日金曜日

7歳の子供から性転換への道を!

7歳の子供から性転換への道を!

これはアメリカの話しです。5月21日のCNNネット版で見ましたが、キャスターはちょっとこのニュースに疑問をはさみ、医学関係者はその意義を強調していました。気になったのでCNN上で検索してみると、もう賛否両論が世界を飛びかっているようなので、以下にかいつまんで紹介させて頂きます。

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「ボストン小児科病院」の小児科専門医ノーマン・スパック医師が性転換症の子供への治療を手がけていたのは以前から知られていたが、その治療対象を7歳まで広げると発表したことが新たな波紋の発端です。

治療の第一ステップは、カウンセリング及び薬物治療によって二次性徴の発現時期を3,4年遅らせることにより、その間自分が本当に反対の性を望んでいるのか決定する時間を与えること。(この段階ではまだ後戻りは可能と解釈できます)

治療の第二ステップは、16歳くらいから反対の性に変わる準備を始めて、ホルモン治療により見分けがつかないほど自然な成熟した女性又は男性になることができる。この段階ではもちろん男女ともに不妊となるので、後戻りは許されない。

スパック医師は、「男性であれ女性であれ環境に自由に適応していけるので、これはまったく驚くほどです」、と述べているのは余程の自信があるからでしょうか。

ところで、ここまでのニュースでは「患者」(つまり子供)のことばかりで、保護者である親の話が取り上げられていないのは気になります。SRSのこともCNNだけでなく、参考にしたブロッグにも話題にされていません。SRSは必ずしも必要ではないとしても、それにぜんぜんふれないで性転換症治療を語るのもおかしな話しです。

以下はこのニュースに寄せられた賛否両論の一部です。
●ジョンズ・ホプキンス大学精神科のマクヒュー博士は、「思春期の到来を遅らせたり性意識を変えさせる試みなどは自然の法則への反逆である」。「子供に対する性転換は、教会の合唱隊の少年たちがハイピッチ領域の声を維持するために行われた去勢と同じような、暗黒時代の野蛮な行為だ」

●法律専門家は、たとえ病院と両親の間で同意書を取り交わしたとしても、ホルモン治療の結果として子供が不妊になれば訴訟沙汰になる事態は避けられないだろうと見ている。「最新医学の成果だからといって、それを直ちに実行に移してもかまわない、ということにはならないだろう」

●あるブログへの書き込みには、「これはデザイナー・チルドレン流行のはしりで、利益を得るのは子供ではなく、本当は男の子でなく女の子(またはその逆)が欲しかった親の欲求を満たすためのものだ」

●大人が性転換症のカウンセリングを受けるのは理解できるが、7歳の子供が同じようなカウンセリングを受け、それから得るものがあるとは想像しにくい。もし親の動機からそうなるなら、病院と医師の利益とも合致するわけだけから細かいことは見過ごすことになるだろう」

●性転換症の本当の原因はまだ判明していない。7歳の男の子で自分が女の子だと思っている子供のうち何人が20歳になってもそう思っているのか、まだ知られていないのだ。

●ホルモン治療は子供の体に強い医学的作用を及ぼす。長期の体と精神に与える影響はまだだれも知らないのだ。健康上の治療の理由もない場合には濫用としか言いようがない。20年後にガンにならない保証はどこにもない。感情と精神への影響は?性転換症にも悪影響はないのか?新しすぎてなにも答えはないのだ。

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・・・など、疑問視する意見も多いのは無理ないと思います。反対を恐れず、思ったことを実行してみるのもアメリカらしいところです。私見ながら、また非当事者の立場ながら、自分が本当のGIDかどうかは本人自身が一番よく知っているのではないか、たとえ7歳の子供であろうとも・・・と思います。

7歳で治療を始めるとしても、小学生の本人がこれから社会にどう適応していくか、興味ある試みであることは間違いないでしょう。何事にもリスクを恐れるニッポンでは考えられないことだけに、ボストン小児科病院での性転換症治療プログラム、どういう展開になるか今後の進展に興味が持たれます。

