2007年1月21日日曜日

SRSロードマップ

SRSへの道のりは長く、けわしいものです。幼いときから人から変な目で見られたり、家族や友人関係にも悩み、社会的にも疎外された経験をGID当事者ならだれもが持っています。自分の責任ではないものの、自己嫌悪に陥る人もいます。しかし、いったんSRSという目標ができたら、自分の今の位置を客観的にとらえて、冷静に行動できます。日本だけでも4-5万人のGID当事者が存在すると推測されていますので、相談する相手も意外に身近に見つかるかもしれません。

トランスセクシュアルとしてこの世に生を受けた人たちは、長い旅路を経てたどり着かなければならない目的地があります。その目的地は人により違いますが、どこに向かうべきか、そこにたどり着くまでに何をしなければならないか、どれだけの時間がかかるのか、どれだけお金を準備する必要があるのか。気の遠くなるほどクリアしなければならない通過点が多いのです。まず自分が今どこの地点にいるのかを知ることが、今後の計画を立てる上に欠かせません。このロードマップを参考として、達成可能な、より現実的なプラン作りに役立ててください。

精神科医の診断
自分ではGID(性同一性障害)と分かっていても、専門家に客観的な立場からGIDであることを認定してもらうことが、手術を含む今後の医学的な治療のために欠かせない第一歩となります。精神科医のGID認定なしには日本はおろか、外国の医療機関でも国際的なガイドラインに沿ったSRSは出来ません。この認定が下りるまでには一年以上の期間を要することもありますので、できるだけ早い時期に精神科医を訪れることをおすすめします。ただ注意しなければいけないのは、精神科医なら誰でもよいというわけではありません。GID診断の経験のない医師もおります。医師の言動によりかえって精神的に傷つく場合もありますので、事前に医師の診断経験を確認したうえで診察を受けるようにしてください。
(各地の経験ある精神科医のリスト参照)

ホルモン治療の開始
精神科医のGID診断を得てからホルモン治療に進むのが常道です。ホルモン治療を始めるとゆっくりと身体の女性化が始まります。皮膚はソフトになり、身体の脂肪配分に変化がおき、顔面の表情もやわらかくなり、気分の変化や、頭髪の抜け毛が止まったり、体毛が少なくなる、などの変化が現れます。しかし変化はゆっくりしたもので、魔法のように女性化するわけではありませんので過大な期待はするべきではありません。外観の女性化のキーポイントは、(1)ひげの除去、(2)声の質、(3)顔、の3点につきます。
また、ホルモン治療を始めると子孫を残す能力は失われますので、とくに一人っ子の場合などには事前に親の了解を得ておく方が賢明だと思われますので留意してください。事後承諾では親のショックが大きく、以後の関係にひびが入り、必要なときに親の協力が得にくくなるかもしれません。

本来の性での生活体験(RLE)
HBIGDAなどの国際機関でもSRSに進む条件にあげられているのが、1年以上の女性としての実際の生活体験です。これはSRS後に違和感なく全面的に女性としての生活を送るために必要なことです。女性として振る舞うことに自分でぎこちなく感じるようでは周囲も違和感をもちます。周囲が違和感を懐くようでは自分も安心して女性の生活は送れません。SRS後の生活が順調に行くことは、本人の精神生活の安定にはぜったいに欠かせない条件です。
車の運転にたとえてみますと、まず週に一回程度の慣らし運転からはじめて、しだいに回数を増やして普通道路に出られるだけの技術を身につけ、そして昼間の大通りを堂々と走れるまでに習熟すれば合格、免許を持てます。決してスピードを出しすぎてはいけません。未熟ぶりが見破られると、自尊心が傷つけられると同時に、以後の行動が萎縮してしまいます。あせらずに時間をかけて服装やメーキャップ、立ち居振る舞いなどの研究をしてください。

