2008年1月12日土曜日

インドネシアで声を上げるGID当事者たち


インドネシアで声を上げるGID当事者たち


タイやカンボジアの性的マイノリティーの現状については以前にもふれましたが、今回はアジア最大のイスラム教国であるインドネシアの事情をご紹介しましょう。以下は2008年1月11日付けの英字紙「ジャカルタ・ポスト」からの要約です。

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トランスベスタイトのきびしい就業状況

人口2億4千万人をかかえるインドネシアには、約380万人の「ワリア(waria)」と呼ばれている性的マイノリティーがいる。その17%は大学卒である。この「ワリア」とは、英語では「トランスベスタイト」と呼ばれているが、トランスベスタイトだけでなくトランスジェンダーやトランスセクシュアルも含む呼称である。

Wariaというインドネシア語は、wanita(女)とpria(男)がつづまった言葉で、「女男」という意味。

大卒といえどもほとんどのワリアには正規の就業機会は与えられず、雇用側もワリアを雇うことにより顧客を失うことを恐れている。ワリアに残された生きる道は結局、街頭ミュージシャンか売春などと限られている。自立して生きていける自営業を営むことができるのは、ごく限られた恵まれた人たちだけである。

ただ最近になり、NGO組織Arus Pelangiが出版した「トランスベスタイトの就労権利は政府責任で保証せよ」という本の影響で、当事者の発言が目立つようになってきている。この本の中には、GID当事者の職場の上司の偏見や言葉による虐待の20人の例が紹介されている。例えば、

「キリスト教徒だったイエネスは、教会に行っても他の人たちから変な目つきでじろじろ見られるのに堪えられなくなり、今ではクリスマスにも行かなくなった。神聖なる唯一の神は今でも信じているが、宗教は何であれ何の頼りにもならない。」

「ジャカルタのテレマーケティングの会社に入ったが、髪の毛を短く切ること、男の服装をすることを条件にされた。私の仕事ではお客様と面と向かって会うようなことはないのに。結局、差別視に堪えられずやめざるをえなかった。」

「ワリアの美人コンテストでも賞をとった経験のあるイエネスは、美容院での仕事を見つけた。ただ、あまりにも給料が安いため路上で売春行為をするようになった。そのうちにワリア活動家と知り合いになり、NGOの活動に参加するようになって今は資金管理を任されている。」

「ケケはデパートの顧客サービスの仕事を見つけたが、男の服装をする条件で採用された。その内に、もっと男らしく振る舞え。一ヶ月以内に、女のような態度をとればクビにすると脅かされた。結局、一ヶ月も経たないうちにお払い箱となった。お客様からは応対が丁寧で親しみがわくと評判がよかったのに。」

「エミーはナイトクラブでバーテンダーとなったが、同僚がバーテンは男の仕事だ、と言ってサロンに追いやられた。」

2006年1月に組織されたこのNGOは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、トランスセクシュアルの性的マイノリティーを代表して社会に広く呼びかけて、人間らしく生きる権利を主張していこうとしている。

しかし、政府の公式見解では「政府は男であれ女であれ性別による差別は一切行っていない。この国においては、ワリアが生まれたときの性別を維持しているかぎり就労機会に問題はないはずである」。ただ、その性別というのは「男」と「女」だけである。新しい性別などは認められていない。

宗教の自由はあるものの、アジア最大のイスラム教国であるインドネシアでは、ワリアへの理解はほぼ皆無にちかく、政府の見解ではワリアは精神病者の一群と見なされており、一方の宗教団体は罪人として非難の対象としている。

インドネシアのワリアたちが社会の仲間入りできる日がいつ来るのか、気の遠くなるような闘いはまだ始まったばかりである。

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