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2008年5月1日木曜日

オーストラリア、100件の法律改正でゲイ差別撤廃へ

オーストラリア、100件の法律改正でゲイ差別撤廃へ

性同一性障害については世界の先進国では法的な整備が行われていて、日本でもまだ十分とは言えなくてもかなりの主張が認められて、社会的な権利や保護が受けられるようになってきました。これはやはり、他の先進国と同じように当事者たちの長年の努力と政治への働きかけが認められた結果だと思います。

ところで、同性愛についてはどうでしょうか。日本では、同性愛に関する法律がなく、人権の保護もなければ、同性愛行為への処罰もありません。同性愛は病気ではないため、1993年にWHOは「国際疾病分類」で治療の対象とはみなさないと宣言し、日本の厚生省もそれを採択しています。病気でないのは納得するとして、果たして何の人権保護も必要とされないのでしょうか。

先進国では同性愛者の権利拡大を求める運動が続いていますが、日本ではおとなしい気がします。日本の同性愛者たちは現状で満足なのでしょうか。ともあれ、オーストラリアでのごく最近の動きをご紹介いたしますので、参考になれば幸いです。
(4月30日掲載のバンコクポスト紙記事より)

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ゲイの同居カップルに対する差別を撤廃する連邦法改正が動き出すことになった。ただ、同性同士の結婚は除外される見通しと、4月30日付けでオーストラリア政府が発表した。

この改正では、長期のゲイの同居カップルは課税、社会保障、年金の支払いなどの面で、結婚したカップルと同様に扱われることになると、司法長官は述べている。

ゲイ同士の結婚は多くのオーストラリア人の間で物議を醸してきた問題であり、ゲイ権利推進グループや支援者たちはこの問題への政府の態度が、差別に終止符を打つ意志を試す試金石になると言っている。しかし司法長官は、婚姻法は今回の法律改正には含まれておらず、政府の見解はあくまで結婚は男と女の間でのみ成立するものだということです。

今回の改正立法の対象になる約100件の案件は、来月から議会にかけられ、すべて完了するのは2009年半ばと見られている。

改正となる法律の数例をあげると、ゲイのカップルが育てている子供は二人の大人の扶養家族とみなし、課税時や失業保険給付の際に考慮される。また、同性のカップルは年金の対象としては家族と同じ扱いを受けることになる。

ゲイ権利推進グループはこのような進展を歓迎しているものの、政府はもっと踏み込んで、ゲイ同士の結婚を認めるべきだと主張している。「オーストラリアのゲイとレズビアンは自分たちが選ぶパートナーとの結婚が認められないかぎり完全な平等とはいえない」、と活動家グループの代表がABC放送のインタビューに答えている。

今回の法律改正のほとんどは州レベルではすでに実施ずみで、それを連邦政府が追認しようとする形になっている。しかし、連邦婚姻法には結婚は男と女の間のみに許されると規定されているため、州レベルでも事実上の夫婦として一定の法的保護が認められているにすぎないのが現状である。

ヨーロッパの多くの国では、同性のカップルに一定の法的権利を認めているが、ゲイ同士の結婚を認める国は例外的な少数にすぎない。アメリカにおいても、州によっては同性カップルの生活上の権利は認められていても、ほとんどの州で同性結婚や結婚宣誓を禁じている。

Bangkok Post; 2008-04-30;Ⓒ2008 The Associated Press. All rights reserved.

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≪補足≫
スウェーデン、デンマーク、ノルウエー、オランダでは、同性愛カップルの事実上の結婚生活が法的に認知されている。

キリスト教国にも教義上の理由から同性愛を否定したり、警察や軍隊においては禁止する規定がある国もある。アメリカでも保守的な南部では、同性愛の現行犯逮捕を認める州もある。最近では、聖職者の同性愛が話題になるのもめずらしくなく、全体としては合法化の流れにあると言える。

イスラム文化圏では同性愛を認めない国が多く、禁固刑やイランのように再犯の場合には死刑にする国もある。アジアの穏健派のイスラム国であるマレーシアやインドネシアでは、イスラム教義の厳格な適用はせず、(一部の保守的な地域をのぞき)事実上黙認している。

タイや日本などの仏教国では伝統的に同性愛には寛大で、迫害を伴うような社会的な問題となったことは歴史上なかった。ただし、問題にならなかったことが妨げとなり、法的な人権保護という観点からはその必要性が理解されにくいというジレンマに直面しているように思われる。

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