2012年2月29日水曜日

妖艶なモデルは男性だった!


男と女の境界をスイスイと行き来するスーパーモデル

キャットウォークの注目を一身にあつめるモデルはなんと男だった。女性ファッション、男性モードであろうと、どちらのジェンダーにもなれる不思議な魅力のモデル、アンドレジ・ペジクにいま世界の注目が集まっています。

マレーシアの英字紙 "The Star"(2月16日版)に取り上げられた特集記事です。(記事はAP通信Bonny Ghoshより)

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スーパーモデル誕生
ある冬の寒い日の午後、マンハッタンのカフェで、長い脚をくみ優雅に腰をおろしているのはアンドレジ・ペジク。青い眼のファッションモデルはアールグレイ紅茶を飲みながら窓の外を眺めている、近くのテーブルに座る男たちの視線が彼女にくぎつけになっているのも知らないかのように。

黒皮のジャケットを着た男が歩道の窓際に近づき、ガラス窓に顔をつけキスをする。ペジクはくすくす笑いながら、”べつに悪い気はしないわ”、と無邪気である。

彼女に視線をむける男たちも、この美しいブロンド女が実際は男であることは恐らく気がついてないだろう。

ニューヨークで始まったファッションウィークでは、ペジクはもっとも注目を集めるモデルであると同時に、賛否両論の的になる存在なのである。彼は会場のキャットウォークを男としても女としても闊歩できるただ一人のトップクラスのモデルなのだ。

その両性具有を思わせる美形は、たえず限界にいどむファッション業界のトレンドセッターに押しあげたのである。

ドイツのファッション雑誌のカバーに彼を起用したスタイリストのカイリー・アンダーソンによると、”彼はだれもがその一切れでも欲しがるような美しい存在なんです。”

彼の顔を見ると、どんなに自分の美貌にうぬぼれている女性でも嫉妬にかられるだろう。高いほほ骨、しみひとつない肌、肉感的で形のよい唇。ただ話すときだけ,わずかにふくらんだのど仏が男性の証をしめすのみである。

ペジクは女になろうとしているわけではないが、トランスジェンダーに属する人の多くはすでに彼を同じ仲間とみなしている。ペジクは自らのセクシュアリティを説明したり、正当化する必要を感じることなく、両性を自然に内包してしている、ちょっとした英雄的存在とみられているのだ。

昨年のこと、ゲイ・レズビアン雑誌「OUT」は、今年の”スタイルメーカー”と名づけ、表紙をがざる写真にはヴェールをかぶり髪には花をあしらったブライダル衣裳のペジクを起用した。

昨年だけでも14誌の表紙をかざったペジクだが、フランスのデザイナー、ゴルティエはジェンダーを凌駕するペジクの容姿に惚れこみ、メンズ&ウィメンズショーのインスピレーションを得て、実際にペジク自身が両方のモデルとして登場したほどだった。ゴルティエのメンズショーでは、”ジェームズ・ブロンド”としてピストルをもち黒いジャケットの胸をはだけるダンディーな姿を披露したのだった。

一方のウィメンズショーではその強力なコントラストとして、ゴルティエの逸品作であるブライダルドレスに身をまとったペジクを披露したのである。

フランスの写真家セバスチャン・ミックは、ペジクは意識的に努力することなく女性になれる才能がある、スーパーモデルだけがもつカメラの前の自然なポーズのとり方、その動きのしなやかさは真似しようとしてできるものではない、と絶賛している。

ペジクの生い立ち
だが、この20歳の若者のここに至る人生はなまやさしいものではなかった。東欧の民族紛争の地ボズニアに生まれ、子供時代の大半をセルビアの難民キャンプで過ごしたペジクは、家族ともども逃げるようにオーストラリアに移住した。まだ10代でマクドナルドで働いているときにタレントスカウトに発見されたのが幸運となった。

幼少の頃から世間の目で見る女の子の特質を示し、車のおもちゃよりバービードールを好んだ。ティーンエイジャーとしては女の子たちと遊ぶのを好み、ドラッグストから化粧品を盗んで捕まったこともある。ペジクの言うには、友人たちや家族からもありのままの自分で受け入れられていたので、違和感はなく居心地がよかった。

身長183センチの長身痩躯、服は女サイズで2か4。靴のサイズがもっとも難点で、実際には女サイズでは11であるが、ウィメンズショーで歩くために無理してサイズ10に足を合わせている。
  
この一年間は気ちがいじみたメディアの注目を集め、メディア評論家はペジクは露出過剰になるリスクをはらんでいると警告する。他人には真似できない特有のルックスもあるため、ペジクがこの業界で今後もスターの座を維持するのはむずかしくなるかもしれない。

彼の人気度が高まるにつれ、デザイナーたちは彼の個性がデザインした衣裳の影を薄めてしまうのではないかと危惧し、ペジクの起用をためらうのではないかとの見方もあるからである。

ペジク自身はこのファッションビジネスの移り気の速さは百も承知である。この仕事のために
オーストラリアでの大学入学を遅らせた経緯もあるので、もしファッションの仕事に見切りをつけるときが来れば、大学に入り経済学か法律を勉強したいと考えている。

どんな話題でもオープンに話しに乗ってくるペジクであるが、自身のセクシュアリティ指向については口が堅い。恋愛の相手としては男がいいか女がいいかと聞くと、はにかんだ表情で”愛には境界線はないのよ”とだけ答えた。

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<感想>
生まれながら両性に通じるような容姿で成長した人もけっこういるものです。アンドレージ・ペジクはその好例といえるでしょう。

このモデルはトランスセクシュアルであっても、当面は性転換手術などには興味は示さないのではないかと思います。恵まれたルックスと才能を発揮して、男と女の間を自由に行き来できる自由を謳歌して欲しいですね。セクシュアリティについては自分が一番よく知っているはずなので、時が熟せばふさわしい行動を取ることでしょう。

男と女の境界など内面の世界ではあってなきようなもの。トランスセクシュアルならその内面の境界はすでに融解しているはず。内面と肉体との違いは手術でなんとか乗り越えられる。アンドレジ・ペジクの場合は、おそらく当面は男と女と境界を行ったりきたりで脚光をあびる生活を送り、また楽しみ、時期がきたらさっさと別の世界に飛び込んでいける、という才能をもっている人なのでしょう。

やはり、世の中美形に生まれるのは恵まれた存在です。その美形は一生続くものではないとの自覚があればよし。美形でないものは、なにか打ち込める対象をもち、それに集中して楽しめる境地になれば、人目を気にせずとも自らが満足できる生き方があるはずです。

なにはともあれ、アンドレジ・ペジクは衝撃的な印象です。まさに、Man, he's beautiful!

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