身体の外観
身体の外観を女性化することは今後の準備のために非常に重要な意味があります。服装もふくめて、容姿・外観が周囲に女性として違和感を与えるようでは人間関係や社会関係をスムーズに維持するのがむずかしくなります。たとえSRSが達成できても、容姿や外観が周囲に抵抗感を与えるようではその後の生活が挫折してしまうかもしれません。服装と身のこなし方、脱毛、メーキャップ、声の出し方など、多くの課題をひとつひとつクリアするには準備期間や習熟期間も必要ですので、できるだけ早い時期に心構えをして取り組むべき課題だと思われます。そしてSRSを受ける前までに、外観には自らが違和感を持たない程度の自信をつけておくのが望ましいと思います。SRSが終わると待ったなしの本番の生活がはじまることを念頭に置いてください。

脱毛・除毛
顔は絶えず人目にさらす部分ですので、真っ先に取り組む必要があります。まずひげの脱毛ですが、カミソリでいくら剃っても夕方にはのびてきますので、永久脱毛しか方法がありません。電気脱毛法やレーザー脱毛法がありますので、それぞれの特長を研究してみてください。

顔の女性化
欧米人ほど顔に男女差がない日本人には必要ないかもしれませんが、一目で男性とわかる顔をしている人は大きなハンディを負っていることになり、それを手術で解決する方法もあります。SRSをしたかどうかは外観ではだれにも分かりませんが、顔は一日中隠すわけにはいきません。ほほ骨や顎、鼻などは美容整形手術でより女性的に修正することができます。女性の顔をもつことは大きな武器になり、職場でも個人的な人間関係においても自信をもって行動できますので、利回りの大きい自分への投資と考えてください。

声の女性化
男性的なのど仏は手術で修正が可能ですが、声の質そのものは手術で変えることは非常にむずかしく、現時点ではまず成功の確率は低いと思っていいでしょう。女性の声を出すためには、やはり昔ながらの方法、つまり、歌舞伎役者のようにピッチを変える訓練をすることです。時間はかかりますが、これが一番確実な方法ですので、気長に取り組んでください。

カミングアウト (両親、家族、友人、パートナー、職場)
これは非常に個人的な問題であり、それぞれ個人の状況が違うように、クリアしなければならない問題も違ってきます。当事者の長年感じてきた、たとえようもない違和感を誰に、いつ、どのように伝えるか、非常に慎重に考えて行動することが大切です。GIDは非常に複雑な現象であり、頭では理解してもらえたとしても、当事者のかかえる奥深い悩みはしょせん非当事者には理解の範囲をこえる話であることは最初から覚悟しておく必要があります。自分の存在を特別視することなくありのままに受け入れてくれるような人間関係になったら、まずカムアウトは成功したと思ってよいでしょう。

まだ若いGID当事者で、親と同居し経済的にも親に依存している場合には、カミングアウトが失敗すると経済的に困難な状況に追い込まれるかもしれません。まず家族を味方につけなければ、以後の取り組みが大変苦悩にみちたものになります。まず、家族が違和感をもちはじめたと感じたら率直に話してみたら前向きな協力関係ができるかもしれません。家族から拒否反応が出た後では、その後の取り組みがいっそう困難になります。

経済的に独立した大人であっても、すでに結婚していたり、親密なパートナーのいる場合には、できるだけ早期にカムアウトするべきだと思います。すでに結んだ大人同士の関係であるがゆえに、相手に自分の状況を正直に打ち明けるのが人間としてのフェアな態度です。カムアウトの結果としてパートナーを失うこともあるでしょうが、全員がそうなるわけでもありません。相手を失いたくない一心から、こんな重要なことを隠し続けるのは相手に対してフェアではありません。相手にも同じように大事な人生ですから、愛する相手なら尊重してあげるべきです。その決断には勇気がいりますが、一人で悩まずに精神科医にも相談して早期に心構えをしてください。

