カンボジア首相、レズビアンの娘を勘当する
「勘当する」とは最近はもう耳にしない古い言葉ですが、要するに親子の縁を切るということです。カンボジアのフンセン首相が自らのプライバシーを公にするのは珍しいことですが、娘がレズビアンであることが判明したため勘当したことを公の場で認めたというニュースを紹介しておきます。(Bangkok Post,Oct.31)
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首都プノンペンの卒業式に集まった3000人の聴衆を前にしての告白でした。「メディアや他の教育関係者などが同性愛を容認するよう教育しているのは知っており、自分なりに納得はしていた。しかし、それが現実に自分の家族の一員の問題となると、全くどうしていいかわからなかった。
「私の娘が他の女性と結婚したのです。今ちょうど、裁判所に娘を我が家から除籍するよう申請してきたところです。」 後ほど放送された国営放送では、このコメントは編集されて(つまりカットして?)放送されたそうです。
「私は全国民を教育することはできます。しかし、この養女だけは教育できませんでした。私は失望しています」と付け加えました。フンセン内閣の公式ウェブサイトによると、フンセン首相には5人の子供がいるが、一人の娘は養女だということです。
カンボジアの社会背景として、2004年2月に時のシアヌーク国王は自分のウェブサイトを通じて同性愛者の結婚を容認して、「民主カンボジアでは男と男、女と女の結婚を認めるべきである」との見解を発表しています。
ただ、保守的なカンボジアの仏教社会ではこのような進歩的な態度は支持されているとは言い難く、同性愛者は家族や周囲から異性間の結婚をせまられるケースが多いようです。
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首相という地位にある人の率直な発言にはちょっと驚きました。イタリアの前首相ベルルスコーニ氏も夫人の「公式謝罪」の要求をかわしきれずに、マスコミの前で一連の浮気を認め公式に謝罪しましたが・・・・
フンセン首相の率直さは評価するとして、ちょっと気になるのが「この養女だけは教育できませんでした」というくだりです。子供をちゃんと教育すれば同性愛は防げると思っているのではないか。当事者のみならず同性愛を理解する人はみな、同性愛は趣味や周囲の影響とは関係ない次元のことであることは周知のことです。しかし、社会全体がこの理解を共有していないのがまぎれもない現実です。
この状況はどの先進国でも発展途上国でも、同じようなものです。ただ、同性愛者にとって少し住みやすい地域があるだけです。州によっては同性愛者の結婚を認めるアメリカでさえ、ごく一部の州のことであり、その州内でも反対者が半分近くあると思って間違いないでしょう。
昨年7月にバンコクで開かれたゲイ・レズビアン会議で注意をひく発言があり、後日ネットで発表されたダイジェストニュースを興味をもって読みました。
会議のパネリストの一人が「同性愛の原因は脳内のプログラムに起因しているもので、これはこの世に生まれる前からすでに組み込まれている。生を受けてからの環境や教育とは関係ない」という主旨だったと思います。要するに、ゲイ、レズビアン、トランスセクシュアルなどの性的少数者はすべてこれに該当するわけで、私の考えと同じだったので記憶しています。
ただ、この時他の学者からも強烈な反対意見があり、「科学的根拠がない」のがその反対理由だったと思います。結局、けんけんがくがくのやり取りのあとこのテーマは痛み分けに終わったわけですが、今後の議論の向かう方向が見いだせたという大きな意義があったのではないかと思います。
性的少数者に寛大で比較的に住みやすいタイでも、法的な整備がされていないせいで、またタイ特有の遺産相続法もからんでくるため、同性愛者やSRS後のGID当事者の正式な結婚は認められていないのが現状です。
カンボジアのフンセン首相が縁を切った娘さんと和解する日がくるでしょうか。彼の言う「教育」ではなく、正しい教育には気の遠くなりそうな時間がかかりそうです。また、「科学的根拠」というのはいつ見つかるのでしょうか。
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