2011年11月20日日曜日
子供を産んだ男 (その続き)
「妊娠した男」---その続き
このニュースはすでに2008年11月の時点でアメリカでは大きな話題になっていたのは知りませんでした。その後も引き続き、「男とは」、「女とは」、「家族とは」というテーマで多くのメディアで取り上げられています。
「妊娠した男」の最初の記事とビデオ映像を見て疑問に思ったこともあり、自らMTF当事者としてまた現役の医師として世界各地のGID関係者などに接して研究されている先生に以下のように質問してみました。
*****
<私の質問>
FTM男性が妊娠して出産したということは、女性の胸はすでに取っていたものの、
女性の生殖器官である卵巣と膣・子宮はそのまま残してあったということですよね。
ここにドナーから提供された精子を女性である奥さんの手で注入したと言っていますので。
CNNの動画ではオレゴン州に住んでいて、出生証明書や運転免許、生命保険、結婚許可書などすべての公式文書でちゃんと男性と認められているそうです。疑問になる点は、手術でクリトリスがマイクロペニスになっているとはいえ、女性の証である卵巣と子宮を残したままでも、アメリカでは男性と認められたということになります。州によって法律は違うとはいえ、これは性別の根幹に関わることなのでWPATHなどでは話題にはならなかったのでしょうか。日本では卵巣・子宮摘出が女性から男性への条件だと理解していますが?
*****
<先生からの返答>
ご指摘の通りだと思います。全く鋭い指摘だと思います。
個人的には「外性器が望む性に類似していること」って超馬鹿げていると思います。
また内摘だけで戸籍の性別が変えられるのも同様に超馬鹿げています。
ジェンダーに問題が有るのですから身体の変工は個人の問題です。
ペニスがあっても女性のジェンダーで生きて行けるヒト、生きて行けないヒト、いろいろあって良いんじゃないでしょうか。
寧ろ法律で規定することが変だと思います。
アメリカではgender incongruenceが確認されればGIDと診断され、GRS後にIDが変わります。
彼の場合はオッパイがなくて、ペニスがある?けど内摘はしていない状態ですよね。
外性器が希望の性のモノに近似していることの解釈は日本でも裁判所によってかなり違うようです。
彼の場合は微妙だと思いますが、恐らく社会組織化の過程、例えば事実上の奥さんが居る、男性としての職業を持っている、など総合的に判断されたのではないでしょうか。pregnant
manというのはそう言う意味で画期的だと思います。
この辺りの日本の裁判所の事情について暫く日本で調査してみようと思っています。
しかし、性別ってこんなもんなんでしょうか・・・・。
*****
<私からの返信>
しかし、この外見だけでパスすることはたいへん重要な要素だと思います。これで社会生活上の種々の制約から解放され、全部とは言えませんが(子なき条項など)自由度が高まります。ほとんどのGID当事者がこの第一関門を通過するために悩み苦しんでいるからです。裸になってチェック受けることはまずないからこそ、外観だけでパスできるのは”自由度”の面で重要な意味があると思っています。
先生の場合はこの関門はすでに通過されていて、日本の融通のきかない法律だけが障害になっているわけです。それにしてもこの「妊娠した男」のアメリカの例には驚きました。ハワイ州で認められた正式の異性結婚は他の州でも認められるので、今このカップルが居住するオレゴン州でも認められるというわけらしいです。二人目の子供も生まれるので、今後法律面でのトラブルがあり得ることは覚悟しなければ、と当人もインタビューで語っていました。
*****
<補足>
“What is a man? What is a woman? The journey of a pregnant man” というCBSテレビの特集番組(2009年10月22日)では、トーマス・ビーティーはすでに同じドナーの第3子を身ごもっていることを打ち明け、司会のバーバラ・ウォルターズも絶句していました。この時妊娠5週目だったので、2010年8月には3番目の子供が誕生しているはずです。
性の自由を標榜する6団体の当事者グループからも賛否両論の声があり、固定観念に凝り固まった個人などからも嫌がらせの電話や郵便などが届くそうです。生まれた二人の子供にはいつ打ち明けるのかという質問には、すでに絵本などを通じてわかる範囲で、生命の誕生と多様性について教えているそうです。子供たちはトーマスを”daddy”、ナンシーを “papa” と呼び分けているそうです。
勇気付けられるのは、妻ナンシーの最初の結婚で生まれ、成人した二人の娘が全面的にこのカップルの生き方を応援していることです。今後への不安はかかえながらも、あくまで前向きに明るく生きている勇気あるカップルですね。
さらに補足ですが、アメリカではこのような「妊娠した男」で子供を産んだ例は35人から40人は知っている、と実名で登場した看護助産婦がCBSテレビで話していました。ただ、トーマス・ビーティーのように、ラリー・キング、バーバラ・ウォルターズ、オプラ・ウィンフリーのような超有名トークショー番組に出演し、雑誌に記事を書き、さらに本まで出版して堂々とカムアウトした例はこれが始めてであっただろうと推測しています。
ジェンダーという人間の根源的な存在要因を、単に生殖器という物体にとじこめるのではなく、形をもたない精神の象徴として自由に開放する社会現象として捉えると、この「妊娠した男」の性の歴史に果たす役割はいつか評価される日がくるのではと思います。
最初に引用させて頂いた当事者で医師でもある先生の言葉をくりかえしますと、
“「外性器が望む性に類似していること」って超馬鹿げていると思います。また内摘だけで戸籍の性別が変えられるのも同様に超馬鹿げています。”
これは日本のことですよね?「妊娠した男」トーマス・ビーティーはとっくにこのこのレベルを超越しているという印象を強く受けました。
ジェンダーの問題はGIDの根幹である問題ですから、今後ともこのテーマはとりあげていきたいと思っています。
*****
2011年11月19日土曜日
子供を産んだFTM男性
妊娠した男とその妻:"Pregnant man and wife"
アメリカのCNNテレビの看板番組「ラリーキング・ライブ」が取り上げた話題のFTM男性トーマス・ビーティとその妻ナンシーのあっと驚く実話をご紹介しましょう。
女の子として生まれたものの、いつも自分は男の子だと感じていたトーマスは、FTM男性としてナンシーとハワイで夫婦として正式に結婚。現在はオレゴン州に住むふたりは女の子を出産したばかりだが今また二度目の妊娠をしている。
二人の関係とどういう経緯で子供の両親となったか、ラリー・キングの司会で二人の話を聞いてみましょう。次のサイトからCNNの放送にアクセスできますので、ビデオ画像でも確認してください。
http://edition.cnn.com/2008/US/11/18/lkl.beatie.qanda/index.html
http://edition.cnn.com/2008/US/11/18/lkl.beatie.qanda/#cnnSTCVideo
**********
(CNN) -- 「妊娠した男」として知られるトーマス・ビーティはCNNのラリー・キングのインタビューに妻ナンシーと7月に生まれた長女のスーザンを伴って出演した。トーマスはすでに第二子を身ごもっている。
トーマスは「愛の陣痛:ひとりの男の世にも珍しい出産の物語」を出版したばかり。(以下のインタビューは一部編集してCNNネット版に掲載されています。)

Larry King interviews the Beatie family -- Thomas, Nancy and their daughter, Susan.
Larry King: トーマスとナンシー、よく来てくれましたね。まずおめでとうございます。調子はどうですか。
Thomas Beatie: 大丈夫です。ありがとう。
King: 世間から注目をあびてびっくりしていることでしょうが、それは予期していました?
Thomas: 正直言ってほんとに驚いています。誰にも知られないままに、私が産んで済ませられるだろうと単純に考えていました。妊娠がわかった後、大勢の医師に相談したのですが通常の妊娠ではないため、医学的な差別も受けましたし、出生証明書の問題や結婚が成立するかまで追及されそうでした。そこで”Advocate”というレズビアン誌に記事を書いたのがきっかけで、大騒ぎになったというわけです。
King: ちょっと話を整理するために初めから聞きましょうか。あなたは女性だったですよね。今は自分を男性と呼んでいますが、女性として生まれたのは間違いないですね。
Thomas: はい、間違いないです。.
King: お二人はどういう経緯で会われたのですか。
Thomas: かれこれ18年前になりますが、ハワイのジムで知り合いました。
King: 一緒に生活するようになって何年ですか。
Nancy: 11年ですが、もうすぐ12年になります。
Thomas: そうです、11年です。結婚してからはもうすぐ6年になります。
King: 見た目も明らかに男性ですよね。あなたは男性ですね。そのための手術は受けましたか。
Thomas: (男性としての)胸の再建手術を受けました。それとホルモン治療です。
King: それで自分自身にとっても男性なのですね。
Thomas: そうです。
King: 彼か彼女のどちらかが妊娠した方がよいというアイデアはどこからきました?
Nancy: 私たちはまず家族を持ちたかったのです。女である私は子宮摘出手術を受けていましたので、養子縁組やその他のいろんなオプションを考えたのですが、二人の間で子供を産むには彼より適任者はいないことに気づいたのです。
King: それで、どういう方法をとったのですか。
Nancy: ええ、そこでまずドナーを探しました。それから自宅で行いました。私が自分でやりました。
King: あなたが自分で?ドナーというのは精子提供者という意味ですね?
Nancy: そうです。精子を注文し、それは自宅に届けられました。それを針のない注射器に移しました。
King: そしてそれを注入したわけですね?
Nancy: そうです。
King: ということは、トーマス、その部分を変更するための下半身の手術は何もしていなかったということですか。
Thomas: 男性ホルモンのテストステロンが自然に行う作用だけです。
King: 常識では考えられない方法で妊娠に成功したわけですね。
Nancy: まあ、そういうことですね。
King: 彼は今また妊娠しているのですね。そのやり方はどうやって学んだのですか。
Thomas: ネットで調べる方法しか考えられませんでした。助けになる医者を探すのは骨が折れました。やっと精子銀行に出す書類に署名してくれる医師が見つかったことで、自宅で自分たちだけで行うことができるようになったのです。でも、その方法などは全部やはりネットで調べました。
King: どうして養子縁組をしなかったのですか。
Thomas: それも可能な方法なので実際に考えましたが、自分の遺伝子を残す必要を切実に感じていたので、まず試しにやってみて、結果がだめだったら代理出産を考えようというつもりでした。しかし、代理出産は自分が受精能力がある身体であることを証明してくれる内分泌科医師の介入が必要になるなど、多くの問題があるのが予想できたのであきらめました。
Nancy: 私たちの産んだ子供が欲しかったのです。
King: 出産するというのはどんなものでした、トーマス?
Thomas: イヤー、なんとも言葉では表せないような経験ですね。実際に出産を体験したことのない人には何と表現したらいいか・・・・。まちがいなく、人生の見方が変わる体験であるとは言えます。
King:今はオレゴン州に住んでいるわけですが、 法律面での問題にはぶつからなかったですか。
Thomas: 自分の出生証明書も男性に、健康保険、運転免許証、生命保険などすべて男性として記載されています。実際にこの子の出生証明書ももっています。
King: それにはどう書いてあります?
Thomas: それには私を父親、ナンシーを母親と記入して提出しましたが、役所は最終段階になって彼女を父親、私を母親と変更してしまいました。それがまた変更になり、結局われわれ二人が両親として登録されました。それはそれで一向にかまわないですが、わたしたちは同性婚ではないので同棲パートナーシップは認められません。わたしたちはあくまで法的に認められた夫と妻の関係なのです。
King: その違いは大きいですよね。
Thomas: そのとおりです。ところが、政府の一部ではわたしを男性と認定しているので、生まれた子供の出生証明書をどう説明するのか、見解の相違がでてきています。それがわたしたち家族の将来の妨げになるのではないかと本当に心配しています。
King: こんなことを言っては失礼ですが、もしあなたが死亡した場合にはどういうことになりますか。誰かが名乗り出て子供の親権を争うことになるとか?
Thomas: そういうことはじゅうぶん起こり得ます。わたしが一番恐れていることです。それで助けが必要なのです。法的な課題をちゃんと整理するために弁護士の助力が必要なのです。
King: お二人が出会ったときはどんなカップルだったのですか。
Thomas: 普通のカップルです。
King: 聞きたかったのは、おふたりはゲイ(同性愛)だと思っていましたか。
Thomas: いいえ。その時点ではわたしは女としての生活をしていました。わたしは法的には女でしたが、心の内部では依然として男でした。ほかの人たちがわたしたちを見れば、レズビアンのカップルだと思ったことでしょう。
King: 自分がゲイ(同性愛)だと感じることはありますか。
Nancy: ゲイの感じはありません。
King: ナンシー、自分は男性と結婚しているという感じはありますか。
Nancy: あります。
King: あらゆる面で、完全に?
Nancy: はい。彼が妊娠しているときでも、彼はわたしにとっては男でした。
King: どんな出産でしたか。
Thomas: 自然分娩でした。
King: 帝王切開ではなくて?
Thomas: いいえ、そんなうわさがあったようですが、違います。
King: 次の子供の誕生を心待ちにしていますか?今何ヶ月ですか。
Thomas: 10週間です。
King: 同じドナーですか。
Thomas: 同じドナーです。
King: どこでこのようなやり方を学んだのですか。インターネットと言っていましたね。しかし普通の性行為はできないと思いますが、どうですか?
Thomas: できます。
King: あれ、そうですか?
Nancy: 赤ん坊を産むための方法ではないですが。.
Thomas: ホルモン治療のせいで、わたしのクリトリスは肥大していてペニスのように見えます。妻と性行為はできるのです。
King: それは驚きですね。知りませんでした。つまり、あなたにはペニスのように見えるクリトリスがあり、それで愛を交歓する行為を営むことができるというわけですね。
Thomas: まあ、そういうことですね。.
Nancy: わたしが母親です。
Thomas: わたしが父親です。
King: 出産のサイクルはこれで終わりですか。この赤ちゃんが最後の子供になりますか。
Nancy: まだわかりません。決めてないものですから。
King: あなたたち、本当に素晴しいカップルですね。お二人がやったことはとてもとても簡単にできることではありません。しかも、それを世間に公表することはたいへんなことです。美しいかわいいお嬢さんですね。今後とも将来の幸せを祈っております。
今日はトーマス・ビーティと奥様をお招きしました。出版された本の題名は“Labor of Love, the Story of One Man's Extraordinary Pregnancy." 「愛の陣痛:ある男の世にも珍しい出産の物語」 その題名どおり、アメージングな物語です。
**********
<補足解説>
常識にとらわれず思いついたことをまず実行に移すという、アメリカ人の性格が如実に現れているお話です。
FTMでありながら子宮・卵巣は摘出しないまま、ホルモン治療と乳房切除、それに肥大したクリトリスを転換したミニペニスだけで、男性と認定されるのもアメリカならの大らかさでしょうか。
日本の現行の法律では正規の夫婦、親子関係は認められないと思います。
ビデオでは大きなお腹をかかえた彼の姿が見られます。しかも出産は帝王切開ではなく、自然分娩だったのも驚きです。
ミニペニスでの挿入性行為はむずかしいと言われていますが、愛し合うカップルの間なら愛の交歓方法はあるはずです。
しかし、やはり印象に残るのは二人の自信あふれるこの言葉です。
ナンシー: I am the mother.
トーマス: I am the father.
肉体の器官・外観はともかくとして、やはり当事者自身のジェンダー意識がどこまではっきりしているかが決め手になるのでは、というのが強く印象に残ります。
*****
アメリカのCNNテレビの看板番組「ラリーキング・ライブ」が取り上げた話題のFTM男性トーマス・ビーティとその妻ナンシーのあっと驚く実話をご紹介しましょう。
女の子として生まれたものの、いつも自分は男の子だと感じていたトーマスは、FTM男性としてナンシーとハワイで夫婦として正式に結婚。現在はオレゴン州に住むふたりは女の子を出産したばかりだが今また二度目の妊娠をしている。
二人の関係とどういう経緯で子供の両親となったか、ラリー・キングの司会で二人の話を聞いてみましょう。次のサイトからCNNの放送にアクセスできますので、ビデオ画像でも確認してください。
http://edition.cnn.com/2008/US/11/18/lkl.beatie.qanda/index.html
http://edition.cnn.com/2008/US/11/18/lkl.beatie.qanda/#cnnSTCVideo
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(CNN) -- 「妊娠した男」として知られるトーマス・ビーティはCNNのラリー・キングのインタビューに妻ナンシーと7月に生まれた長女のスーザンを伴って出演した。トーマスはすでに第二子を身ごもっている。
トーマスは「愛の陣痛:ひとりの男の世にも珍しい出産の物語」を出版したばかり。(以下のインタビューは一部編集してCNNネット版に掲載されています。)

Larry King interviews the Beatie family -- Thomas, Nancy and their daughter, Susan.
Larry King: トーマスとナンシー、よく来てくれましたね。まずおめでとうございます。調子はどうですか。
Thomas Beatie: 大丈夫です。ありがとう。
King: 世間から注目をあびてびっくりしていることでしょうが、それは予期していました?
Thomas: 正直言ってほんとに驚いています。誰にも知られないままに、私が産んで済ませられるだろうと単純に考えていました。妊娠がわかった後、大勢の医師に相談したのですが通常の妊娠ではないため、医学的な差別も受けましたし、出生証明書の問題や結婚が成立するかまで追及されそうでした。そこで”Advocate”というレズビアン誌に記事を書いたのがきっかけで、大騒ぎになったというわけです。
King: ちょっと話を整理するために初めから聞きましょうか。あなたは女性だったですよね。今は自分を男性と呼んでいますが、女性として生まれたのは間違いないですね。
Thomas: はい、間違いないです。.
King: お二人はどういう経緯で会われたのですか。
Thomas: かれこれ18年前になりますが、ハワイのジムで知り合いました。
King: 一緒に生活するようになって何年ですか。
Nancy: 11年ですが、もうすぐ12年になります。
Thomas: そうです、11年です。結婚してからはもうすぐ6年になります。
King: 見た目も明らかに男性ですよね。あなたは男性ですね。そのための手術は受けましたか。
Thomas: (男性としての)胸の再建手術を受けました。それとホルモン治療です。
King: それで自分自身にとっても男性なのですね。
Thomas: そうです。
King: 彼か彼女のどちらかが妊娠した方がよいというアイデアはどこからきました?
Nancy: 私たちはまず家族を持ちたかったのです。女である私は子宮摘出手術を受けていましたので、養子縁組やその他のいろんなオプションを考えたのですが、二人の間で子供を産むには彼より適任者はいないことに気づいたのです。
King: それで、どういう方法をとったのですか。
Nancy: ええ、そこでまずドナーを探しました。それから自宅で行いました。私が自分でやりました。
King: あなたが自分で?ドナーというのは精子提供者という意味ですね?
Nancy: そうです。精子を注文し、それは自宅に届けられました。それを針のない注射器に移しました。
King: そしてそれを注入したわけですね?
Nancy: そうです。
King: ということは、トーマス、その部分を変更するための下半身の手術は何もしていなかったということですか。
Thomas: 男性ホルモンのテストステロンが自然に行う作用だけです。
King: 常識では考えられない方法で妊娠に成功したわけですね。
Nancy: まあ、そういうことですね。
King: 彼は今また妊娠しているのですね。そのやり方はどうやって学んだのですか。
Thomas: ネットで調べる方法しか考えられませんでした。助けになる医者を探すのは骨が折れました。やっと精子銀行に出す書類に署名してくれる医師が見つかったことで、自宅で自分たちだけで行うことができるようになったのです。でも、その方法などは全部やはりネットで調べました。
King: どうして養子縁組をしなかったのですか。
Thomas: それも可能な方法なので実際に考えましたが、自分の遺伝子を残す必要を切実に感じていたので、まず試しにやってみて、結果がだめだったら代理出産を考えようというつもりでした。しかし、代理出産は自分が受精能力がある身体であることを証明してくれる内分泌科医師の介入が必要になるなど、多くの問題があるのが予想できたのであきらめました。
Nancy: 私たちの産んだ子供が欲しかったのです。
King: 出産するというのはどんなものでした、トーマス?
Thomas: イヤー、なんとも言葉では表せないような経験ですね。実際に出産を体験したことのない人には何と表現したらいいか・・・・。まちがいなく、人生の見方が変わる体験であるとは言えます。
King:今はオレゴン州に住んでいるわけですが、 法律面での問題にはぶつからなかったですか。
Thomas: 自分の出生証明書も男性に、健康保険、運転免許証、生命保険などすべて男性として記載されています。実際にこの子の出生証明書ももっています。
King: それにはどう書いてあります?
Thomas: それには私を父親、ナンシーを母親と記入して提出しましたが、役所は最終段階になって彼女を父親、私を母親と変更してしまいました。それがまた変更になり、結局われわれ二人が両親として登録されました。それはそれで一向にかまわないですが、わたしたちは同性婚ではないので同棲パートナーシップは認められません。わたしたちはあくまで法的に認められた夫と妻の関係なのです。
King: その違いは大きいですよね。
Thomas: そのとおりです。ところが、政府の一部ではわたしを男性と認定しているので、生まれた子供の出生証明書をどう説明するのか、見解の相違がでてきています。それがわたしたち家族の将来の妨げになるのではないかと本当に心配しています。
King: こんなことを言っては失礼ですが、もしあなたが死亡した場合にはどういうことになりますか。誰かが名乗り出て子供の親権を争うことになるとか?
Thomas: そういうことはじゅうぶん起こり得ます。わたしが一番恐れていることです。それで助けが必要なのです。法的な課題をちゃんと整理するために弁護士の助力が必要なのです。
King: お二人が出会ったときはどんなカップルだったのですか。
Thomas: 普通のカップルです。
King: 聞きたかったのは、おふたりはゲイ(同性愛)だと思っていましたか。
Thomas: いいえ。その時点ではわたしは女としての生活をしていました。わたしは法的には女でしたが、心の内部では依然として男でした。ほかの人たちがわたしたちを見れば、レズビアンのカップルだと思ったことでしょう。
King: 自分がゲイ(同性愛)だと感じることはありますか。
Nancy: ゲイの感じはありません。
King: ナンシー、自分は男性と結婚しているという感じはありますか。
Nancy: あります。
King: あらゆる面で、完全に?
Nancy: はい。彼が妊娠しているときでも、彼はわたしにとっては男でした。
King: どんな出産でしたか。
Thomas: 自然分娩でした。
King: 帝王切開ではなくて?
Thomas: いいえ、そんなうわさがあったようですが、違います。
King: 次の子供の誕生を心待ちにしていますか?今何ヶ月ですか。
Thomas: 10週間です。
King: 同じドナーですか。
Thomas: 同じドナーです。
King: どこでこのようなやり方を学んだのですか。インターネットと言っていましたね。しかし普通の性行為はできないと思いますが、どうですか?
Thomas: できます。
King: あれ、そうですか?
Nancy: 赤ん坊を産むための方法ではないですが。.
Thomas: ホルモン治療のせいで、わたしのクリトリスは肥大していてペニスのように見えます。妻と性行為はできるのです。
King: それは驚きですね。知りませんでした。つまり、あなたにはペニスのように見えるクリトリスがあり、それで愛を交歓する行為を営むことができるというわけですね。
Thomas: まあ、そういうことですね。.
Nancy: わたしが母親です。
Thomas: わたしが父親です。
King: 出産のサイクルはこれで終わりですか。この赤ちゃんが最後の子供になりますか。
Nancy: まだわかりません。決めてないものですから。
King: あなたたち、本当に素晴しいカップルですね。お二人がやったことはとてもとても簡単にできることではありません。しかも、それを世間に公表することはたいへんなことです。美しいかわいいお嬢さんですね。今後とも将来の幸せを祈っております。
今日はトーマス・ビーティと奥様をお招きしました。出版された本の題名は“Labor of Love, the Story of One Man's Extraordinary Pregnancy." 「愛の陣痛:ある男の世にも珍しい出産の物語」 その題名どおり、アメージングな物語です。
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<補足解説>
常識にとらわれず思いついたことをまず実行に移すという、アメリカ人の性格が如実に現れているお話です。
FTMでありながら子宮・卵巣は摘出しないまま、ホルモン治療と乳房切除、それに肥大したクリトリスを転換したミニペニスだけで、男性と認定されるのもアメリカならの大らかさでしょうか。
日本の現行の法律では正規の夫婦、親子関係は認められないと思います。
ビデオでは大きなお腹をかかえた彼の姿が見られます。しかも出産は帝王切開ではなく、自然分娩だったのも驚きです。
ミニペニスでの挿入性行為はむずかしいと言われていますが、愛し合うカップルの間なら愛の交歓方法はあるはずです。
しかし、やはり印象に残るのは二人の自信あふれるこの言葉です。
ナンシー: I am the mother.
トーマス: I am the father.
肉体の器官・外観はともかくとして、やはり当事者自身のジェンダー意識がどこまではっきりしているかが決め手になるのでは、というのが強く印象に残ります。
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2011年9月15日木曜日
タイのTS、法廷闘争に勝つ
一歩前進、法廷闘争に勝つ
8月31日のバンコクポスト紙によると、タイ防衛省が所属のトランスジェンダー徴集兵を“精神障害者”と公式文書で呼称しているのに反旗をひるがえして、当事者のカトーイ(トランスジェンダー)とTSサポーターたちが法廷闘争に立ち上がった。その判決が9月13日に言い渡され、14日の紙面ではみごと勝利の判決が写真入のニュースとして報じられました。
SRS大国ながら自国民に対する法的な差別は依然として残るのがタイ社会の実情なので、タイのTJ・TS関係者の将来への朗報となったこのニュースを8月31日の記事とまとめて紹介いたします。
*********
[写真] サマートさん(左から2人目)と友人たちがプラカードをかかげてトランスセクシュアルへの差別廃止を訴えた。

行政法廷への訴えは防衛省に対するもので、当人のジェンダー認識を理由に“精神障害者”として徴兵記録に記されているのがその理由。
サマートさんをリーダーとする女装のTJたちは、サマートさんや他の女装TJを2005年に制定された軍規により“恒常的精神障害者”として明記する徴兵記録の変更を求めて行政法廷に訴状を提出した。
同様の反論に対する行政官庁の従来の見解では、自らの性別に違和感をもつ当事者で性転換手術を受けていない者は“カトーイ”と呼ばれる。すでに性転換手術を済ませている者は、軍法にしたがい“精神障害者”として認定されるべきである、との認識であった。その根底にある理由は、手術によって復元不可能な身体になっているからである。
ただし、ホルモン補充療法や豊胸手術などの身体への変更は、まだ復元の余地が残されているため精神障害者には含めない、との見解であった。
「当のサマート氏はまだ性転換手術を受けていないので、恒常的精神障害者と認定したのは不当であると考える。したがって、防衛大臣は30日以内にサマート氏の徴兵記録を精神障害者からカトーイに変更すべきである」、と政府行政委員会の一員であるクリチョット氏は自らの見解を述べた。
行政法廷の審理手続きでは、複数の政府行政委員が審議したのち行政委員長が意見を集約して結論に導くための制度があり、委員長はこの案件を審議する行政法廷の代表判事がつとめる。
サマートさんは委員の意見に勇気づけられたと言いながらも、9月13日の判決まで待たなければならないこと、また防衛省内の関係規則の変更などやっかいな手続きがあること、うわさでは性に違和感を抱く者は「自らの性志向と生来の性別は相容れないこと」を表現する新しい用語を考案中らしい、などと述べた。
およそ20人のゲイグループのサポーターたちが、法廷の前で7色の傘をかかげながら応援に色をそえていた。
**********
9月13日判決日。行政法廷の防衛省に対する判決は「性転換手術を受けていないトランスセクシュアルを恒常的精神異常者と徴兵記録簿に表記してはならない」いうものだった。
[写真]原告サマートさんは勝訴の判決に笑顔のVサイン。

従来の呼称が侮蔑的であると不満を訴えていたトランスセクシュアルや人権活動家たちは喜びの声をあげた。この判決によりトランスセクシュアルを徴兵義務から免除する理由の基準を明確化する動きが加速すると思われる。
また、性転換手術を受けていないトランスセクシュアルをどう表記するか検討するよう防衛省に求めた。判決によると「徴兵制度は防衛省の重要な役割であり、人権侵害をふせぎ軍役への興味を維持するためにも法制の改定を急がなければならない」。
“恒常的精神異常”は“性同一性障害(gender identity disorder)“と変更される可能性が強いと思われる。
“Sor Dor 43”として知られる文書は就職時の申請書などに広く用いられる様式で、これに“恒常的精神異常者”と書かれてはトランスセクシュアルがまっとうな職業につくことはまず考えられない。性の多様化を推進するグループの代表も、今回の判決により政府機関だけでなく民間企業の経営者などもその趣旨をくんで改善してほしい。また、同様の悩みをかかえるグループが協力して、性的違和感は精神異常ではないことを証明する公的な文書を求めて運動を続けていきたいと述べている。
陸軍予備役司令部のチャーチャイ大佐は、陸海空軍ともこの修正作業がすでに進行中であるのでこの判決に控訴することは考えられない。また、国家評議会もこの修正提案を検討中であり、来年の徴兵時期までには実施されるのではないか、と述べた。
さらに、この修正案のもとでは、性転換を受けないトランスセクシュアルはカテゴリー2として登録され、このカテゴリーのひとたちは、その年の徴兵数が予定数に満たない場合には軍役に召集される可能性がある、と述べた。
(注)タイでは21歳から兵役義務がある。
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[私見]今回のタイの判決はたしかに一歩前進であり、社会的に隅っこに置かれたTSの立場にすこし明かりがともった感じはあります。しかし、根強い偏見は依然としてあります。後戻りのできない性転換手術を済ませたトランスセクシュアルがどう扱われるかはこの段階では明らかでなく、差別的境遇が続くのではないかという予感がします。それにしても“恒常的精神異常者”はひどすぎました!
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8月31日のバンコクポスト紙によると、タイ防衛省が所属のトランスジェンダー徴集兵を“精神障害者”と公式文書で呼称しているのに反旗をひるがえして、当事者のカトーイ(トランスジェンダー)とTSサポーターたちが法廷闘争に立ち上がった。その判決が9月13日に言い渡され、14日の紙面ではみごと勝利の判決が写真入のニュースとして報じられました。
SRS大国ながら自国民に対する法的な差別は依然として残るのがタイ社会の実情なので、タイのTJ・TS関係者の将来への朗報となったこのニュースを8月31日の記事とまとめて紹介いたします。
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[写真] サマートさん(左から2人目)と友人たちがプラカードをかかげてトランスセクシュアルへの差別廃止を訴えた。

行政法廷への訴えは防衛省に対するもので、当人のジェンダー認識を理由に“精神障害者”として徴兵記録に記されているのがその理由。
サマートさんをリーダーとする女装のTJたちは、サマートさんや他の女装TJを2005年に制定された軍規により“恒常的精神障害者”として明記する徴兵記録の変更を求めて行政法廷に訴状を提出した。
同様の反論に対する行政官庁の従来の見解では、自らの性別に違和感をもつ当事者で性転換手術を受けていない者は“カトーイ”と呼ばれる。すでに性転換手術を済ませている者は、軍法にしたがい“精神障害者”として認定されるべきである、との認識であった。その根底にある理由は、手術によって復元不可能な身体になっているからである。
ただし、ホルモン補充療法や豊胸手術などの身体への変更は、まだ復元の余地が残されているため精神障害者には含めない、との見解であった。
「当のサマート氏はまだ性転換手術を受けていないので、恒常的精神障害者と認定したのは不当であると考える。したがって、防衛大臣は30日以内にサマート氏の徴兵記録を精神障害者からカトーイに変更すべきである」、と政府行政委員会の一員であるクリチョット氏は自らの見解を述べた。
行政法廷の審理手続きでは、複数の政府行政委員が審議したのち行政委員長が意見を集約して結論に導くための制度があり、委員長はこの案件を審議する行政法廷の代表判事がつとめる。
サマートさんは委員の意見に勇気づけられたと言いながらも、9月13日の判決まで待たなければならないこと、また防衛省内の関係規則の変更などやっかいな手続きがあること、うわさでは性に違和感を抱く者は「自らの性志向と生来の性別は相容れないこと」を表現する新しい用語を考案中らしい、などと述べた。
およそ20人のゲイグループのサポーターたちが、法廷の前で7色の傘をかかげながら応援に色をそえていた。
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9月13日判決日。行政法廷の防衛省に対する判決は「性転換手術を受けていないトランスセクシュアルを恒常的精神異常者と徴兵記録簿に表記してはならない」いうものだった。
[写真]原告サマートさんは勝訴の判決に笑顔のVサイン。

従来の呼称が侮蔑的であると不満を訴えていたトランスセクシュアルや人権活動家たちは喜びの声をあげた。この判決によりトランスセクシュアルを徴兵義務から免除する理由の基準を明確化する動きが加速すると思われる。
また、性転換手術を受けていないトランスセクシュアルをどう表記するか検討するよう防衛省に求めた。判決によると「徴兵制度は防衛省の重要な役割であり、人権侵害をふせぎ軍役への興味を維持するためにも法制の改定を急がなければならない」。
“恒常的精神異常”は“性同一性障害(gender identity disorder)“と変更される可能性が強いと思われる。
“Sor Dor 43”として知られる文書は就職時の申請書などに広く用いられる様式で、これに“恒常的精神異常者”と書かれてはトランスセクシュアルがまっとうな職業につくことはまず考えられない。性の多様化を推進するグループの代表も、今回の判決により政府機関だけでなく民間企業の経営者などもその趣旨をくんで改善してほしい。また、同様の悩みをかかえるグループが協力して、性的違和感は精神異常ではないことを証明する公的な文書を求めて運動を続けていきたいと述べている。
陸軍予備役司令部のチャーチャイ大佐は、陸海空軍ともこの修正作業がすでに進行中であるのでこの判決に控訴することは考えられない。また、国家評議会もこの修正提案を検討中であり、来年の徴兵時期までには実施されるのではないか、と述べた。
さらに、この修正案のもとでは、性転換を受けないトランスセクシュアルはカテゴリー2として登録され、このカテゴリーのひとたちは、その年の徴兵数が予定数に満たない場合には軍役に召集される可能性がある、と述べた。
(注)タイでは21歳から兵役義務がある。
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[私見]今回のタイの判決はたしかに一歩前進であり、社会的に隅っこに置かれたTSの立場にすこし明かりがともった感じはあります。しかし、根強い偏見は依然としてあります。後戻りのできない性転換手術を済ませたトランスセクシュアルがどう扱われるかはこの段階では明らかでなく、差別的境遇が続くのではないかという予感がします。それにしても“恒常的精神異常者”はひどすぎました!
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2011年8月18日木曜日
SRS? GRS?
SRS/GRS; Gender/Sexuality, etc.
何気なく使っているこのような用語に深い意味があることに、あらためて考えさせられる機会がふえて頭を悩ませていました。私はGID当事者ではないので、このような問題を客観視できる立場から私見を述べてみたいと思った次第です。
セックスか、ジェンダーか
一般に通用している「性別適合手術」という言葉は”Sex Reassignment Surgery”の訳語ですが、これを”Gender Reassignment Surgery”と呼ぶ人もいます。タイのプリチャー医師もその一人で、以前からGRSという用語を好んで使っています。SRSが一般的な今ではGRSは古い用語なのだろう、くらいにしか思って深くは追求しなかったのですが、最近ちょっと待てよと思い始めています。GRSにはそれなりの深い意味合いがあるのではないかと・・・・。
つまり“Sex”と“Gender”の違いと、その相互関連性です。俗っぽい言い方をすれば、セックスというのは両脚の間にあるもの、ジェンダーというのは両耳の間にあるものという単純明瞭な区別ですが、それはあくまでこの摩訶不思議な存在の宿る場所を特定したものにすぎません。
両耳の間というのは、もちろんあらゆる精神活動をコントロールする脳の司令塔のある場所のことで、とくに人間の性行動・性衝動に方向性を与える前頭葉のある場所のことです。愛情、幸福感、また違和感や不協和音もここで感受します。両脚の間にある性器官もこの脳内の司令塔に情報を提供し、またそこから指令を受ける関係にあります。ただ、きわめて生物学的な存在である性器官は出先機関にすぎず、そこで味わう興奮や快感はすべて脳内司令室の受容により判断され幸福感や満足感として伝達されてくるのです。
おいしい、まずい、甘い、辛いなどの味覚も舌の味蕾で味わうとはいうものの、実際は脳神経を伝わって脳内の器官が感知して味わうのと同じです。舌の味蕾と脳神経は切っても切れない関係にあり、セックスも味覚も脳に対しては同じような従属関係だと言えます。ただ、出先機関の働きなしには、司令塔もなすすべがないという関係にあるようです。
GID(性同一性障害)というのはジェンダーとセックスの間の不協和音が原因となる悩みですが、ジェンダーは脳神経に関わるもので現状の医学では手術であれ薬物手法であれ、これを治療することは不可能です。一方セックスに関する肉体器官は外科的処置で、完璧とはいえないまでも作り変えることは可能です。性器官を外科手術によって、男性から女性へ、女性から男性へと転換して性別を再指定するのだから、性別適合手術(=性別再指定手術)はSRSでよいわけです。この手術という手順をふむことでジェンダーとセックスとの違和感が解消して、脳内の司令塔が発する本来の性意識に基づく人生が送れるようになる、というのがSRSという外科的処置の果たしている役割だと思います。
セクシュアリティとは?
ところが、性転換手術のアジアの草分け的存在であるプリチャー医師がなぜGRSを好んで使うのか、思い当たるケースに出会う機会が何度かありました。それは、SRSを受ける当事者にも自分のセクシュアリティ(性的指向)が異性なのか同性なのか明確でないひともかなり存在することです。
「男性から女性」のMTFを例にすれば、SRSを経て生物学的には女性になったものの自分の性的指向が異性である男性なのか、手術の結果いまや同性となった女性に向けられているのか、明確な自覚がないという場合があることです。
生物学的には男性として生まれ育った人が自分の性別に違和感を覚え、SRSを経て念願の女性になれたわけですから、今や異性である男性に性的興味をもつのが普通ではないか、と思うのが“普通”です。ところが、例外というよりは簡単に型にはめてはいけない面があるのです。
一般人の中にも「エイ・セクシュアル」という性愛にはとくに興味をもたない人もいるのです。古い調査ですが、アメリカのキンゼー・レポートでも未婚の女性では14-19%、未婚の男性では3-4%が、対象が異性であれ同性であれ性的接触に一切の興味をもたないと指摘されています。“草食系男子”が増えつつある現代の日本でも言えることですが、GID当事者にも同じような傾向をもつひとがいても驚くにはあたらないかもしれません。
念願の女性の身体になったのに、性的興味の対象は意外にも“同性”の女性だった、つまり同性愛指向だったという人もいるのです。心を許し、肉体的な愛情表現の対象として持続的な関係をもてるのは、意外にも同性だったと気付くポストTSの例は少なくないかもしれません。つまりゲイやレズビアンの関係がトランスセクシュアル当事者にも同じように存在するというのも事実です。レズビアンから派生した“トランスビアン”という言葉もあるそうですから。
ジェンダーとセクシュアリティの相性
ここで興味深いのは、SRS後にどういう性的指向に向かうかは実際に性体験をしてみないと分からない場合があることです。多くのGID当事者は肉体上の性別の違和感から逃れるために必死の思いでSRSまで進むのが精いっぱいで、実際の性体験を経ていない当事者が少なくないのではないかと思われます。
ジェンダーとセクシュアリティの実際の相性テストを経ないままSRSを受け、事後に経験する性体験からはじめて自分のセクシュアリティが確認できたケースが想定されます。この中には、異性愛もいるでしょうし、同性愛もいるし、両性愛も、また性愛などなくても生きていける人もいる、というのが現実の姿ではないかと思います。
つまり、SRS後にはじめてジェンダーとセクシュアリティの落ち着き場所(相性)がわかる、という見方に私は傾いています。この両者の相性が合致すれば、精神と身体の安らぎが得られるのではないか。それがSRSという外科的処置の目指すところであり、それが達成されれば究極の目的である精神(ジェンダー)の安堵が得られる。
「セクシュアリティ」という肉体的性指向はあくまで「ジェンダー」という性意識の従的な存在なので、「意識上の性別をいったん白紙に戻し再指定する手術」という意味に解釈できる「GRS=Gender Reassignment Surgery」と呼んでもいっこうに差し支えなく、この方が読みが深い術名ではないかと思えるようになった、という反省があります。
プリチャー先生は手術後一ヵ月半経てばもう性交渉をしてかまわないというのが口癖です。ちょっと早すぎるのではと言うと、そんなことはない、一ヵ月半で大丈夫だとゆずらない。医者というのは多くを語らない人が多いので、その真意を類推しての話ですが、SRS後に出来るだけ早い時期に親密な性的関係を体験することで、ジェンダーとセクシュアリティの相性を見極めて落ち着く場所がきまり、GID当事者がすみやかに安堵できるパートナーとともに生活の基盤を築いていけるようにと願っている、という先生の温情であるといささか拡大気味(!)に解釈してみた次第ですが・・・・。
眠れない真夏の夜の夢想だったかもしれませんので、このことは次回先生にお会いしたときに確認できればと思っています。
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2011年8月1日月曜日
トランスジェンダーの権利を求めて
トランスジェンダーにも権利がある (マレーシアからの報告2)
性転換手術のあと女性への姓名変更を訴えていたアシュラフ・ハフィズさん(26歳)が、州高等裁判所の否決の判決後わずか10日後に死亡した今になってはタイミングが狂いましたが、7月24日付のSTAR紙の読者投稿欄に次のような投稿がありましたので、遅ればせながらご紹介しておきます。(7月31日付投稿参照)
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アリーシャ・ファルハナさん(男性名アシュラフ・ハフィズ)と家族の方々に哀悼の意を表します。彼女やその両親には何の罪もないにもかかわらず、彼女は生まれながらの重荷を背負う人生になったわけです。
彼女や家族がもろもろの差別、いやがらせ、残酷とも言える扱いにさらされる立場の追いやられるのは、理由はどうあれ自然もたまにはへまをすることがあり、いろいろな障害を負った人が生まれてくるということを社会がまだ理解していないからです。肉体の性とは別の性意識をもって生まれるのもその一例にすぎません。
マレーシアも世界の先進国の例に倣い、このような人々をあらゆる社会生活の場面において真摯に受け入れる態勢を整えるべきです。
目や耳の不自由な人たちやその他の身体障害者と同じように、トランスジェンダーにも基本的人権があり、愛され、また愛する権利があって当然です。
自らの権利だけでなく同じような境遇におかれているトランスジェンダーたちの権利を求めて、闘う決意を示したアリーシャ・ファルハナさんの勇気ある行動に応援の拍手を送りたいと思います。
Dr.Peter J.Pereira (助教授、シャーアラム市)
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2011年7月31日日曜日
トランスセクシュアルの悩み
トランスセクシュアルの性別変更(マレーシア)
マレーシアの日刊英字新聞STARに最近3回続けさまにTJ・TSについての記事が載ったので、ご紹介します。
最初の記事は東海岸トレンガヌ州での性別変更に関する裁判での判決です。この州はイスラム教国マレーシアでも保守的なイスラム教徒の多い地域なので、判決が「ノー」だったのはべつに驚くことはないですが、裁判に訴えても性別変更を勝ち取ろうとした勇気あるTS当事者がいたことに正直おどろきました。
”Mykad”(マイカード)と呼ばれるIDカードが日常生活や職業の選択に直ちに障害になるだけに、SRSを済ませても性別変更ができないのは当事者にとっては深刻な問題です。日本でもそうだったように、法律の壁をやぶるのは並大抵なことではないので、同情は禁じえませんが、、、。
”性転換しても性別変更は認めない”
トランスセクシュアルに法廷は”ノー” (7月19日発行STAR紙)
26歳でメディカル・アシスタントとして働いているアシュラフ・ハフィズ(仮名)さんは、女性への性別変更を求めて高等裁判所に訴えていたものの、その願いは却下された。本人は出廷していなかったが、出生証明書と身分証明書の性別を女性名のアリーシャ・ファルナに変更を求めていた。
その女性名を運転免許証と2口の銀行口座、さらに医科大学のメディカル・アシスタント修業証明書に転記して欲しいというのが要求だった。
アシュラフ・ハフィズさんは首都クアラルンプールの有名病院パンタイ・メディカル・センターで精神科医のカウンセリングとホルモン治療を経たのち、2009年5月にタイで性転換手術を受けていた。
彼の裁判所への申請書では、小学校に入った頃から女性的なしぐさや行動を好むことが顕著にあらわれ、好んで女生徒たちと遊ぶ傾向があったことが記されている。
彼の母親の提出した委任状にも、彼の性器は小さすぎて正常な機能を果たしていなかったと書かれている。
ヤジッド・ムスタファ判事はアシュラフ・ハフィズの申請を却下するにあたり、性転換手術だけを根拠に性別変更の申請を認める法的な根拠がないことを挙げている。
その他にも、性染色体の数、外性器および内性器とも女性と認定する要素を満たしているとは認められないこと。また、医師の診断書も不完全で断定的でないことに加え、法廷での審理期間中に生物学的見解を述べるための医師の証人出廷申請もなかったことを指摘している。
さらに、人間の性別は妊娠中に決定されるもので、手術によって変えられるものではないと延べ、
当法廷での判断を下すにあたり、法律解釈に与えるインパクトとその判定が社会一般を混乱させる恐れがないかどうかも判断基準として考慮せざるをえなかった。
また、手術はあくまで当人の精神が安らげる体に適応させるために行われたことを考慮すれば、手術の事実だけをもって法的判断を求めるのは不十分であると認定せざるを得ない、との判決理由を述べた。
この性別変更申請の弁護士をつとめたホーリー・アイザークス弁護士は、当原告は地元の大学でさらに学びたい意欲があるにもかかわらず、普通の生活をするのも困難な状況におかれていることを当初から指摘してきた。
アシュラフ・ハフィズさんは5月25日の法廷出頭の際には、赤と白のクバヤ(伝統衣装)にピンクのヘッドスカーフという人目を引く服装で現れ、この保守的な地の人々の間でどよめきが起こった。その折には、詰め寄るレポーター達には目もくれず、顔をかくしてメディアから駆け去っていった、という経緯もあった。
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《私的コメント》
マレーシアでは宗教の自由は認められていて、アラブ諸国のようにガチガチではなく、キリスト教会、仏教寺院、ヒンズー教寺院などもあちこちで見かけます。
しかし、国教であるイスラム教の戒律はそれなりにきびしく、シャリアというイスラム法典が法律の基本になっているので、性別変更という人間の誕生にかかわる問題への兆戦と法的訴えが将来的にも認められる可能性は、残念ながら低いと思わざるを得ません。
また医師などの有利な証言につながる専門家の証人を呼ばなかったというのは、弁護側の大きな手落ちだったと思います。SRSの将来を左右する絶好の機会に十分なインパクトを与えないまま、逃してしまう結果になったのはなんとも残念なことです。
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《続報・悲報》
ここまで書いて投稿しようとした矢先の今朝(7月31日)のこと、日刊スター紙を見て仰天しました。当のアシュラフさんが心臓病のため急死したというニュースです。以下は記事の要約です。
<州都:クアラトレンガヌより>
アシュラフ・ハフィズさん(26歳)が死亡した、彼が裁判所に訴えても欲しかった女性名アリーシャ・ファルハナとともに。
当地の病院の医師たちによると、彼は金曜日に心臓発作と低血圧症のため入院したが、昨日土曜日午前4時55分に狭心症と心発性ショックが原因で死去した。
2年前にバンコクで性転換手術を済ませ、身分証明書の性別を男性から女性に変更するための裁判で敗訴したばかりだった。彼の遺族は高等裁判所の判決にしたがい、同日午後4時30分に当地のムスリム墓地に男性として埋葬をすませた。
アシュラフさんの父親(60歳)は、”近親者がみんな集まり最期の時を迎えるまで見守っていたので、心にぽっかり穴があいたような気持ちだ”。また母親(51歳)は、”まもなく来るイスラムの祭典ハリラヤに備えて気に入った衣装を注文したばかりだったのに・・・・”と悲嘆にくれていた。
一方、首都クアラルンプールでは、女性・家族・地域開発担当大臣(女性)は、”アシュラフさんの件は気にかかってはいたのに、相談相手になる機会がなかったのは残念です。門戸はいつも開いているのですが、呼びつけるわけにもいかなかった。”
また昨夜、50人ほどの人々がひマレーシア司法会館前に集まり、キャンドルライトのもとアシュラフさんの追悼集会が開かれた。社会活動家でセクシュアリティ協会の設立者のひとりであるパン・キー・テイクさんは、”女性名「アリーシャ」さんの公正な判断を求める権利が否定されたことに抗議する意思を訴えたかったのです。”
(5月の出廷時のアリーシャさん)

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2011年7月28日木曜日
SRS目前の迷い
SRSを目前にして迷う
まだ20台前半のMTF当事者の方とメールでのやりとりが数回続いたあと、具体的な手術日程を検討する段階にきて急に連絡が途絶えました。まだ若い方なのでいろいろ事情もあるだろうと思い、念のためもう一度連絡したところ、いろいろ迷うことがありもう少し考えた上で決断したいので・・・・という丁重なお返事がありました。
以下はそれに対する私の返答です。ご参考までに私の返答をそのまま投稿させて頂きます。
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00さん、お便り頂きありがとうございます。たいへん気持ちが楽になりました。
実際のところ、00さんのように若い人は始めてだったので、面談もなしに本当に話を進めて大丈夫かなという一抹の不安は感じていました。その意味で私自身の反省もふくめていい教訓の機会になりました。
迷いの理由はわかりませんが、SRSを決断するに当たって自分のジェンダーに確信がもてなくなった(本当に女性になるのが本望なのか?)、それとも一時の迷いなのか(そう主張する精神科医もいます)?
自分のジェンダーに自信がもてない場合は、体の性を変更するSRSにはぜったい進むべきではないと思っています。いずれにしろ、迷いが解決するまではSRSは避けるべきです。後戻りのできない手術になりますから。
先日バンコクに行ったとき、FTM(女性から男性)の人たちと会食の機会があり貴重な経験談を聞きました。その人(30台前半)はまだ乳房を除去しただけの段階ですが、ホルモン治療のせいであごひげ、口ひげを生やし、外見、話しぶりなども精悍な男性そのものです。
彼の話では、ポルノビデオを見るきは、自分が上になってセックスしている男の気持ちになって観ている、というのです。これは明確に「彼」が体はまだ女性でありながら、ジェンダー(性意識)は完全に男性のものであるという証拠だと思いました。ジェンダー意識とはこんなものだという一例に過ぎないかもしれませんが、面と向かって聞いた生々しい個人体験談ですから参考にはなるでしょう。
ホルモン治療も1年も続けていると後戻りできないと理解していますので、この点も医師に相談したうえで、慎重に行動してください。まだお若いですから、あわてることはありません。いつでもご相談に応じますのでご連絡ください。
くれぐれもお大事に。
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《さらに思う》最近はGID・SRSに関する情報も多くなっただけに、若い当事者にとっては自分はどうすればいいのか迷うひとが増えてもおかしくありません。逆に30台や40台の当事者は、自分たちが一番悩んで苦しんだ時期には何の情報もなかったという、語りつくせない痛切な思いがあると考えると、私自身も複雑な思いです。しかし、物事は深刻に考えても解決しないことは学びましたので・・・・。
(クアラルンプールにて)
まだ20台前半のMTF当事者の方とメールでのやりとりが数回続いたあと、具体的な手術日程を検討する段階にきて急に連絡が途絶えました。まだ若い方なのでいろいろ事情もあるだろうと思い、念のためもう一度連絡したところ、いろいろ迷うことがありもう少し考えた上で決断したいので・・・・という丁重なお返事がありました。
以下はそれに対する私の返答です。ご参考までに私の返答をそのまま投稿させて頂きます。
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00さん、お便り頂きありがとうございます。たいへん気持ちが楽になりました。
実際のところ、00さんのように若い人は始めてだったので、面談もなしに本当に話を進めて大丈夫かなという一抹の不安は感じていました。その意味で私自身の反省もふくめていい教訓の機会になりました。
迷いの理由はわかりませんが、SRSを決断するに当たって自分のジェンダーに確信がもてなくなった(本当に女性になるのが本望なのか?)、それとも一時の迷いなのか(そう主張する精神科医もいます)?
自分のジェンダーに自信がもてない場合は、体の性を変更するSRSにはぜったい進むべきではないと思っています。いずれにしろ、迷いが解決するまではSRSは避けるべきです。後戻りのできない手術になりますから。
先日バンコクに行ったとき、FTM(女性から男性)の人たちと会食の機会があり貴重な経験談を聞きました。その人(30台前半)はまだ乳房を除去しただけの段階ですが、ホルモン治療のせいであごひげ、口ひげを生やし、外見、話しぶりなども精悍な男性そのものです。
彼の話では、ポルノビデオを見るきは、自分が上になってセックスしている男の気持ちになって観ている、というのです。これは明確に「彼」が体はまだ女性でありながら、ジェンダー(性意識)は完全に男性のものであるという証拠だと思いました。ジェンダー意識とはこんなものだという一例に過ぎないかもしれませんが、面と向かって聞いた生々しい個人体験談ですから参考にはなるでしょう。
ホルモン治療も1年も続けていると後戻りできないと理解していますので、この点も医師に相談したうえで、慎重に行動してください。まだお若いですから、あわてることはありません。いつでもご相談に応じますのでご連絡ください。
くれぐれもお大事に。
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《さらに思う》最近はGID・SRSに関する情報も多くなっただけに、若い当事者にとっては自分はどうすればいいのか迷うひとが増えてもおかしくありません。逆に30台や40台の当事者は、自分たちが一番悩んで苦しんだ時期には何の情報もなかったという、語りつくせない痛切な思いがあると考えると、私自身も複雑な思いです。しかし、物事は深刻に考えても解決しないことは学びましたので・・・・。
(クアラルンプールにて)
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