2008年7月9日水曜日

「レディーボーイ」の入るトイレの話

「レディーボーイ」の入るトイレの話(タイの話題)

タイはGID当事者への対応においては一歩先を進んでいる先進国です。法律的な面では日本の方がより整備されているものの、GID当事者の社会進出や人々の寛容度においてはタイ社会はおおらかです。7月7日付けの米タイム誌(CNNネット版)に興味深い記事がありましたのでご紹介いたします。

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Where the Ladyboys Are – by Hannah Beech, July 7, 2008

トランスジェンダーの人たちにとって人生はいろいろやっかいな面が多いですが、どっちのトイレに入るか、「男」か「女か」、に迷うことだけはしたくないものです。ここタイ北部の田舎町にあるカンパン高校の学生にとってうれしいニュースは、もうひとつの選択肢が用意されたことです。今年5月からトイレのドアに使われるようになった新しいシンボルマークです。それは人間の身体が縦に2色に色分けされ、ブルーの側はズボン、そして赤い半分はスカートにデザインされたものです。カンポン高校の校長の説明では、2,500人の生徒の意見調査をしたところ、約10%近い生徒が自分はトランスジェンダーであると表明したからだそうです。

仏教徒が大多数をしめるタイでは、トランスジェンダーには世界でもっとも寛容な態度を示していて、タイの言葉で「カトーイ」と呼び、英語では「レディーボーイ」として広く通用しています。このタイ語の呼び名は正確な英語の翻訳はないものの、男として生まれながら、女の心をもつ人たちのことを指して使われています。「カトーイ」はクロスドレッサーから性転換手術を終えている人も含めて、広い意味で使われます。

カトーイはある種の社会的な制約や官僚的なハードルに直面することはあります。例えば、すでに性転換手術を済ませていても、タイ国民が社会生活上いつも携帯しなければいけないIDカードには、依然として「男」としか記載されません。記者の利用するバンコクの旅行代理店にはカトーイが何人か働いているし、近くの食品店のレジ係は日ごとに女性らしい姿に変身しつつあるのが見て取れます。官庁である移民局のビザ更新係にはのど仏があり、目立つマスカラを付けていました。カトーイはテレビのラブコメディーの常連であり、ファッションショーのモデルとして人気があり、全員がカトーイのポップミュージシャングループが電波をにぎわしている。スポーツ分野での活躍ぶりもめざましく、キックボクシングで倒した相手に「ゴメンね」とキスをするチャンピオンや、1990年代半ばにはバレーボールのカトーイチームが全国制覇のチャンピオンとなり「アイアン(鉄)レディーズ」と喝采をあびた。

カトーイの生徒に配慮したのはカンパン高校が最初というわけではなく、数年前に北部の都市チェンマイの工科大学が「ピンク・ロータス」と名付けたトイレを導入したのが最初らしい。今ではタイの教育省が、国内の大学レベルでも同様のトイレ設備や、学生寮を導入すべく検討しているとか。ただ、多くの大学キャンパス内ではレディーボーイ達は男性の服装をしなければならない規則があるものの、ヘアスタイルやアクセサリー、ネイルポリッシュ、メーキャップは自由とされている。

カトーイの中には特別配慮したトイレなどいらないから、それよりもカトーイが才能を発揮できるのは美形がもてはやされるエンターテイメントの世界、広い意味でのセックス産業、であるという社会通念を変えるための活動にもっと資金を使ってほしい、という意見も多い。たしかに職業選択についての偏見はあり、教育大学などではカトーイの学生の入学は認めていない。

しかし、タイはアメリカなどに比べるとはるかに開かれた社会になっている。その寛容さはリベラルな雰囲気のある都市部だけに見られる現象ではなく、カトーイの美人コンテストなどは田舎でも盛んに行われている。今回紹介したカンポン高校は、タイでも最も貧しいとされている地方の学校なのです。タイの山岳民族の創造伝説には、天地の始めには、女と男と、そして両者がからみ合った三つの性があったと言い伝えられているそうです。カンポン高校のトイレのシンボルに似ていませんか?

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ビーチ記者のレポートにあるように、タイのTGやTSはあらゆる場所で見かけます。だれも特別の眼で見ていない感じです。ただ美形のTSらしき人が歩いていると、とくに女性たちがうらやましそうな目つきで姿を追っているのが印象に残りました。バンコクの医師の話では、12歳くらいからホルモン治療を始めるGID当事者も多く、20歳前後でSRSを受けた場合には美形の女性になれる可能性も高いとのことでした。

「カトーイ」はあくまでMTFを指しています。タイにもFTMの当事者がいるのは当然ですが、話題にのぼらないのが不思議です。私自身もタイでFTMの人に会ったことはありません。社会的にまだクロゼットから出にくい雰囲気があるのかもしれません。タイのFTMについては私もうっかりして注意を向けていなかったので、今後調べてわかったことはまた報告しましょう。

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