職場でのカムアウトにはまた違った配慮が必要になります。カムアウトを急ぎすぎたために、同僚や上司との関係がうまく行かなくなり、結果として職を失うケースもあり得ます。服装や言動には十分注意して、周囲から浮き上がらないようにしながら徐々に自分の存在に慣れさせる戦略が必要ではないでしょうか。職を失い経済的な基盤がなくなれば、SRSどころではなくなります。職場でのカムアウトは、例えばSRSを決意するなど、機が熟するまで待つこと、そして慎重の上にも慎重を期して取り組まなければならない課題だと思います。

情報集め
この数年はGID関連の出版物が多くなり、当事者だけでなく一般人もGID情報にふれる機会が増えているのは喜ばしいことです。またインターネットも情報源としては無視できない存在になっています。GID当事者の自助グループも各地にありますので、自分に合った方法で出来るだけ広く、偏らない情報を集めて判断の材料にしてください。当サイトのリンク先も参考にしてください。
(GID関連出版物リスト参照)

目標設定と資金準備開始
GID当事者がすべてSRSを希望するわけではありません。MTFの場合は女性として、FTMの人は男性として、問題なく生活できればそれ以上は求めないという人もいるはずです。しかし、どうしても精神的性と身体の性の不一致に我慢できない人は、その解決方法としてSRSは避けて通れないステップになります。SRS手術で世界的に有名なタイで手術すれば、日本にくらべれば大幅に安い経費でできますが、それでも100万円を超す資金準備が必要になります。さらにSRS前段階の準備として、日本の精神科医、ホルモン治療、脱毛、などの経費も予算に入れる必要があります。

SRSへの準備
それには医師の診断、カムアウト、SRSへの身体の準備、資金準備、SRS後の社会・人間関係など、多くのステップを踏んで行かなくてはなりません。また、SRSが終わればすべて問題が解決するわけではなく、念願だった本来の性となりその後どう生きていくかという課題は、普通人とは違った考え方が必要になると思います。SRSはあくまでGID当事者の多くが越えなければならない人生の一つの峠にすぎない、という長期的な視野が必要になります。

手術はタイで
日本での公式なSRSは1998年の埼玉医大が最初ですが、その後SRSを試みた大学病院は数校ありますが、手術実績は日本全体でもまだまだ50-60例に満たないのが現状です。SRSは最新の先端医療技術の応用しにくい分野でもあり、繊細な指先の技術と経験が大きくものをいう分野です。その意味ではアジア人の小さな手と繊細な技巧は、この分野では世界のトップ水準にすでに達していると言えます。

SRSに関してアジアの中でもっとも実績と経験のある国はタイです。タイをアジアのメディカルハブにするというタイ政府の国策もあり、とくに海外からの患者誘致には積極的で、病院の近代設備、清潔度、看護サービス、医療技術のどこをとっても日本には劣りません。一種のカルチャーショックを受けるほどです。日本での順番待ちを待ちきれない人が、オプションとして一番安心してSRSを受けられるのがタイで、すでにその実績は日本のGID当事者の間では周知の事実となっています。

医師の選定
どの手術でも同じですが、医師の経験年数と手術歴が大きな意味をもちます。SRSはもともとあるべきであったのに無かった物を新たに造りあげるという、繊細で熟練した技術を必要とする、しかも創造的な手術です。信頼できる技術をもった医師と、近代的な病院設備の完備した医療センターを選ぶのが賢明です。手術方法や医師の技量によっては手術時間が7時間に及ぶ場合もあり、血栓症などの合併症を起こす危険性も報告されていますので、手術方法や手術時間なども事前に調べた上で医師の選定をするのが賢明でしょう。

SRS関連経費予算 (バンコクPAIの例)
MTFの場合を例にとりますと、SRS手術費は7500ドルですが、バンコクまでの旅費、2週間の滞在費、現地コーディネーター費用、食費・交通費、アフターケア用品購入費、など概算で120万円ほどかかります。手術後一週間たてば外出も出来るようになり観光やショッピングも楽しめますので、その分余裕を持った予算計画が必要だと思われます。詳細については当サイトにお問い合わせください。

