2012年7月6日金曜日
性別を記載しない健康保険証発行
GID者に性別記載のない健康保険証発行
7月早々の新聞記事をもう読まれた方も多いと思いますが、読売新聞の7月2日の記事を転載させて頂きます。
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性同一性障害、男女記載しない新たな保険証交付
松江市は2日、心と体の性が一致しない「性同一性障害」と診断された市民団体代表、上田地優(ちひろ)さん(54)に対し、性別欄に男女別を記載しない新たな国民健康保険証を交付した。
厚生労働省によると、性同一性障害を巡り、本人の要望で保険証の表記を変更したのは全国初という。上田さんは「男性と記された保険証を示すのは精神的に苦痛」として、5年前から保険証の記載を「男性」から「女性」に変更するよう市に要望していた。
市によると、新たな保険証では、目に付きやすい表紙の性別欄に男女別を記載せず、裏面の備考欄に「戸籍上の性別、男性(性同一性障害のため)」と記している。市は本人の要望を受けて同省などと協議、保険証表記の変更を決定した。
(2012年7月2日21時18分 読売新聞)
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<コメント>
SRSを済ませたGID当事者にとっては戸籍上の性別変更が可能になり(2004年7月16日施行)、社会生活上の自由度や精神的プレシャーは大幅に改善されたといってもよいと思います。ただ、SRSをまだ済ませていない当事者やそれを望まない人たちにとっては、公文書の性別記載はいまだに改善・解決してはおらず(パスポート、健康保険証など)、GID当事者が社会生活を送るに際して大きな精神的負担をしいられています。
この度の松江市の例は一地方自治体の働きかけが国を動かしたわけですね。その当事者の方の粘り強い努力と、自治体のとった先例のない行動は賞賛するべきです。ただこの一例だけで全国的に許可されると思うのは早計(つまり早合点)ではないかと懸念されます。他の多くの自治体が動かなければ国が率先して汗をかいて動くことはまず考えられません。自治体を動かすには当事者がまず動かなければなりません。
松江市の例には大いに勇気付けられます。同様の境遇におかれている当事者の方は、まず居住地の自治体に掛け合って、能動的に突破口を開く努力をされるよう進言いたします。
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2012年5月17日木曜日
トランスジェンダーとHIVの問題
アジア・太平洋のトランスジェンダーにHIVの危機が
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(5月17日付けのシンガポールのThe Straits Times記事から)
<バンコク発AFP電>
アジア・太平洋地域のおよそ半分近くのトランスジェンダー当事者が劣悪なヘルスケアとハイリスクなライフスタイルのために、HIV感染率が危機的なレベルに達していると国連の報告書が指摘しています。
このアジア・太平洋地域の900万から950万人のトランスジェンダー人口が、まん延するHIVの影響をもろに受けている、と国連開発計画(UNDP)の報告書は述べており、このトランスジェンダー・コミュニティーに属する49%が感染している可能性があると指摘している。
ただこの数字はトランス女性(男性から女性になる例)の聞き取り調査から得られた感染例から推測される数字であり、UNDPによるとこの広い地域での“分散した、小規模な調査でのデータ”をもとにしていることに留意する必要があるとのこと。
この調査をまとめた香港大学のサム・ウィンター氏は、“この極めて人間的な営みが危機的状況に直面している現実に各国政府が早急な対応策を講じる必要性”を訴えている。多くのトランスジェンダー当事者が生活に困窮したあげく、危険なセックス行為をともなう売春で生計を立てる状況に追い込まれている現状に注意を喚起している。
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<参考>
* タイではSRS手術などの前には必ずHIV検査が行われます。
* HIV陽性者でも手術は受けられますが、手術器具はすべて廃棄処分にされるため手術費用が30%余分に請求されます。
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2012年5月9日水曜日
SRS?GRS?
Gender & Sexuality
何気なく使っているこのような用語に深い意味があることに、あらためて考えさせられる機会がふえて頭を悩ませていました。私はGID当事者ではないので、このような問題を客観視できる立場から私見を述べてみたいと思った次第です。
<トイレでは「男」と「女」しかないですが、これでよいのか?>
セックスか、ジェンダーか
一般に通用している「性別適合手術」という言葉はSex Reassignment Surgery(SRS)の訳語ですが、これをGender Reassignment Surgery(GRS)と呼ぶ人もいます。タイのプリチャー医師もその一人で、以前からGRSという用語を好んで使っています。SRSが一般的な今ではGRSは古い用語なのだろう、くらいにしか思って深くは追求しなかったのですが、最近ちょっと待てよと思い始めています。GRSにはそれなりの意味合いがあるのではないかと・・・・。
つまり“Sex”と“Gender”の違いと、その相互関連性です。俗っぽい言い方をすれば、“セックス”というのは両脚の間にあるもの、“ジェンダー”というのは両耳の間にあるもの、という明瞭な区別がありますが、両者には密接な関連があります。
ジェンダーセックスの不協和音
両耳の間というのはもちろん脳に関する分野で、神経や精神性をつかさどる通信司令室のある場所です。愛情、幸福感、また違和感や不協和音もここで感受します。両脚の間にある性器官もこの脳内の司令塔に影響を与え、またそこから指令を受ける関係にあります。
おいしい、まずい、甘い、辛いなどの味覚も舌の味蕾で味わうとはいうものの、実際は脳神経を伝わって脳内の器官が感知して味わうのと同じです。舌の味蕾と脳神経は切っても切れない関係にあるのです。ジェンダーとセックスも同じ関係だと言えます。
GID(性同一性障害)というのはジェンダーとセックスの間の不協和音が原因となる悩みですが、ジェンダーは脳神経に関わるもので現状の医学では手術であれ薬物手法であれ、これを変えることは不可能です。一方セックスに関する肉体器官は外科的処置で、完璧とはいえないまでも変えることは可能です。性器官を外科手術によって、男性から女性へ、女性から男性へ、と転換して性別を再指定するのだから性別適合手術(=性別再指定手術)はSRSでよいわけです。この手順をふむことでジェンダーとセックスとの違和感が解消して、生来の性意識に基づく人生が送れるようになる、というのがSRSという外科的処置の果たしている役割だと思います。
セクシュアリティとは?
ところが、性転換手術のアジアの草分け的存在であるプリチャー医師がなぜGRSを好んで使うのか、思い当たるケースに出会う機会が何度かありました。それは、すでにSRSを受けた当事者にも自分の性的指向の対象が異性なのか同性なのか明確でないひともかなり存在することです。
「MTF=男性から女性」を例にとれば、SRSを経て女性になったものの自分の性的指向が異性である男性なのか、手術の結果いまや同性となった女性に向けられているのか、明確な自覚がないという場合です。
生物学的には男性として生まれ育った人が自分の性別に違和感を覚え、SRSを経て念願の女性になれたわけですから、今や異性である男性に性的興味をもつのが普通ではないか、と思うのが“普通”です。ところが、例外というよりは簡単に型にはめてはいけないケースが多々あるということです。
性愛に興味のない人
一般人の中にも「エイ・セクシュアル=asexual」というとくに性愛に興味をもたない人もいるのです。“草食系男子”が増えつつある日本でも言えることですが、アメリカのアルフレッド・キンゼー調査でも未婚の女性では14-19%、未婚の男性では3-4%が、対象が異性であれ同性であれ性的接触に一切の興味をもたないと指摘されています。GID当事者にも同じような傾向をもつ人がいても驚くにはあたらないかもしれません。
念願の女性の身体になったのに、性的興味の対象は意外にも“同性”の女性だった、つまり同性愛指向だったという人もいるのです。心を許し、肉体的な愛情表現の対象として持続的な関係をもてるのは、意外にも同性だったと気付くポストSRSの例は少なくないかもしれません。つまりゲイやレズビアンの関係がトランスセクシュアル当事者にも同じように存在するというのも事実です。レズビアンから派生した“トランスビアン”という言葉もあるそうですから。
ジェンダーとセクシュアリティの相性
ここで興味深いのは、SRS後にどういう性的指向に向かうかは実際に性体験をしてみないと分からない場合があることです。多くのGID当事者は、長年悩みぬいた肉体上の性別の違和感から逃れるために必死の思いでSRSまで進むのが精いっぱいだったことは想像にかたくないでしょう。そのような特殊事情を考えると、異性であれ同性であれ親密な人間関係なしにはむずかしい実際の性体験を経ていないGID当事者が少なくないのではと思われます。
ジェンダーとセクシュアリティの実際の相性テストを経ないままSRSを受け、事後に経験する性体験からはじめて自分のセクシュアリティが確認できたというケースが想定されます。この中には、異性愛もいるでしょうし、同性愛もいるし、性愛などなくても生きていける人もいるというのが現実の姿ではないかと思います。
ジェンダーと肉体的性別との葛藤がなくなっただけで、心の安定を得られたのが最高の幸せだったと感謝の手紙を送りつづけた老年のスイス人の話を先生から聞きましたが、「性転換手術」という単純な用語の裏にはGID当事者の多様な生き様があることを改めて教えられた次第です。
SRSを経てGRSに到達する?
つまり、SRS後にはじめてジェンダーとセクシュアリティの落ち着き場所(相性)が判明する、という見方に私は傾いています。この両者の相性が合致することによって、または両者の葛藤のないエイ・セクシュアルの境地に安住の地を見つけることによって、精神と肉体の安らぎが得られるのではないか。
それがSRSという外科的処置の目指すところであり、それが達成されれば究極の目的である精神(ジェンダー)の安堵が得られる。つまり、SRSはGRSという最終目標に到達するための手段であると言えるのではないでしょうか。
「セクシュアリティ」という肉体的性指向はあくまで「ジェンダー」という性意識の従的な存在なので、「意識上の性別をいったん白紙に戻し再指定する手術」という意味に解釈できる「GRS=Gender Reassignment Surgery」と呼んでもいっこうに差し支えなく、この方が読みが深い術名ではないかと思えるようになった、というのが私の反省です。SRSはGRSへの避けて通れない外科的処置と言ってもいいでしょうか。
プリチャー先生は手術後一ヵ月半経てばもう性交渉をしてかまわないというのが口癖で、ちょっと早すぎるのではと言うと、そんなことはない、一ヵ月半で大丈夫だとゆずらない。医者というのは多くを語らない人が多いので、その真意を類推しての話ですが、SRS後の出来るだけ早い時期にパートナーと親密な性的関係を体験することで、ジェンダーとセクシュアリティの落ち着き場所がきまり、当事者がすみやかに安堵できる境地に達するようにと願っての先生の温情である、と私なりに解釈している次第ですが・・・・。
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2012年4月25日水曜日
トランスジェンダー女性が政治をめざす(タイ)
ヨランダさんが政治の道へ(タイの話題)
その美しさでタイ全土を魅了したトランスジェンダー女性が地方議会選挙に立候補したことが大きな話題となっている。トランスジェンダー女性が政治の分野に進出するのは別に珍しいことではなく、世界的にもその例は少なくありません。
タイではとくに地方政治は男の世界という既成概念があり、それをトランスジェンダー女性が打ち破ろうとするのは勇気のいることで、やはりニュースバリューがあります。また当人が数年前の美人コンテストの優勝者でもあり、トランスジェンダーの地位向上に社会活動をしている頭のよい女性であることも話題性を高めているようです。4月25日版のタイの英字新聞「ザ・ネーション」の記事をご紹介します。
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“私のこれまでの経験と能力を生かしてナン県の将来にお役にたてることには自身があります“とヨランダ
さん(30歳)が抱負を語ったのは昨日のことです。(注:ナン県はタイ北部のラオスに国境を接する県)
地方議会の議員選挙にトランスジェンダーが出馬するのは初めてのこと。ヨランダさんは政治の世界ではニューフェイスですが、2000人の会員を擁するタイ・トランス女性協会の会長として名を知られる存在。すでに長年にわたりトランス女性の権利を擁護する運動に関わってきている。
宝石の事業やサテライトテレビ放送にも関わると同時に、博士号取得をめざして勉強中の身でもある。昨年には報道団体からタイ社会でもっとも影響力のある女性のひとりとして選ばれた。
“トランスジェンダーやホモセクシュアルの人たちからは支持を集められると信じています”と彼女は語る。16歳の時に性転換手術を受けた彼女は、肉体的には女性であるが、タイでは現行法にもとづき公的文書では依然として“ミスター”扱いされる。
エンターテインメント業界にもヨランダさんのナン県議会選出馬を歓迎する動きもある。Mプラス財団のポントーン・チャラーム氏は、ヨランダさんの県議会選挙出馬は、“長い間この国の政治を牛耳ってきた政治の世界に多様性をもたらすいい機会になる”と述べている。
ヨランダさんは母親がベンスアンタン地方の区長を努めていた関係もあり、北部の地方議会選では当選の可能性は高いとみている。対抗馬として選挙にでるのは男性二人。立候補受け付けは月曜日から今週の金曜日まで。
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<コメント>
まずヨランダさんの写真を見てください。美しい女性ですね!こんな輝くような女性にはめったにお目にかかれません。
彼女のトランスジェンダー女性活動をサポートしているPAIのプリチャー先生とも親交があり、先月バンコクで先生とお会いしたときのこんな発言が頭に残っています。
「タイではトランスジェンダーと分かると、十代早々からからホルモン治療を始め、SRSが受けられる年齢(現在では18歳)になるとすぐ手術を受ける。この利点は、骨格や皮膚・筋肉、声の男性化が定着する大人の年齢になる前に、ホルモン治療とSRSによって女性化が定着するので、女性として社会に同化しやすい。」
法的規制のしばりがある日本人には、また早くからトランスジェンダーを自覚していた当事者にとっては、はがゆいのが日本の現状です。タイの問題はSRS後も法的な性別変更が許されていないことです。
タイ社会ではすべてがおおらか、いい加減、自分勝手、と思える社会環境があります。しかし、その裏には自分の判断でなにをやってもいいが、“自己責任”であることを忘れるな、という不文律があるような気がします。
日本では何か起これば他人のせいにする甘えの構造がはびこり、結果的に規制の多い窮屈な社会になっています。タイ社会のいい加減さにうんざりしながらも、その居心地の良さに魅かれる日本人が多いのも事実です。
関係ないような話になりましたが、これもSRSの現状の両極を表しているというのが日頃からの私の感想です。
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2012年2月29日水曜日
妖艶なモデルは男性だった!
男と女の境界をスイスイと行き来するスーパーモデル
キャットウォークの注目を一身にあつめるモデルはなんと男だった。女性ファッション、男性モードであろうと、どちらのジェンダーにもなれる不思議な魅力のモデル、アンドレジ・ペジクにいま世界の注目が集まっています。
マレーシアの英字紙 "The Star"(2月16日版)に取り上げられた特集記事です。(記事はAP通信Bonny Ghoshより)
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スーパーモデル誕生
ある冬の寒い日の午後、マンハッタンのカフェで、長い脚をくみ優雅に腰をおろしているのはアンドレジ・ペジク。青い眼のファッションモデルはアールグレイ紅茶を飲みながら窓の外を眺めている、近くのテーブルに座る男たちの視線が彼女にくぎつけになっているのも知らないかのように。
黒皮のジャケットを着た男が歩道の窓際に近づき、ガラス窓に顔をつけキスをする。ペジクはくすくす笑いながら、”べつに悪い気はしないわ”、と無邪気である。
彼女に視線をむける男たちも、この美しいブロンド女が実際は男であることは恐らく気がついてないだろう。
ニューヨークで始まったファッションウィークでは、ペジクはもっとも注目を集めるモデルであると同時に、賛否両論の的になる存在なのである。彼は会場のキャットウォークを男としても女としても闊歩できるただ一人のトップクラスのモデルなのだ。
その両性具有を思わせる美形は、たえず限界にいどむファッション業界のトレンドセッターに押しあげたのである。
ドイツのファッション雑誌のカバーに彼を起用したスタイリストのカイリー・アンダーソンによると、”彼はだれもがその一切れでも欲しがるような美しい存在なんです。”
彼の顔を見ると、どんなに自分の美貌にうぬぼれている女性でも嫉妬にかられるだろう。高いほほ骨、しみひとつない肌、肉感的で形のよい唇。ただ話すときだけ,わずかにふくらんだのど仏が男性の証をしめすのみである。
ペジクは女になろうとしているわけではないが、トランスジェンダーに属する人の多くはすでに彼を同じ仲間とみなしている。ペジクは自らのセクシュアリティを説明したり、正当化する必要を感じることなく、両性を自然に内包してしている、ちょっとした英雄的存在とみられているのだ。
昨年のこと、ゲイ・レズビアン雑誌「OUT」は、今年の”スタイルメーカー”と名づけ、表紙をがざる写真にはヴェールをかぶり髪には花をあしらったブライダル衣裳のペジクを起用した。
昨年だけでも14誌の表紙をかざったペジクだが、フランスのデザイナー、ゴルティエはジェンダーを凌駕するペジクの容姿に惚れこみ、メンズ&ウィメンズショーのインスピレーションを得て、実際にペジク自身が両方のモデルとして登場したほどだった。ゴルティエのメンズショーでは、”ジェームズ・ブロンド”としてピストルをもち黒いジャケットの胸をはだけるダンディーな姿を披露したのだった。
一方のウィメンズショーではその強力なコントラストとして、ゴルティエの逸品作であるブライダルドレスに身をまとったペジクを披露したのである。
フランスの写真家セバスチャン・ミックは、ペジクは意識的に努力することなく女性になれる才能がある、スーパーモデルだけがもつカメラの前の自然なポーズのとり方、その動きのしなやかさは真似しようとしてできるものではない、と絶賛している。
ペジクの生い立ち
だが、この20歳の若者のここに至る人生はなまやさしいものではなかった。東欧の民族紛争の地ボズニアに生まれ、子供時代の大半をセルビアの難民キャンプで過ごしたペジクは、家族ともども逃げるようにオーストラリアに移住した。まだ10代でマクドナルドで働いているときにタレントスカウトに発見されたのが幸運となった。
幼少の頃から世間の目で見る女の子の特質を示し、車のおもちゃよりバービードールを好んだ。ティーンエイジャーとしては女の子たちと遊ぶのを好み、ドラッグストから化粧品を盗んで捕まったこともある。ペジクの言うには、友人たちや家族からもありのままの自分で受け入れられていたので、違和感はなく居心地がよかった。
身長183センチの長身痩躯、服は女サイズで2か4。靴のサイズがもっとも難点で、実際には女サイズでは11であるが、ウィメンズショーで歩くために無理してサイズ10に足を合わせている。
この一年間は気ちがいじみたメディアの注目を集め、メディア評論家はペジクは露出過剰になるリスクをはらんでいると警告する。他人には真似できない特有のルックスもあるため、ペジクがこの業界で今後もスターの座を維持するのはむずかしくなるかもしれない。
彼の人気度が高まるにつれ、デザイナーたちは彼の個性がデザインした衣裳の影を薄めてしまうのではないかと危惧し、ペジクの起用をためらうのではないかとの見方もあるからである。
ペジク自身はこのファッションビジネスの移り気の速さは百も承知である。この仕事のために
オーストラリアでの大学入学を遅らせた経緯もあるので、もしファッションの仕事に見切りをつけるときが来れば、大学に入り経済学か法律を勉強したいと考えている。
どんな話題でもオープンに話しに乗ってくるペジクであるが、自身のセクシュアリティ指向については口が堅い。恋愛の相手としては男がいいか女がいいかと聞くと、はにかんだ表情で”愛には境界線はないのよ”とだけ答えた。

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<感想>
生まれながら両性に通じるような容姿で成長した人もけっこういるものです。アンドレージ・ペジクはその好例といえるでしょう。
このモデルはトランスセクシュアルであっても、当面は性転換手術などには興味は示さないのではないかと思います。恵まれたルックスと才能を発揮して、男と女の間を自由に行き来できる自由を謳歌して欲しいですね。セクシュアリティについては自分が一番よく知っているはずなので、時が熟せばふさわしい行動を取ることでしょう。
男と女の境界など内面の世界ではあってなきようなもの。トランスセクシュアルならその内面の境界はすでに融解しているはず。内面と肉体との違いは手術でなんとか乗り越えられる。アンドレジ・ペジクの場合は、おそらく当面は男と女と境界を行ったりきたりで脚光をあびる生活を送り、また楽しみ、時期がきたらさっさと別の世界に飛び込んでいける、という才能をもっている人なのでしょう。
やはり、世の中美形に生まれるのは恵まれた存在です。その美形は一生続くものではないとの自覚があればよし。美形でないものは、なにか打ち込める対象をもち、それに集中して楽しめる境地になれば、人目を気にせずとも自らが満足できる生き方があるはずです。
なにはともあれ、アンドレジ・ペジクは衝撃的な印象です。まさに、Man, he's beautiful!

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2011年12月30日金曜日
セックスレスの時代?
男も女もお互いに興味なし!?
2011年は重苦しい空気がよどんだ1年でした。今回はちょっと息抜きにごく普通の男と女の話題をとりあげましょうか。
最近立て続けに日本の男と女がお互いに興味を失い、人口減少に拍車がかかっているという記事を見かけました。GIDとは直接の関係ない話ですが、男が女に興味を失い、女も男なしでも生きていける社会になりつつあるというのは、これは大問題です。
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『セックス負債は日本の損失だ』
(11月29日CNNネット版)より
経済学者の観点から見れば、日本の過去20年の病を直す応援の声は常に「日本よ、金を使え、消費せよ」だった。人口学者の観点からは、その叫びは「日本よ、産めよ、増やせよ」である。
先週発表された調査結果には、ますます顕著になってきた後者の問題が浮き彫りにされている。人口及び社会保障問題研究所の調査結果によれば、1億3千万人の高齢化するこの国において独身男性の数がまたまた記録を更新したという。
18歳から34歳の独身男性の数は、先回2005年の調査にくらべ9.2%も上昇している。独身男性の約61%がガールフレンドを持たず、また成人女性の半数が夫またはボーイフレンドを持たないという。さらに悪いのは、ガールフレンドもボーイフレンドも、妻も夫も持たない男と女のなんと45%もが、相手を探すことにも興味がないということだ。
しかも、30台後半の独身の男と女の4人に一人は、セックスした経験もないとか。
ここで注目すべきは、調査対象になった独身男性も女性も、それぞれ86%と89%という高率で将来的には結婚したいという願望はもっていることだ。その障害は何かというと、経済的な問題であって、調査対象の独身男女の40%以上が結婚しない最大の理由は、お金のやりくりが出来ないという経済上の不安があるからと答えている。
しかし、経済的な理由というのは本当だろうか。この調査では未婚の若い女性の90%が、独身でいる方がよいと答えているのだ。
これは今年の春に行われた日本家族計画協会の調査結果にも符合する。それによると、16歳から19歳の男性の36%がセックスには無関心かさけたがる傾向があり、2008年の調査にくらべると19%も増えているのだ。一方、調査対象となった10代の女性の59%がセックスに興味がないと答え、これは2年間で12%も増加している。
これらの統計上の数字は、よく話題になる“草食系の男子”の増殖という現象とも一致する。この用語は2006年に作家の深沢まき氏が造ったもので、「日本ではセックスは肉体の関係と同意義であり、最近の若い男性は肉体的関係には興味をもたないので、“草食を好む男の子”と呼ぶことにしたのがきっかけ」とCNNに語っている。
この現象は世界でも出生率が最低レベルの国に数えられる日本が、人口構成上の問題をかかえていることを意味する。日本の出生率は1.34であり、安定した労働力を維持するために必要な2.1を下回っている。人口の5分の1が65歳以上であることを考えると、将来の人口増はますます重要になってくる。
3年前に日本最大の経済団体である経団連は参加企業の1600社に対して、低下する出生率に歯止めをかけるため妻帯者がもっと家庭で自由時間を過ごせる配慮をするように要請したことがある。
しかし、この最近の調査結果からみると、残念なことに、日本のカップルは与えられた宿題をまじめにやっていないようだ。
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<インドネシア・バリ島で見たトイレの標識>

『セックス回数調査でインドネシアがトップ』
(The Nation 11月25日版)
アジア10カ国の性的にアクティブな男女を対象にして行われたセックス回数調査ではインドネシアの男性がトップの座を占めた。
これはバイアグラなどの勃起不全(ED)を改善する薬品メーカーである、アメリカのファイザー社が最近行った“アジアの理想的セックス調査”によるもので、インドネシアの男性が平均月に9.8回の性行為を行っていることが判明した。2位につけたのはフィリピンの男性で、月平均で9.4回であった。またインド男性は月平均8.8回で、タイの男性はというと、月平均7.7回だった。
この調査では1,685人の男性と1,624人の女性が対象とされ、国別では中国、香港、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、そしてタイである。回答者のすべてが31歳から74歳まで、過去12ヶ月以内に性交経験がある人たちである。
女性の対象者はインドの女性が月平均8.7回でトップを占め、次が月平均6.8回であったインドネシアとマレーシアが続いた。この調査ではタイ人女性は月平均5.7回でしかなかった。
クアラルンプールのモナッシュ大学泌尿器外科医のジョージ・リー助教授によると、この調査によりほとんどのアジア人にとっては性的満足感の達成には勃起の硬さが重要な要素をしめていることがわかったとのこと。例えば、マレーシア人男性の90%がこの勃起の重要性を指摘している。
満足感については回答者のわずか三分の一が性交時の持続時間を重要視しているにすぎなかった。
タイの有名な性に関する研究家であり産婦人科医でもあるパンサック医師は、270万人ものタイ男性が勃起障害をもっていると推定されると述べている。ただ、治療を求めて医師を訪ねる人は27,000人にすぎないとか。
<注>この調査では日本は調査対象にも選ばれなかったみたいですが、その理由はわかりますね・・・・。ファイザー社のバイアグラもあまり売れていないのでしょう、勃起の助けも求めない日本では。
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<年末の独り言>
『ジェンダーとセックス』
ジェンダー意識がはっきりしていないと、肉体的行為をともなうセックスにつながらない。日本の若い世代がセックスを求めなくなったということは、ジェンダー意識も希薄になっているということか。最近のファッションや行動様式をみていても、ジェンダーレス化がセックスレス化につながっているのではないかと思う。なんともわびしい時代になったものだと嘆くしかない。
彼女のいない男性の半数ちかくが交際も望んでいないという。女性に肉体的に接するまでにはいろいろめんどうな手順を踏まなければならない。いきなり触ればセクハラになり、想いを告白しても断られることもありえる。その自分がぶざまに見えるのは今どきの過保護になれた若者には耐えられないのだろう。それなら、独りでいたほうが気楽である、セックスなしでも生けていける・・・ということになるのだろうか。
ジェンダー意識がしっかりした人間なら、異性を求めるのはごく自然である。べつに相手が同性でもかまわない。要するに自分のジェンダー意識に素直にしたがった行動であればよい。それにふさわしい性行動が健全なセックスであり、社会的にも容認されるべきだと私は思う。
ジェンダーよ、しっかりせい。セックスよがんばれ!
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2011年12月22日木曜日
第三のジェンダー、やっと離陸へ
レディーボーイ搭乗機、離陸準備完了
今年の1月の投稿でとりあげたタイのPCエア航空がやっと離陸することになりました。以下は12月16日付けのバンコクポスト紙の記事です。(1月26日投稿:「第三の性」エアホステス離陸準備中)及び1月28日の「その続報」参照)
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第三のジェンダーのキャビンアテンダントを配置する世界初めてのエアラインといわれる、個人所有でタイ国籍のPCエア航空が、当初の予定より9ヶ月遅れながら離陸準備が整いました。
PCエアのフライトアテンダントとして採用された4人のレディーボーイたちは(写真参照)、昨日のデモフライトで報道関係者にそのサービスぶりを披露しました。この航空会社はまずチャーター便として営業運航を開始し、来年の6月以降から正規の航空会社として定期便運行を開始する予定です。

PCエアの処女飛行は、12月24日のバンコクとラオスのビエンチャン間のツアグループを乗せたチャーター便で、来年1月23日にはバンコクと中国の二つの都市を結ぶチャーター便の運行を開始する予定になっている。
民間航空局の規則にしたがい、定期便運行開始に先駆けて、アジア圏内のツアグループを対象にチャーター便で運行を開始し、来年6月に正規航空会社としての資格認定を受けることになる。
昨日のデモフライトでは唯一の所有機材であるエアバス310-222型機を使い、報道陣を招待した機内で4人のレディーボーイ搭乗員が他のクルーに加わりそのサービスぶりを披露した。
唯一のオーナー社長であるタイ人のピーター・チャン氏は報道陣に対して、運行開始の遅れは財務上の問題ではなく、旅行ハイシーズンの到来にタイミングを合わせたからだと説明した。
不動産会社の役員でもある同氏は、ローシーズン中の需要上の問題とその後のタイを襲った大洪水も遅れの要因ではあると述べた。
この新事業への自信の表れとして、自身がキャビンアテンダントの経験をもつ同氏は、ほとんどの航空会社はリースで機材を調達するのが普通だが、既存の航空会社からジェット旅客機を購入するにあたって10億バーツ(約28億円)のキャッシュで払う道を選んだ。
また、来年の第二4半期には定期便運行を開始し就航先も拡大する予定なので、新たにワイドボディーのA300-600型機を2機導入する計画であると述べた。
ピーター・チャン氏によると、PCエアの就航先として候補にあがっているのは、香港、中国、韓国、そして日本である。PCエアが5年以内に収支均衡になるとは思っていないが、定期便運行開始に合わせてタイ株式市場に上場することを考えているので、投資家および国内・海外のツアオペレーターとも協力関係を築きたいとのこと。
さらにPCエアはトランスセクシュアルに就職の門戸を開き、キャビンアテンダントとして引き続き採用していく方針であり、機会平等を企業理念としてかかげている、と述べた。
30人採用したキャビンアテンダントのうち4人がレディーボーイであり、また19人が女性、男性は7人、全員が資格をクリアしている。レディーボーイのひとりタニャラットさん(上の写真の右から2番目)は2007年度のミス・ティファニー・ユニバースの栄冠に輝いたこともあり、またモデルやテレビの喜劇ドラマの女優としても知られている。
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日本のメディアでもこのニュースは取り上げられたようですが、ロイター通信によるとピーター・チャン氏(オレンジ色ネクタイの男性)は“私がパイオニアになったようだが、他の航空会社も私のアイデアに興味をもつだろうと確信している”とのこと。日本のエアラインにもぜひお勧めしたいアイデアですね。エアラインだけでなく、トランスジェンダーは鉄道関係を含む幅広い分野のサービス産業にはぴったりの適性をもっていると思います。
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<注>トランスジェンダーはタイでは“カトーイ”とか“レディーボーイ”と呼ばれています。これらの記事でも”third gender” “transgender” ”transsexual”などいろいろの名称が使われています。
この写真でもわかるように彼女たちを“レディーボーイ”というのは、“ボーイ”の部分にちょっと抵抗がありますが、タイではSRS後でも性別変更が法的に認められないので我慢するしかないかもしれません。それでも、PCエアのような職場の門戸をひらく動きが、SRS先進国タイで起こったのは拍手喝采です。日本への就航を楽しみに待ちましょう。
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