2008年3月10日月曜日

トランスセクシュアル(TS)はどれくらいいる? ≪1≫


『トランスセクシュアル(TS)はどれくらいいる?』
How Many of Us Are There? --by Lynn Conway

≪その1≫

性転換症(Transsexualism=TS)を論ずるに当たっていつも「なにが原因なのか」ということに話題が集中しがちであるが、もうひとつの重要な問題に話題が及ぶことはまずない。その問題とは、性転換症患者がどれくらい広範囲に存在しているか、ということである。

従来の医学界の通説では、MtF転換症は30,000人に1人、FtM転換症は100,000人に1人であった。これらの数字は繰り返し引用されていて、最近のワシントンポスト紙やニューヨークタイムズ紙でも記事の中で使われている。これらの数字を見て性転換症は信じられないほどまれな症状という印象を受けませんか。しかし、今日では多くの人が自らの経験として、通った学校や、会社、地域社会にはTS当事者が一人や二人いたことを知っていることに注目すべきです。では、いったいどこからこの「極めてまれな数字」がいつも現れてくるのでしょうか。

これらの数字は、アメリカ精神学会の「精神疾患の分類と診断の手引き(改訂4版)」(=DSM-IV)が出所です。2000年8月の発表文からそのまま引用しますと(DSM-IV-TR,p.579)、
「患者数: 性同一性障害(GID)の患者数に関するデータを示す最近の疫学上の調査結果は存在しない。ヨーロッパの複数の小国では全国民の統計データにアクセスでき、それによるとおよそ30,000人の成人男性につき1人、また100,000人の成人女性につき1人が、性別適合手術(SRS)を希望していると推定される。」とある。

問題はこれらの数字が、何十年も昔に近代的なSRSが導入されはじめた頃のデータであることです。それ以降、SRSを求め、実際に手術を受けた人の数は劇的に増えているのです。もっと重要で見落としていけないことは、これらの数字には強度の性転換症に悩む人たちは含まれていないということです。数字の対象とされているのは、社会的な差別が今とは比べものならないほど激しい時代に、勇気を奮い起こして進み出てSRSを希望した人たちだけなのです。常識的に考えても、周囲の目を恐れず進み出る人よりは、黙して堪えていた当事者がもっと多かったと思うのが普通ではないでしょうか。しかし問題は、どれくらい多くが?

ちょっと数字の「探偵ごっこ」をしてみましょう。アメリカのMtF性転換症患者のおよその数は、何人の患者が実際にすでにSRSを受けているか集計予測することで把握できるのです。それで得られた数字を、アメリカの成人男性の人口数で割ればよいのです。(60歳までの男性に限定します。それより年配の男性は過去に手術を受ける機会はまずなかったとみなされるからです。)

1960年以前はアメリカの市民に対して行われたSRS手術はほんの数例にすぎません。モロッコのカサブランカのジョルジュ・ビュルー医師が、1960年代に「陰茎翻転法」という画期的な新しい手術方式を用いて次々と手術実績を重ねていくようになった。アメリカの内分泌科医で性転換症の研究と治療にパイオニア的な役割を果たしていたハリー・ベンジャミン医師は、アメリカの性転換症患者の多くをビュルー医師と彼の手術法を用いる他の数人の医師に次々と紹介するようになった。ベンジャミン医師から後年聞いた話では、私がSRSを受けた1968年時点では、アメリカ人でSRSを受けたのは私が最初から600人から700人目の内に入るということだった。

1970年代になりジョンズ・ホプキンス医科大やスタンフォード大学が性同一性障害の研究プログラムを開始し、アメリカの病院でのSRSに対する制約が次々と解かれるようになり、何人かのアメリカ人医師もSRSを開始するようになった。しかし、その数をはるかにこえる患者が、モロッコのビュルー医師や他の経験のある医師を求めて海外に出て行った。1973年にベンジャミン医師から聞いた話では、その時点までに2,500人のアメリカのTS女性が手術を受けていたということです。

現在ではアメリカ国内で毎年800から1,000例の男性から女性へのSRSが行われていて、同数かそれ以上のアメリカ人が海外で手術を受けている。(例えば、タイのような国ではSRSの技術水準は非常に高く、コストは比較にならないほど安い。)アメリカ国内ではユージン・シュラング、トビー・メルツァー、スタンリー・バイバー、のトップスリーの外科医を合わせると、年間で400例から500例のSRSを行っている。バイバー医師だけでも、1969年にSRSを始めて以来4,500例以上の手術を実施している。バイバー医師は、1日2回のSRS手術を週3日、という驚異的なペースを何年にもわたって続けたそうです。

これらの数字を足し合わせてみると、アメリカ国内には少なくとも32,000人から40,000人のSRS手術を済ませたTS女性が存在するという結果がでてきます。アメリカの医師が外国人の手術をした例もあるでしょうし(15%くらい?)、またSRSをした人で今までに死去しているケースもあるでしょう。しかし、手術を済ませたTS患者の大部分は過去15年間にSRSを行っており、そのほとんどがまだ生存していると考えるのが妥当です。人数は少ないながらも、60年代から80年代半ばにかけてSRSを受けたTSグループは年齢的に20代から30代前半と若い人が多く、そのほとんどが生存していると考えられます。死去した例を考慮しても、アメリカにおけるSRS手術を済ませているTSの総数は32,000人を下らないと私は考えています。

そこでいよいよ、SRSを済ませたMtFの人口分布になりますが、これは単純に32,000人をアメリカの18歳から60歳までの男性人口である80,000,000で割ればよいのです。(18歳から60歳というのは、ほとんどのSRS済み患者の該当する年齢です。)

すると、32,000/80,000,000 =1/2,500人という結果がでます。

これは驚きに値しますが、アメリカで男性として生まれた2500人のうち少なくとも一人はすでに女性になるためのSRSを受けているということなのです。医学界で従来から通用してきた30,000人に一人という説にくらべればけた外れに多い数字です。さらに、もっと注意して見ればこの誤りはさらにひどいことがわかります。

DSM-IVの推測数字は性転換症の患者数に関するものであり、SRS手術を受けた患者数にはふれていないことを思い起こす必要があります。そのため最近のメディアでも相変わらず「性転換症の患者数は30,000人に一人」という解釈が堂々とまかり通っているのが現状なのです。

その2に続く)

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