2007年9月1日土曜日

日本から外科医がいなくなる?



「これでいいのか日本の外科医療」

今年の3月17日に埼玉で開かれたGID学会に出席したとき、埼玉医大でSRS手術を受けた患者さんが術後の症状について相談にいっても相手にしてもらえない、と苦情を述べたところ、埼玉医大の先生からは、医師不足でなかなか思うように対応できなくて・・・という弁解めいた答弁がありました。医科大学病院で医師不足とは、一体どういうこと?と私はそのとき不審に思ったことを覚えています。

その後、日本各地で産婦人科や小児科医が不足していて、社会問題になりつつあるのを新聞やテレビで知らされることが多くなりました。つい3日前にも奈良県で受け入れ先の病院が何時間も決まらず、救急車の中で流産のすえ胎児が死亡するという事件が起こりました。これまでもこの分野の医師は勤務時間が読めなく不規則であるため、若手は敬遠しベテランは早期引退か転科するケースが多いとは聞いていましたが・・・・

ところで、昨日8月31日の日本経済新聞(朝刊)に驚きました。2ページぶち抜きの座談会形式の意見広告「このままでは、日本から外科医がいなくなる」が目に飛びこんできました。危機感をあらわにしたこの「広告」からは、医療現場からの悲鳴が聞こえてくるように感じられました。これを読んで、あの埼玉医大病院での「医師不足」や「性転換手術中止」の意味がやっとわかってきたように思えたのです。

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全文を読む機会のない方のために、参考までに要約だけ掲載させて頂きます。まず、以下の見出しだけでも内容の概略がわかります。
・外科医、外科志望者が急減  医療の将来に強い危機感
・外科医に大きな負担が集中  数の不足とは別の要因も
・医療の質を強く求める国民  若い医師は「3ない」を志向
・他科に比べて多い周辺業務  若い外科医の負担増に
・日本の医療費は最低水準  外科医の待遇改善も必要
・二十一世紀は治療学の時代  体に優しい個別化の医療へ
・医療費抑制策は見直しを  国民の視点で各論を議論

まず、座談会司会者の言葉から・・・・
「6月22日―23日に東京で開催された第32回日本外科系連合学会学術集会では、外科系医師の不足問題をはじめ、深刻な外科医療の実情が報告されました。労働環境の劣悪さや医療リスクの高さなどから、現場の外科医は疲弊し、外科を志望する若い医師が減少しています。そこで、外科医療に深くかかわってこられた先生方に・・・・」

以下、座談会出席者の方々の意見を抜粋・要約して掲載させて頂きます。
兼松隆之 日本外科学会会長
「疲弊して肩を落としながら働いている先輩の外科医をみると、医学生や研修医は外科を生涯の職種として選択することに二の足を踏むのは当然でしょう。そのような厳しい環境の中でも、外科医は高度の技術と安心医療との両方を求められるのです」
「外科は一人前の腕を発揮できるようになるまでには、ほかの領域に比べて時間がかかります。5年間外科の修練を積めばどのような手術ができるようになるのか、10年たてばどうか、あるいは外科専門医の資格を取得すればどのような処遇がされるのか、といったわかりやすい指標を示すことも必要かと思う」

中島正治 社会保険診療報酬支払基金理事
「私も以前は外科医として臨床と研究をしていたので外科医の友人たちともよく話をしますが、彼らは口をそろえて、最近の外科の現場はきついのでもう辞めたいと言います。若い外科医たちもかなり音を上げているようです。そうした状況は、産婦人科や小児科でも同じです。私は行政に移って20年ほどになりますが、こうした状況になったのはここ数年という印象です」

鈴木満 日本医師会常任理事
「国民の医療に対する目も非常に厳しくなっており、国民が医師を批判的に見る傾向も強まっている。そうしたことも医師の偏在をもたらしているのではないか。今の研修医は、経営基盤のしっかりした病院、訴訟につながるような問題を適切に自己保全ができるような医療施設を選んで研修を受けようとしています」

北島政樹 国際医療福祉大学副学長
「かつて若い医師は、汚い、きつい、厳しい、という3Kを嫌うといわれましたが、今は「救急がない」「当直がない」「ガンがない」の「3ない」の診療科を選ぶ医師が多いのです。日本の医療は医師の奉仕で長年支えられ、質の高い医療を低コストで提供してきたわけですが、最近の若い医師は自己犠牲を強いる日本の医療に見切りをつけたということではないか。「3ない」を求め、低賃金で高リスクな医療現場から離れていくのです。」

兼松隆之 日本外科学会会長
「外科医がもっとも時間とエネルギーを使うのは手術です。また、その手術の前後の管理も外科本来の仕事です。それに加えて、以前に比べて重要性を増しているのが患者さんへの説明です。インフォームドコンセントも以前とは異なり、かなり時間をかけて、詳しくお話をするようになってきました。ただ、その説明の場の設定が患者さんの都合に合わせて、夜間や休日となることも少なくありません」
「アメリカであればテープに録音しておけば専任のタイピストが仕上げてくれる手術記録も、日本ではほとんどの外科医が疲れた体に鞭打ちつつ仕上げています。また、手術で取り出した標本の整理も待ったなしです」

加藤治文 東京医科大学副学長
「近年は医療技術が著しく進歩しており、それに伴って習得すべき知識や技術も着実に増えています。また医療の安全がより重要視されるようになり、医療現場に求められる業務内容もより複雑化しています。そうしたことの多くが若い医師に委ねられており、劣悪な労働環境というのはそれらの積み重ねだと思います。これらの課題を改善するためには、資金も必要ですが、医療費の抑制がその阻害要因になっているのではないでしょうか」

北島政樹 国際医療福祉大学副学長
「単に医療費の対GDP比を上げようというだけでなく、その配分方法まで考える必要があります。例えば、米国のように診療費をドクターフィーとホスピタルフィーに分け、診療に対する医師の意欲を高めるなどして、医療そのものの活性化を図ることが医療現場の改善にもつながると思います」

兼松隆之 日本外科学会会長
「二十世紀後半は診断学が急速に進歩した時代で、CTやMRIなどの画像診断技術が開発され、血液検査でも診断の精度は格段に向上しました。二十一世紀は治療学の時代で、その治療学の中心こそが外科学です。」

北島政樹 国際医療福祉大学副学長
「今から130数年前に、医師でない福沢諭吉が、将来はあたかも口の中を見るように子宮や胃の裏まで観察できるようになると、腹腔鏡を予見していますが、その中でまた、「医療は外科より進歩す」とも述べています。今、二十一世紀の医療はまさにそのようになってきているのです。体に負担の少ない個別化した治療を実現するためにはコストもかかると思いますが、積極的に発展させていくことが重要だと考えています」

鈴木満 日本医師会常任理事
「以前は、経済的で技術も優れているといって、海外から日本に来て手術をする例がありましたが、最近は同様の理由で、日本人がシンガポールやタイなどへ手術旅行に行くという話を聞きます。そうした状況はたいへん残念ですし、絶対に是正されなければならないと思います。世界の人たちが日本の医療を求めてくるように、医師の手で医師の環境整備を行う必要があると考えています」

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護送船団方式に守られた日本の医療制度が、きしみを起こして悲鳴を上げているのが聞こえるような気がしました。今後の日本の将来を考えると、医療界だけでなく政治、行政、さらに国民自身の意識改革がせまられているのではと強く感じます。

病院自体の崩壊・閉鎖などもヨーロッパ、アメリカなどの先進国ではめずらしくなく、日本もその仲間入りを果たしているのが昨今の現状です。一例を上げれば、訴訟社会として有名なアメリカを見習ってか、日本でも医療訴訟が増えています。明らかな医師・病院側の過失に泣き寝入りはしないという患者側の姿勢は評価できるとしても、手術を受けても治らなかったり、死亡したら医師の過失として訴えるのは珍しくなくなりました。これは良いことなのか、それとも医療崩壊への一歩なのか・・・・、欧米先進国から学ぶことはまだまだありそうです。

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タイの病院事情について
私の知るタイ国でも公立、私立病院間での医療格差が問題になっています。原因は単純なのですが、前首相のタクシン氏が与党の人気取り政策としてろくな議論もせず導入した「30バーツ治療」のため、公立病院ではどんな治療であれ30バーツで治療しなければならなくなったのが発端です。30バーツといえば日本の経済感覚では吉野家の牛丼一杯の値段です。国民皆保険制度のないタイでは、とくに地方の低所得層はよろこび、他のばらまき政策も手伝って、次の選挙で与党は歴史的な大勝利をおさめ、タクシン氏は思うままの政治運営を行います。当然のように利権がはびこり、都市の知識階層や学生が反タクシン運動を起こし、ついに昨年9月の外遊中にクーデターで首相の地位を失い、未だに亡命生活を送っています。