オプション手術 (豊胸、顔の女性化など)
SRSに関連して、MTFの場合には女性化をより完全なものにするためのオプション手術があります。豊胸手術、のど仏の縮小、鼻を含む顔の女性化、など美容整形分野の手術ですが、SRSと同時に行う方法もありますが、後日別途に行うこともできます。これらはあくまでご本人の必要度に応じて選ぶオプションですが、予算計画にも関係してきますので当初の全体プランの中で考えておく必要があります。

SRS後のケア
SRSの手術は退院すればそれで成功というわけではありません。自宅に帰ってからの6ヶ月間は自分の責任で術後のケアをしなければなりません。たとえば、MTFの場合の「ダイレーション」がつらいから、といって手抜きするとせっかくの手術の成果がしぼんでしまい、再手術という結果になりかねません。そのため外国で手術する場合には、帰国後も問題点や不安の相談相手としてフォローアップしてくれる態勢をとっている医療機関をおすすめします。

名前の変更
異なる性での名前に変更できるのは、精神科医よりGIDの診断書が下りてからになります。SRS後には戸籍の性別変更手続きがひかえていますので、遅くとも手術に進むまでには名前の変更手続きは済ませておいた方がよいでしょう。(手続き方法)

戸籍記載の変更
戸籍の性別や、健康保険証、パスポートなどの性別記載を変更するには、まずSRSを済ませていなくてはなりません。「他の性別に係わる身体の性器に係わる部分に近似する外観を備えている」ことが、家庭裁判所に性別変更を申し出る条件の一つになっているからです。変更を申請してから戸籍の変更手続きがすべて完了するまでには約3ヶ月間かかります。(手続き方法)

自分との折り合い
GID当事者であり、MTFのトランスセクシュアルとしての自分をどう受け入れていますか?周囲の人たちはあなたを違和感なく受け入れていますか?まだ誰かを、何かをうらんでいますか?自分の境遇を肯定的に受け止めて、前向きに進もうとしていますか?日常の生活の場でTSとして自然に振る舞えるようになりましたか?
まだ自分の置かれた境遇が十分納得できずに、また自分自身と折り合いがつかずにいる場合には、それが無言の不協和音となって周囲にも伝わり、違和感を与えます。自分も自分の存在に違和感を持ち、周囲もあなたに違和感をもちながら同じ社会で生活していくのは苦痛であり、お互いに精神的エネルギーを消耗します。
そういう違和感を与えるのは外観の問題でしょうか。それとも、あなたが発信している信号のせいでしょうか。非常に微妙な問題ですが、誤解を恐れずに言わせていただくと、それは発信している信号のせいだと思います。まず外観や姿形は人それぞれ違うし、少々違和感があってもそれはお互い様です。とくにMTFの人の服装や外観には違和感があっても当たり前で、女性として受容されるには時間がかかります。しかし、それ以上に違和感を抱かせるのは、当事者自身が感じていて周囲にも無意識に発信している不協和信号ではないでしょうか。どちらから発信している信号であっても、信号はかならず相手にぶつかって帰ってきます。ここで問題なのは、その信号はGID当事者の方から出ているのではないか、ということです。

外観の違和感は時間がたてばすぐ慣れっこになります。周囲は意外に気にしていないのではないかと思います。当事者本人が気にしすぎるから、周囲も気にせざるを得ない、というのが現実に近いのではないでしょうか。問題は内面の違和感です。GIDは自分の責任ではないために、またいわれのない差別を受けた被害者意識もあり、特定できない相手をうらんだり、嘆いたりしても、その心情は理解できます。しかし、心の平穏を得るためには、どこかで、だれかと和解しなくてはならないのです。そのだれかというのは結局のところ自分意外にはありません。自分自身のなかで和解し折り合いをつけるのです。その瞬間に周囲もはじめて変わるのです。

「自分と折り合いをつける」というステップは、今ロードマップ上のどの地点にいようとも、今すぐ始める必要があります。それはトランスセクシュアルにとっては、単なる通過点であるSRSよりもはるかに重要な一生の課題ですから。

0 件のコメント: