2011年8月18日木曜日
SRS? GRS?
SRS/GRS; Gender/Sexuality, etc.
何気なく使っているこのような用語に深い意味があることに、あらためて考えさせられる機会がふえて頭を悩ませていました。私はGID当事者ではないので、このような問題を客観視できる立場から私見を述べてみたいと思った次第です。
セックスか、ジェンダーか
一般に通用している「性別適合手術」という言葉は”Sex Reassignment Surgery”の訳語ですが、これを”Gender Reassignment Surgery”と呼ぶ人もいます。タイのプリチャー医師もその一人で、以前からGRSという用語を好んで使っています。SRSが一般的な今ではGRSは古い用語なのだろう、くらいにしか思って深くは追求しなかったのですが、最近ちょっと待てよと思い始めています。GRSにはそれなりの深い意味合いがあるのではないかと・・・・。
つまり“Sex”と“Gender”の違いと、その相互関連性です。俗っぽい言い方をすれば、セックスというのは両脚の間にあるもの、ジェンダーというのは両耳の間にあるものという単純明瞭な区別ですが、それはあくまでこの摩訶不思議な存在の宿る場所を特定したものにすぎません。
両耳の間というのは、もちろんあらゆる精神活動をコントロールする脳の司令塔のある場所のことで、とくに人間の性行動・性衝動に方向性を与える前頭葉のある場所のことです。愛情、幸福感、また違和感や不協和音もここで感受します。両脚の間にある性器官もこの脳内の司令塔に情報を提供し、またそこから指令を受ける関係にあります。ただ、きわめて生物学的な存在である性器官は出先機関にすぎず、そこで味わう興奮や快感はすべて脳内司令室の受容により判断され幸福感や満足感として伝達されてくるのです。
おいしい、まずい、甘い、辛いなどの味覚も舌の味蕾で味わうとはいうものの、実際は脳神経を伝わって脳内の器官が感知して味わうのと同じです。舌の味蕾と脳神経は切っても切れない関係にあり、セックスも味覚も脳に対しては同じような従属関係だと言えます。ただ、出先機関の働きなしには、司令塔もなすすべがないという関係にあるようです。
GID(性同一性障害)というのはジェンダーとセックスの間の不協和音が原因となる悩みですが、ジェンダーは脳神経に関わるもので現状の医学では手術であれ薬物手法であれ、これを治療することは不可能です。一方セックスに関する肉体器官は外科的処置で、完璧とはいえないまでも作り変えることは可能です。性器官を外科手術によって、男性から女性へ、女性から男性へと転換して性別を再指定するのだから、性別適合手術(=性別再指定手術)はSRSでよいわけです。この手術という手順をふむことでジェンダーとセックスとの違和感が解消して、脳内の司令塔が発する本来の性意識に基づく人生が送れるようになる、というのがSRSという外科的処置の果たしている役割だと思います。
セクシュアリティとは?
ところが、性転換手術のアジアの草分け的存在であるプリチャー医師がなぜGRSを好んで使うのか、思い当たるケースに出会う機会が何度かありました。それは、SRSを受ける当事者にも自分のセクシュアリティ(性的指向)が異性なのか同性なのか明確でないひともかなり存在することです。
「男性から女性」のMTFを例にすれば、SRSを経て生物学的には女性になったものの自分の性的指向が異性である男性なのか、手術の結果いまや同性となった女性に向けられているのか、明確な自覚がないという場合があることです。
生物学的には男性として生まれ育った人が自分の性別に違和感を覚え、SRSを経て念願の女性になれたわけですから、今や異性である男性に性的興味をもつのが普通ではないか、と思うのが“普通”です。ところが、例外というよりは簡単に型にはめてはいけない面があるのです。
一般人の中にも「エイ・セクシュアル」という性愛にはとくに興味をもたない人もいるのです。古い調査ですが、アメリカのキンゼー・レポートでも未婚の女性では14-19%、未婚の男性では3-4%が、対象が異性であれ同性であれ性的接触に一切の興味をもたないと指摘されています。“草食系男子”が増えつつある現代の日本でも言えることですが、GID当事者にも同じような傾向をもつひとがいても驚くにはあたらないかもしれません。
念願の女性の身体になったのに、性的興味の対象は意外にも“同性”の女性だった、つまり同性愛指向だったという人もいるのです。心を許し、肉体的な愛情表現の対象として持続的な関係をもてるのは、意外にも同性だったと気付くポストTSの例は少なくないかもしれません。つまりゲイやレズビアンの関係がトランスセクシュアル当事者にも同じように存在するというのも事実です。レズビアンから派生した“トランスビアン”という言葉もあるそうですから。
ジェンダーとセクシュアリティの相性
ここで興味深いのは、SRS後にどういう性的指向に向かうかは実際に性体験をしてみないと分からない場合があることです。多くのGID当事者は肉体上の性別の違和感から逃れるために必死の思いでSRSまで進むのが精いっぱいで、実際の性体験を経ていない当事者が少なくないのではないかと思われます。
ジェンダーとセクシュアリティの実際の相性テストを経ないままSRSを受け、事後に経験する性体験からはじめて自分のセクシュアリティが確認できたケースが想定されます。この中には、異性愛もいるでしょうし、同性愛もいるし、両性愛も、また性愛などなくても生きていける人もいる、というのが現実の姿ではないかと思います。
つまり、SRS後にはじめてジェンダーとセクシュアリティの落ち着き場所(相性)がわかる、という見方に私は傾いています。この両者の相性が合致すれば、精神と身体の安らぎが得られるのではないか。それがSRSという外科的処置の目指すところであり、それが達成されれば究極の目的である精神(ジェンダー)の安堵が得られる。
「セクシュアリティ」という肉体的性指向はあくまで「ジェンダー」という性意識の従的な存在なので、「意識上の性別をいったん白紙に戻し再指定する手術」という意味に解釈できる「GRS=Gender Reassignment Surgery」と呼んでもいっこうに差し支えなく、この方が読みが深い術名ではないかと思えるようになった、という反省があります。
プリチャー先生は手術後一ヵ月半経てばもう性交渉をしてかまわないというのが口癖です。ちょっと早すぎるのではと言うと、そんなことはない、一ヵ月半で大丈夫だとゆずらない。医者というのは多くを語らない人が多いので、その真意を類推しての話ですが、SRS後に出来るだけ早い時期に親密な性的関係を体験することで、ジェンダーとセクシュアリティの相性を見極めて落ち着く場所がきまり、GID当事者がすみやかに安堵できるパートナーとともに生活の基盤を築いていけるようにと願っている、という先生の温情であるといささか拡大気味(!)に解釈してみた次第ですが・・・・。
眠れない真夏の夜の夢想だったかもしれませんので、このことは次回先生にお会いしたときに確認できればと思っています。
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2011年8月1日月曜日
トランスジェンダーの権利を求めて
トランスジェンダーにも権利がある (マレーシアからの報告2)
性転換手術のあと女性への姓名変更を訴えていたアシュラフ・ハフィズさん(26歳)が、州高等裁判所の否決の判決後わずか10日後に死亡した今になってはタイミングが狂いましたが、7月24日付のSTAR紙の読者投稿欄に次のような投稿がありましたので、遅ればせながらご紹介しておきます。(7月31日付投稿参照)
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アリーシャ・ファルハナさん(男性名アシュラフ・ハフィズ)と家族の方々に哀悼の意を表します。彼女やその両親には何の罪もないにもかかわらず、彼女は生まれながらの重荷を背負う人生になったわけです。
彼女や家族がもろもろの差別、いやがらせ、残酷とも言える扱いにさらされる立場の追いやられるのは、理由はどうあれ自然もたまにはへまをすることがあり、いろいろな障害を負った人が生まれてくるということを社会がまだ理解していないからです。肉体の性とは別の性意識をもって生まれるのもその一例にすぎません。
マレーシアも世界の先進国の例に倣い、このような人々をあらゆる社会生活の場面において真摯に受け入れる態勢を整えるべきです。
目や耳の不自由な人たちやその他の身体障害者と同じように、トランスジェンダーにも基本的人権があり、愛され、また愛する権利があって当然です。
自らの権利だけでなく同じような境遇におかれているトランスジェンダーたちの権利を求めて、闘う決意を示したアリーシャ・ファルハナさんの勇気ある行動に応援の拍手を送りたいと思います。
Dr.Peter J.Pereira (助教授、シャーアラム市)
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2011年7月31日日曜日
トランスセクシュアルの悩み
トランスセクシュアルの性別変更(マレーシア)
マレーシアの日刊英字新聞STARに最近3回続けさまにTJ・TSについての記事が載ったので、ご紹介します。
最初の記事は東海岸トレンガヌ州での性別変更に関する裁判での判決です。この州はイスラム教国マレーシアでも保守的なイスラム教徒の多い地域なので、判決が「ノー」だったのはべつに驚くことはないですが、裁判に訴えても性別変更を勝ち取ろうとした勇気あるTS当事者がいたことに正直おどろきました。
”Mykad”(マイカード)と呼ばれるIDカードが日常生活や職業の選択に直ちに障害になるだけに、SRSを済ませても性別変更ができないのは当事者にとっては深刻な問題です。日本でもそうだったように、法律の壁をやぶるのは並大抵なことではないので、同情は禁じえませんが、、、。
”性転換しても性別変更は認めない”
トランスセクシュアルに法廷は”ノー” (7月19日発行STAR紙)
26歳でメディカル・アシスタントとして働いているアシュラフ・ハフィズ(仮名)さんは、女性への性別変更を求めて高等裁判所に訴えていたものの、その願いは却下された。本人は出廷していなかったが、出生証明書と身分証明書の性別を女性名のアリーシャ・ファルナに変更を求めていた。
その女性名を運転免許証と2口の銀行口座、さらに医科大学のメディカル・アシスタント修業証明書に転記して欲しいというのが要求だった。
アシュラフ・ハフィズさんは首都クアラルンプールの有名病院パンタイ・メディカル・センターで精神科医のカウンセリングとホルモン治療を経たのち、2009年5月にタイで性転換手術を受けていた。
彼の裁判所への申請書では、小学校に入った頃から女性的なしぐさや行動を好むことが顕著にあらわれ、好んで女生徒たちと遊ぶ傾向があったことが記されている。
彼の母親の提出した委任状にも、彼の性器は小さすぎて正常な機能を果たしていなかったと書かれている。
ヤジッド・ムスタファ判事はアシュラフ・ハフィズの申請を却下するにあたり、性転換手術だけを根拠に性別変更の申請を認める法的な根拠がないことを挙げている。
その他にも、性染色体の数、外性器および内性器とも女性と認定する要素を満たしているとは認められないこと。また、医師の診断書も不完全で断定的でないことに加え、法廷での審理期間中に生物学的見解を述べるための医師の証人出廷申請もなかったことを指摘している。
さらに、人間の性別は妊娠中に決定されるもので、手術によって変えられるものではないと延べ、
当法廷での判断を下すにあたり、法律解釈に与えるインパクトとその判定が社会一般を混乱させる恐れがないかどうかも判断基準として考慮せざるをえなかった。
また、手術はあくまで当人の精神が安らげる体に適応させるために行われたことを考慮すれば、手術の事実だけをもって法的判断を求めるのは不十分であると認定せざるを得ない、との判決理由を述べた。
この性別変更申請の弁護士をつとめたホーリー・アイザークス弁護士は、当原告は地元の大学でさらに学びたい意欲があるにもかかわらず、普通の生活をするのも困難な状況におかれていることを当初から指摘してきた。
アシュラフ・ハフィズさんは5月25日の法廷出頭の際には、赤と白のクバヤ(伝統衣装)にピンクのヘッドスカーフという人目を引く服装で現れ、この保守的な地の人々の間でどよめきが起こった。その折には、詰め寄るレポーター達には目もくれず、顔をかくしてメディアから駆け去っていった、という経緯もあった。
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《私的コメント》
マレーシアでは宗教の自由は認められていて、アラブ諸国のようにガチガチではなく、キリスト教会、仏教寺院、ヒンズー教寺院などもあちこちで見かけます。
しかし、国教であるイスラム教の戒律はそれなりにきびしく、シャリアというイスラム法典が法律の基本になっているので、性別変更という人間の誕生にかかわる問題への兆戦と法的訴えが将来的にも認められる可能性は、残念ながら低いと思わざるを得ません。
また医師などの有利な証言につながる専門家の証人を呼ばなかったというのは、弁護側の大きな手落ちだったと思います。SRSの将来を左右する絶好の機会に十分なインパクトを与えないまま、逃してしまう結果になったのはなんとも残念なことです。
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《続報・悲報》
ここまで書いて投稿しようとした矢先の今朝(7月31日)のこと、日刊スター紙を見て仰天しました。当のアシュラフさんが心臓病のため急死したというニュースです。以下は記事の要約です。
<州都:クアラトレンガヌより>
アシュラフ・ハフィズさん(26歳)が死亡した、彼が裁判所に訴えても欲しかった女性名アリーシャ・ファルハナとともに。
当地の病院の医師たちによると、彼は金曜日に心臓発作と低血圧症のため入院したが、昨日土曜日午前4時55分に狭心症と心発性ショックが原因で死去した。
2年前にバンコクで性転換手術を済ませ、身分証明書の性別を男性から女性に変更するための裁判で敗訴したばかりだった。彼の遺族は高等裁判所の判決にしたがい、同日午後4時30分に当地のムスリム墓地に男性として埋葬をすませた。
アシュラフさんの父親(60歳)は、”近親者がみんな集まり最期の時を迎えるまで見守っていたので、心にぽっかり穴があいたような気持ちだ”。また母親(51歳)は、”まもなく来るイスラムの祭典ハリラヤに備えて気に入った衣装を注文したばかりだったのに・・・・”と悲嘆にくれていた。
一方、首都クアラルンプールでは、女性・家族・地域開発担当大臣(女性)は、”アシュラフさんの件は気にかかってはいたのに、相談相手になる機会がなかったのは残念です。門戸はいつも開いているのですが、呼びつけるわけにもいかなかった。”
また昨夜、50人ほどの人々がひマレーシア司法会館前に集まり、キャンドルライトのもとアシュラフさんの追悼集会が開かれた。社会活動家でセクシュアリティ協会の設立者のひとりであるパン・キー・テイクさんは、”女性名「アリーシャ」さんの公正な判断を求める権利が否定されたことに抗議する意思を訴えたかったのです。”
(5月の出廷時のアリーシャさん)

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2011年7月28日木曜日
SRS目前の迷い
SRSを目前にして迷う
まだ20台前半のMTF当事者の方とメールでのやりとりが数回続いたあと、具体的な手術日程を検討する段階にきて急に連絡が途絶えました。まだ若い方なのでいろいろ事情もあるだろうと思い、念のためもう一度連絡したところ、いろいろ迷うことがありもう少し考えた上で決断したいので・・・・という丁重なお返事がありました。
以下はそれに対する私の返答です。ご参考までに私の返答をそのまま投稿させて頂きます。
**********
00さん、お便り頂きありがとうございます。たいへん気持ちが楽になりました。
実際のところ、00さんのように若い人は始めてだったので、面談もなしに本当に話を進めて大丈夫かなという一抹の不安は感じていました。その意味で私自身の反省もふくめていい教訓の機会になりました。
迷いの理由はわかりませんが、SRSを決断するに当たって自分のジェンダーに確信がもてなくなった(本当に女性になるのが本望なのか?)、それとも一時の迷いなのか(そう主張する精神科医もいます)?
自分のジェンダーに自信がもてない場合は、体の性を変更するSRSにはぜったい進むべきではないと思っています。いずれにしろ、迷いが解決するまではSRSは避けるべきです。後戻りのできない手術になりますから。
先日バンコクに行ったとき、FTM(女性から男性)の人たちと会食の機会があり貴重な経験談を聞きました。その人(30台前半)はまだ乳房を除去しただけの段階ですが、ホルモン治療のせいであごひげ、口ひげを生やし、外見、話しぶりなども精悍な男性そのものです。
彼の話では、ポルノビデオを見るきは、自分が上になってセックスしている男の気持ちになって観ている、というのです。これは明確に「彼」が体はまだ女性でありながら、ジェンダー(性意識)は完全に男性のものであるという証拠だと思いました。ジェンダー意識とはこんなものだという一例に過ぎないかもしれませんが、面と向かって聞いた生々しい個人体験談ですから参考にはなるでしょう。
ホルモン治療も1年も続けていると後戻りできないと理解していますので、この点も医師に相談したうえで、慎重に行動してください。まだお若いですから、あわてることはありません。いつでもご相談に応じますのでご連絡ください。
くれぐれもお大事に。
**********

《さらに思う》最近はGID・SRSに関する情報も多くなっただけに、若い当事者にとっては自分はどうすればいいのか迷うひとが増えてもおかしくありません。逆に30台や40台の当事者は、自分たちが一番悩んで苦しんだ時期には何の情報もなかったという、語りつくせない痛切な思いがあると考えると、私自身も複雑な思いです。しかし、物事は深刻に考えても解決しないことは学びましたので・・・・。
(クアラルンプールにて)
まだ20台前半のMTF当事者の方とメールでのやりとりが数回続いたあと、具体的な手術日程を検討する段階にきて急に連絡が途絶えました。まだ若い方なのでいろいろ事情もあるだろうと思い、念のためもう一度連絡したところ、いろいろ迷うことがありもう少し考えた上で決断したいので・・・・という丁重なお返事がありました。
以下はそれに対する私の返答です。ご参考までに私の返答をそのまま投稿させて頂きます。
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00さん、お便り頂きありがとうございます。たいへん気持ちが楽になりました。
実際のところ、00さんのように若い人は始めてだったので、面談もなしに本当に話を進めて大丈夫かなという一抹の不安は感じていました。その意味で私自身の反省もふくめていい教訓の機会になりました。
迷いの理由はわかりませんが、SRSを決断するに当たって自分のジェンダーに確信がもてなくなった(本当に女性になるのが本望なのか?)、それとも一時の迷いなのか(そう主張する精神科医もいます)?
自分のジェンダーに自信がもてない場合は、体の性を変更するSRSにはぜったい進むべきではないと思っています。いずれにしろ、迷いが解決するまではSRSは避けるべきです。後戻りのできない手術になりますから。
先日バンコクに行ったとき、FTM(女性から男性)の人たちと会食の機会があり貴重な経験談を聞きました。その人(30台前半)はまだ乳房を除去しただけの段階ですが、ホルモン治療のせいであごひげ、口ひげを生やし、外見、話しぶりなども精悍な男性そのものです。
彼の話では、ポルノビデオを見るきは、自分が上になってセックスしている男の気持ちになって観ている、というのです。これは明確に「彼」が体はまだ女性でありながら、ジェンダー(性意識)は完全に男性のものであるという証拠だと思いました。ジェンダー意識とはこんなものだという一例に過ぎないかもしれませんが、面と向かって聞いた生々しい個人体験談ですから参考にはなるでしょう。
ホルモン治療も1年も続けていると後戻りできないと理解していますので、この点も医師に相談したうえで、慎重に行動してください。まだお若いですから、あわてることはありません。いつでもご相談に応じますのでご連絡ください。
くれぐれもお大事に。
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《さらに思う》最近はGID・SRSに関する情報も多くなっただけに、若い当事者にとっては自分はどうすればいいのか迷うひとが増えてもおかしくありません。逆に30台や40台の当事者は、自分たちが一番悩んで苦しんだ時期には何の情報もなかったという、語りつくせない痛切な思いがあると考えると、私自身も複雑な思いです。しかし、物事は深刻に考えても解決しないことは学びましたので・・・・。
(クアラルンプールにて)
2011年6月14日火曜日
もう一つのMTF・SRS術式
直腸S状結腸膣形成術
Recto-Sigmoid Colon Vaginoplasty
一般的なSRSとは
MTFの手術方式といえば陰茎・陰嚢皮膚反転方が一般的で、ほとんどのSRSはこの方式で行われています。ただこの術式にも問題がないわけでななく、難点は手術の技術上の問題ではなく、術後のダイレーションという大変根気のいる、長期にわたる作業が待ちかまえていることです。これは患者に日課として課せられるメンテナンス作業ですが、6ヶ月以上の長期にわたるためついつい手抜きしたり、痛みにくじけて挫折するひともでてきます。
新たに造った新膣のポケットが縮小しないように、ダイレーターというアクリル製のペニス状の棒を膣内に挿入し、膣を構成する筋肉組織や内壁が縮まないように、毎日2回は30分ほどこの挿入作業をする必要があります。期間は最低でも術後6ヶ月、その後は回数をへらして1年ほどは続けます。アクティブな性生活を送れるひとは、性交がダイレーションの代わりになるので、この面倒な作業からは早く開放されます。
問題なのは、術後間もない時期はまだ膣内も安定していないため、ダイレーション中に出血したり、痛みがひどくて挿入を中断したり、または次の大きいサイズのダイレーターに進めなくて、途中でギブアップするケースがあることです。
自分で自分の膣内に挿入するわけですから、痛い場合にはどうしても弱気になりひるんでしまいます。所定の深さまで挿入できず中途半端なダイレーションで終わってしまい、それに妥協することがダイレーション失敗の原因となるのです。
特に最初の1-2ヶ月が大事な時期です。この期間に大きいサイズのダイレーターに成功していれば、あとはまず心配することはないでしょう。この時期にギブアップすることは膣の深さが浅いまま、膣径も小さいままで将来を過ごすことになるのです。
男性とのアクティブな性生活は期待していない人、また念願の本来の女性になれだけで十分です、と自分で納得できる人はそれでも構わないでしょう。
ところが、男女間の性交のできる膣がどうしても欲しいという場合には、残された方法はひとつです。それが、直腸S状結腸部分を使った膣形成術です。最初に行ったSRSのやり直しですから、再手術ということになります。
最初から直腸S状結腸膣形成術を選ぶ場合
SRSの術式として患者が最初からこの方法を選ぶ、または医師が推薦する場合があります。
それは生来ペニスが小さい、包茎手術で皮膚が足りない、または内壁に使える陰嚢皮膚が足りそうにない場合です。この場合にはダイレーションでも得られる深さは限られるので、最初からこの術式を選べばダイレーションの苦労を味わうことなく目的を達成できます。該当すると思われる方は、この術式を最初から検討する価値は大いにあると思います。
直腸S状結腸を利用した膣形成術の優れた面
1.この大腸内部には自然の膣粘液に似た成分が産出されており、やわらかいひだの多い腸の内壁は伸縮性にすぐれ、構造的にも見た目にも女性の膣内部と似通っている。
2.自発的な粘液の産出があるため、そのうるおいにより性行為が容易に行える。潤滑剤のジェリーなども必要ない。
3.長期にわたる膣内ステント(ダイレーター)を使用しなくても、十分な膣の深さと広さが確保される。
4.患者自身の満足感が高く、結果に対する医師の満足感も高いという評価が多い。
この術式の留意点
1.結腸を切除して移植する手術のため下腹部を切開する必要があり、帝王切開(横10cm)ほどの傷跡が残る。
2.結腸特有の粘液が自然に産出されるため、おりものに似た液が常に出るためナプキンが必要になるという報告がある。ただ、女性にはある種のおりものはつきものなので、実際に手術を受けた患者の満足度が高いという点を考慮すると大げさに考えるほどの問題ではない、というのが担当医師の見方です。
3.この手術法は二つのチームに分けて行い、内臓外科医が約10~15cmの直腸S状結腸部分を切り離し、SRS外科医チームが新膣のスペースを切り開いて、最後に膣口に接合するという方法をとる。二つの作業は同時進行的に行われる。
4.合併症として便通に異常(下痢、便秘など)が起こり得るが、2-3ヶ月で排便機能は正常にもどると考えてよい。
5.腹部切開による結腸を切除する手術が必要となるため、通常のSRSの場合より経費が2千ドルほど高くなる。
プリチャー医師がいつも言うように、どんな手術にも完璧というものはない。アジアのSRS先駆者であるPAIでは、1980年から2011年までの30年間に1158例に及ぶこの術式の経験を重ねている。患者の満足度の高さからもいっても、プリチャー医師はこの術式のプラス面がもっと前向きに評価されるのを期待しているとコメントしています。
*****
Recto-Sigmoid Colon Vaginoplasty
一般的なSRSとは
MTFの手術方式といえば陰茎・陰嚢皮膚反転方が一般的で、ほとんどのSRSはこの方式で行われています。ただこの術式にも問題がないわけでななく、難点は手術の技術上の問題ではなく、術後のダイレーションという大変根気のいる、長期にわたる作業が待ちかまえていることです。これは患者に日課として課せられるメンテナンス作業ですが、6ヶ月以上の長期にわたるためついつい手抜きしたり、痛みにくじけて挫折するひともでてきます。
新たに造った新膣のポケットが縮小しないように、ダイレーターというアクリル製のペニス状の棒を膣内に挿入し、膣を構成する筋肉組織や内壁が縮まないように、毎日2回は30分ほどこの挿入作業をする必要があります。期間は最低でも術後6ヶ月、その後は回数をへらして1年ほどは続けます。アクティブな性生活を送れるひとは、性交がダイレーションの代わりになるので、この面倒な作業からは早く開放されます。
問題なのは、術後間もない時期はまだ膣内も安定していないため、ダイレーション中に出血したり、痛みがひどくて挿入を中断したり、または次の大きいサイズのダイレーターに進めなくて、途中でギブアップするケースがあることです。
自分で自分の膣内に挿入するわけですから、痛い場合にはどうしても弱気になりひるんでしまいます。所定の深さまで挿入できず中途半端なダイレーションで終わってしまい、それに妥協することがダイレーション失敗の原因となるのです。
特に最初の1-2ヶ月が大事な時期です。この期間に大きいサイズのダイレーターに成功していれば、あとはまず心配することはないでしょう。この時期にギブアップすることは膣の深さが浅いまま、膣径も小さいままで将来を過ごすことになるのです。
男性とのアクティブな性生活は期待していない人、また念願の本来の女性になれだけで十分です、と自分で納得できる人はそれでも構わないでしょう。
ところが、男女間の性交のできる膣がどうしても欲しいという場合には、残された方法はひとつです。それが、直腸S状結腸部分を使った膣形成術です。最初に行ったSRSのやり直しですから、再手術ということになります。
最初から直腸S状結腸膣形成術を選ぶ場合
SRSの術式として患者が最初からこの方法を選ぶ、または医師が推薦する場合があります。
それは生来ペニスが小さい、包茎手術で皮膚が足りない、または内壁に使える陰嚢皮膚が足りそうにない場合です。この場合にはダイレーションでも得られる深さは限られるので、最初からこの術式を選べばダイレーションの苦労を味わうことなく目的を達成できます。該当すると思われる方は、この術式を最初から検討する価値は大いにあると思います。
直腸S状結腸を利用した膣形成術の優れた面
1.この大腸内部には自然の膣粘液に似た成分が産出されており、やわらかいひだの多い腸の内壁は伸縮性にすぐれ、構造的にも見た目にも女性の膣内部と似通っている。
2.自発的な粘液の産出があるため、そのうるおいにより性行為が容易に行える。潤滑剤のジェリーなども必要ない。
3.長期にわたる膣内ステント(ダイレーター)を使用しなくても、十分な膣の深さと広さが確保される。
4.患者自身の満足感が高く、結果に対する医師の満足感も高いという評価が多い。
この術式の留意点
1.結腸を切除して移植する手術のため下腹部を切開する必要があり、帝王切開(横10cm)ほどの傷跡が残る。
2.結腸特有の粘液が自然に産出されるため、おりものに似た液が常に出るためナプキンが必要になるという報告がある。ただ、女性にはある種のおりものはつきものなので、実際に手術を受けた患者の満足度が高いという点を考慮すると大げさに考えるほどの問題ではない、というのが担当医師の見方です。
3.この手術法は二つのチームに分けて行い、内臓外科医が約10~15cmの直腸S状結腸部分を切り離し、SRS外科医チームが新膣のスペースを切り開いて、最後に膣口に接合するという方法をとる。二つの作業は同時進行的に行われる。
4.合併症として便通に異常(下痢、便秘など)が起こり得るが、2-3ヶ月で排便機能は正常にもどると考えてよい。
5.腹部切開による結腸を切除する手術が必要となるため、通常のSRSの場合より経費が2千ドルほど高くなる。
プリチャー医師がいつも言うように、どんな手術にも完璧というものはない。アジアのSRS先駆者であるPAIでは、1980年から2011年までの30年間に1158例に及ぶこの術式の経験を重ねている。患者の満足度の高さからもいっても、プリチャー医師はこの術式のプラス面がもっと前向きに評価されるのを期待しているとコメントしています。
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2011年6月1日水曜日
イスラム教国マレーシアのTSの現状
マレーシアのトランスセクシュアルの話題
今マレーシアに滞在しています。イスラムを国教とする国ですが、中近東などと違い包容力のある政策で他宗教にも寛大で、キリスト教、ヒンズー教、仏教なども認められています。現時点の国民の構成は、マレー系59%、中国系32%、インド系9%という構成になっている。
ただマレー系の人々はまず全員がイスラム教徒であることが原則で、イスラムの戒律を守ることが要求されている。
イスラムでは豚肉はご法度なので、ホテルなどではソーセージやハムもチキンか牛肉で、ぱさぱさしておいしくない。ほとんどのフードコート(食堂街)でもさまざまな料理が注文できるが豚肉だけは出てこない。中華料理のレストランなら豚肉も問題なく食べられる。そこにはイスラム教徒は近寄らないからである。
イスラム教徒も男性は普段着では区別がつかないが、女性はまず全員がヘッドスカーフをかぶっているので遠くからでも識別できる。暑い気候なのに長袖とジーンズやくるぶしの隠れる長いワンピース姿が普通。スカーフは色やデザインはとりどりで、衣服のファッションのコーディネートを楽しんでいるのは見ていても心が華やいでくる。

マレーシアではイスラム系の女性の社会進出は活発で、サウジアラビアのように女性の運転は禁止などという戒律はなく、街の風景もカラフルで、女性のファッションが目を楽しませてくれる。
人種や文化が違っても世界中のどこの国にもトランスセクシュアルは存在する。イスラム諸国では表立っては認められていないが、TSや同性愛などイスラムの認めない性指向をもつ人たちの存在は否定のしようがない。ただ社会的には表立って話題になることが少ないのは隣国タイなどとの違いである。それだけに当事者にとっては理解してくれる味方が少なく、孤立した環境におかれているのは大いに同情に値する。
今回クアラルンプールへに着いた日の英字新聞に、珍しくトランスセクシュアルの記事があったので以下にご紹介しておきます。
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Helping transsexuals blend into society (New Straits Times, 28th May 2011)
トランスセクシュアルが社会に溶け込むために
マレーシアの東海岸パハン州のクアンタン市は南シナ海に面するリゾート地として有名なところです。ここのリゾートホテルのセミナー会場に集まってくるデザイナーバッグを携えて颯爽としたみなりの女性たち、立ち止まった人たちの目が追いかけます。
ただこの女性たちは見世物的なイベントやひんしゅくを買うような目的のために集まったのではありません。30歳から40歳台の30人のこのグループが集まった目的は、ここでの4日間のセミナーでこれからの人生の目標とモチベーション向上を図り、自らの暮らしと人生の充実を目指す手がかりをつかむことです。
”プリティウーマン”と言われてもおかしくないような人は美容師やドレスの縫製などの仕事で生計を立てているものの、家族から疎外され社会からは横目でみられる人たちの行き着く場所は夜の世界しかないのが現実です。
このセミナーではいろいろなキャリア向上プログラムや人生を新たに始めたい人のためのプログラムに加えて、健康管理や道徳問題にも時間をさいている。
午前中いっぱい真剣な課題に取り組んだあとは、参加者たちはファッショナブルなアクセサリーや衣服からスポーツ着に着替えて、チームで行動する野外プログラムに参加する。その中には3時間のジャングルトレッキングもある。
参加者の一人ララ(仮名)はジョホールバル市出身で、彼女の言いうにはこのセミナーは眼からうろこが取れる新鮮なもので、TSコミュニティーの他の人たちにもぜひ広めてもらいたい、とこのセミナーの意義を高く評価している。
「私たちはいつも差別されていると感じています。自分の家族は現実を受け入れる心の用意ができていても、周辺の人々はやはり受け入れを拒む態度なので、私たちは透明人間のように感じながら生きています。このようなプログラムの助けがあればもっといい将来を期待することができます。」
ララは現在はドレスの縫製で生計を立てているが、地域社会の偏見のため彼女と同じ立場の人たちが職場を見つけるのは容易ではないと言う。
「私たちの中には大学卒もいるが、悲しいことに社会が拒むため仕事を見つけるのはむずかしく、そのうちに夜の世界に吹き寄せられてそこしか居場所がない人が多いのです。」
アンパン出身でフリーランスの美容師をしているジム(仮名)は言う。「このようなプログラムがもっとあれば、国内のトランスセクシュアルたちが日ごろから抱いている社会に出る恐怖憾に打ち勝つ助けになると思います。また、このようなプログラムは同じような境遇にいるトランスセクシュアルと知り合い助け合ういい機会になります。」
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(注1)この新聞記事では、インタビューされたLara(女性名)は、文面ではheと男性として扱われている。もう一人のJimは男性名なので違和感はない。イスラム教国家であるマレーシアでも性的マイノリティが存在することは知られているが、公には認知されていないため、たとえSRSを済ませても性別変更はできない。
(注2)イスラム教国家ではSRSを行う病院は存在しないので、手術をする場合は隣国のタイかシンガポールということになる。手術費と滞在費用を考えると、SRSまで踏み込めるTSは多くないと推測される。このセミナーの参加者の中にはまだSRSを済ませていないTSがかなりの割合で混じっているのではないかと思われます。
(注3)このセミナーは政府機関であるイスラム開発局やマレーシア・エイズ協議会など4団体の主催で行われたものです。
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今マレーシアに滞在しています。イスラムを国教とする国ですが、中近東などと違い包容力のある政策で他宗教にも寛大で、キリスト教、ヒンズー教、仏教なども認められています。現時点の国民の構成は、マレー系59%、中国系32%、インド系9%という構成になっている。
ただマレー系の人々はまず全員がイスラム教徒であることが原則で、イスラムの戒律を守ることが要求されている。
イスラムでは豚肉はご法度なので、ホテルなどではソーセージやハムもチキンか牛肉で、ぱさぱさしておいしくない。ほとんどのフードコート(食堂街)でもさまざまな料理が注文できるが豚肉だけは出てこない。中華料理のレストランなら豚肉も問題なく食べられる。そこにはイスラム教徒は近寄らないからである。
イスラム教徒も男性は普段着では区別がつかないが、女性はまず全員がヘッドスカーフをかぶっているので遠くからでも識別できる。暑い気候なのに長袖とジーンズやくるぶしの隠れる長いワンピース姿が普通。スカーフは色やデザインはとりどりで、衣服のファッションのコーディネートを楽しんでいるのは見ていても心が華やいでくる。
マレーシアではイスラム系の女性の社会進出は活発で、サウジアラビアのように女性の運転は禁止などという戒律はなく、街の風景もカラフルで、女性のファッションが目を楽しませてくれる。
人種や文化が違っても世界中のどこの国にもトランスセクシュアルは存在する。イスラム諸国では表立っては認められていないが、TSや同性愛などイスラムの認めない性指向をもつ人たちの存在は否定のしようがない。ただ社会的には表立って話題になることが少ないのは隣国タイなどとの違いである。それだけに当事者にとっては理解してくれる味方が少なく、孤立した環境におかれているのは大いに同情に値する。
今回クアラルンプールへに着いた日の英字新聞に、珍しくトランスセクシュアルの記事があったので以下にご紹介しておきます。
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Helping transsexuals blend into society (New Straits Times, 28th May 2011)
トランスセクシュアルが社会に溶け込むために
マレーシアの東海岸パハン州のクアンタン市は南シナ海に面するリゾート地として有名なところです。ここのリゾートホテルのセミナー会場に集まってくるデザイナーバッグを携えて颯爽としたみなりの女性たち、立ち止まった人たちの目が追いかけます。
ただこの女性たちは見世物的なイベントやひんしゅくを買うような目的のために集まったのではありません。30歳から40歳台の30人のこのグループが集まった目的は、ここでの4日間のセミナーでこれからの人生の目標とモチベーション向上を図り、自らの暮らしと人生の充実を目指す手がかりをつかむことです。
”プリティウーマン”と言われてもおかしくないような人は美容師やドレスの縫製などの仕事で生計を立てているものの、家族から疎外され社会からは横目でみられる人たちの行き着く場所は夜の世界しかないのが現実です。
このセミナーではいろいろなキャリア向上プログラムや人生を新たに始めたい人のためのプログラムに加えて、健康管理や道徳問題にも時間をさいている。
午前中いっぱい真剣な課題に取り組んだあとは、参加者たちはファッショナブルなアクセサリーや衣服からスポーツ着に着替えて、チームで行動する野外プログラムに参加する。その中には3時間のジャングルトレッキングもある。
参加者の一人ララ(仮名)はジョホールバル市出身で、彼女の言いうにはこのセミナーは眼からうろこが取れる新鮮なもので、TSコミュニティーの他の人たちにもぜひ広めてもらいたい、とこのセミナーの意義を高く評価している。
「私たちはいつも差別されていると感じています。自分の家族は現実を受け入れる心の用意ができていても、周辺の人々はやはり受け入れを拒む態度なので、私たちは透明人間のように感じながら生きています。このようなプログラムの助けがあればもっといい将来を期待することができます。」
ララは現在はドレスの縫製で生計を立てているが、地域社会の偏見のため彼女と同じ立場の人たちが職場を見つけるのは容易ではないと言う。
「私たちの中には大学卒もいるが、悲しいことに社会が拒むため仕事を見つけるのはむずかしく、そのうちに夜の世界に吹き寄せられてそこしか居場所がない人が多いのです。」
アンパン出身でフリーランスの美容師をしているジム(仮名)は言う。「このようなプログラムがもっとあれば、国内のトランスセクシュアルたちが日ごろから抱いている社会に出る恐怖憾に打ち勝つ助けになると思います。また、このようなプログラムは同じような境遇にいるトランスセクシュアルと知り合い助け合ういい機会になります。」
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(注1)この新聞記事では、インタビューされたLara(女性名)は、文面ではheと男性として扱われている。もう一人のJimは男性名なので違和感はない。イスラム教国家であるマレーシアでも性的マイノリティが存在することは知られているが、公には認知されていないため、たとえSRSを済ませても性別変更はできない。
(注2)イスラム教国家ではSRSを行う病院は存在しないので、手術をする場合は隣国のタイかシンガポールということになる。手術費と滞在費用を考えると、SRSまで踏み込めるTSは多くないと推測される。このセミナーの参加者の中にはまだSRSを済ませていないTSがかなりの割合で混じっているのではないかと思われます。
(注3)このセミナーは政府機関であるイスラム開発局やマレーシア・エイズ協議会など4団体の主催で行われたものです。
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2011年4月17日日曜日
“SRSを無料で提供します”
“SRSを無料で提供します”
このバンコクポスト紙の2月24日の記事は、ちょうどその時バンコクに滞在中だったのに気が付かず、やっと昨日になってBPネット版の関連記事として目に飛び込んできました。
掲載された写真も大いに参考になりますので、遅まきながら紹介させていただきます。写真のキャプションを翻訳しておきますので、この記事の主眼がおわかりになると思います。タイのトランスジェンダーの状況がたいへん身近に感じられて、私としても思わず“グッドラック”と声援を送りたい気持ちになりました。
8枚のスライド写真は以下のURLからアクセスできます:
http://www.bangkokpost.com/multimedia/photo/223339/A-Free-Sex-Change
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性転換手術はタイではどの医療保険制度でもカバーされていません。「シスターズハンド(姉妹の手)財団」は私的な組織で、少数のトランスジェンダーの性転換手術費用を全額提供するのを目的に設立されたものです。
《写真のキャプション》 (Photos by Somchai Poomlard)
(1)シスターズハンド財団の提供する資金援助に応募するために、タイ・トランス女性協会本部に集まったトランスジェンダーたち。(写真: ロビーで待機する応募者たち)
(2)この財団は手術費用をまかなえない対象者に、無料で性転換手術が受けられるための費用を提供します。
(3)2010年に始まったこのプロジェクトは2年目を迎えます。手術は約100,000バーツの費用がかかるため、毎年5人分の予算しかありません。今年は100人近くが応募しました。
(4)前ミス・アルカザーとして有名になり現在はタイ・トランス女性協会の会長をつとめるヨランダ・クリッコンさんによると、性転換手術が医療保険に対象になっている国もあるが、タイではそのような制度は存在しない。そのためシスターズハンド財団が設立され、自分では手術費用を負担しきれない当事者たちの希望を支える役目をになうことになった。(写真:ミス・ヨランダ)
(5)手術を受ける資格を満たす条件として、トランスジェンダーは一連のテストをクリアする必要があります。応募者はそれぞれ精神科医とホルモン専門医の承認を受けたのち、12ヶ月以上の期間を女性として生活を送っていることです。
(6)タサランガ・オンミースクさんはこの制度のもとで初めて性転換手術を受けた一人です。今回の応募集会ではこの制度のおかげで自分の人生がいかに変わったか、涙ながらに語りました。(写真:ミス・タサランガ)
(7)前回のもう一人の合格者は、選考にパスしてどんなにうれしかったかとそのときの感激を語った。自分は生まれ変わったと感じたこと、それまでは毎日苦しい日々を送っていたこと、選考に受かったときは、一切のためらいや恐れはなかった、痛みなどはちっとも怖くなかった、たとえ死ぬような結果になろうとも手術は受ける心の用意はできていた、完全な女性になれる日を待ち焦がれていたのだから、と自らの体験を語った。
(8)この応募イベントでは、アルカザー・パタヤから招かれたキャバレータレントが雰囲気をやわらげるため演技を披露した。
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《解説》
●手術費用の10万バーツとはいくらくらい?大卒の初任給が約1万バーツとして、10か月分の給料に相当します。日本の貨幣価値でいえば200万円前後に相当する額でしょう。タイの生活物価水準からも相当高い金額で、若者が単独で出せる額を超えています。日本人がタイで手術する場合はMTFで80万円―100万円くらいですから、日本人にとっては国内よりもやはりタイでの手術の方が安いと言えます。10万バーツは現地のタイ人特別価格で、外国人には別の料金体系が適用されます。
●「アルカザー」というのはビーチリゾートのパタヤで有名な、いわゆるニューハーフショーの劇場です。現地ではキャバレーショーと呼ばれていますが、日本のホステスのいるキャバレーとは違いショーを見せる劇場です。多くのTSがショータレントとして働いており、観光客の間で大評判です。世界各地での海外公演も好評を博しているようです。
●PAIでSRSを終えたばかりのイタリア人のTS女性と話す機会がありました。彼女の言うには、イタリアはカトリックの国なのでGID当事者にとっては宗教的偏見もあり暮らしやすい国ではない。SRSは公立の病院なら無料で手術が受けられるが、医師の技量レベルに問題があり、後悔して泣いている友人が少なからずいる。私はタイのことは予備知識もろくになかったが、結果的にバンコクに来たのは大正解だった。ここの清潔な病院やスタッフのサービス、医師の技量などすべて安心できる水準なので、帰ったら友達にもタイを勧めるつもりだ、と大満足の様子でした。
●この記事の写真からも若い女性が多いのに気づくでしょう。以前にも触れましたが、タイではゲイやトランスジェンダーに対する社会的な抵抗が低く、多くのTG、TS当事者が十代からホルモン治療などに進み、クロスドレッシング、反対の性での生活などSRSへの準備に早期から取り組んでいます。ただ、SRSは18歳を過ぎるまで許可されません。また、SRSを済ませたあとでも戸籍やIDカード、パスポートなどの性別変更が許されないなどの社会的障害は依然として解決されていません。
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