公立・私立病院での格差とは要するに、医師側がこんな治療費ではろくな待遇も期待できないと、多くの医師が私立病院へと転職していったための医療レベルの格差です。このため中流以上のタイ人は値段が高くても私立病院を選ぶ傾向が強くなっています。上の座談会にも出てきますが、アメリカと同じくタイでも、患者から受け取る治療費には「ドクターフィー」として医師個人の取り分が病院の取る「ホスピタルフィー」とは明確に分けられています。有能で症例数も多い医師なら収入も比例して多くなるわけです。この分母となる数字が、牛丼一杯分の30バーツでは医師がやる気をなくするのは攻められないでしょう。

その影響があるかどうかは別として、タイの私立病院は医師や看護婦の数は豊富だといえます。病院間の患者獲得競争もあり、設備や治療法なども最新のものを海外から導入して、年間100万人をこえる外国人患者を治療するアジアのメディカルハブを目指しています。これはタクシン前首相の功績かもしれませんが・・・・

日本のSRSの将来は?
SRSに係わる私たちにとって5月の埼玉医大のSRS中止のニュースは全く想定外の出来事だったと思います。発表された学長の談話には、一時中断するとのニュアンスがなきにしもあらず、でしたが事実上は再開困難だというのが私の個人的な感想です。理由は簡単です。最初から実際の手術を担当され中心的な存在であった先生がお二人そろって辞められたこと、この手術は一人では困難な複雑な手術であること、後継者が育つには多くの症例をこなし経験を重ねるしかないこと、日本にはSRSを教えるだけの経験医が存在しないこと、そしてどこの医大や病院でも失敗した場合のリスクに対応する自信がなく、おっかなびっくりでやっていること、などです。

先日、プリチャー先生が来日した折りに言うには、「どこの国の医師も同じだが、医師というのは自分独自の技術はひとには教えたがらないものだ。しかし、わたしは乞われればどこの国の医師でも自分の技術を教える用意がある、企業秘密も含めてだ。」

「ブルーボーイ事件」などもう言い訳にするのははずかしいです。先進国である日本でSRSができない、などという情けない状況にはなってほしくないと本心で思います。

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2007年8月27日月曜日

コーディネーターの仕事内容の詳細


コーディネーターの仕事内容の詳細

事前カウンセリング
SRS関連の手術は通常の病気の場合とは異なるため、またタイのバンコクという外国で行うため、現地に出発する前の予備カウンセリングが必要です。これは現地の病院に着いてから予定した手術法に不適格と診断されるのを防ぐためにも踏まなければならないステップです。医師より必要と判断される場合には、デジタル写真をメール添付で送って頂くこともあります。

提出する診断書のチェック
・精神科医(又は同等の資格を有する医師)のGIDを証明する診断書
・手術日の1ヶ月前の健康診断書 (手術に問題がないことをチェックするため)
・すでに受けたGID関連手術の内容をできるだけくわしく教えてください。
・必要と思われる場合には過去の手術記録のコピーを提出して頂くこともあります。

(注1: これらの書類は日本語のままで結構です。英訳はコーディネーターが行います)
(注2: 日本での提出はコピー、オリジナルはバンコクに持参してください)

手術日の予約
患者さんの希望に応じて手術日を予約し、手術室および手術チームのスケジュールを確定します。

予約金の支払い
手術代金の10%を予約金として事前に日本でお支払い頂きます。このお支払いをもって手術日が確定し、スケジュール通りに医師、手術室と手術スタッフが確保されます。手術費残額(90%相当)は手術日の午前中に病院で直接支払って頂くことになります。PAIへの支払いはドルに替える必要はなく、日本円の現金払いが両替手数料がかからず便利でお得です。

(注1: キャンセルする場合は手術日の15日前までは全額返却しますが、これ以降については返却できません)
(注2: 予約金の支払いを証する領収書は英文で発行されます)

全体の経費予算の見積り
手術費、その他病院関係費用、渡航費、ホテル代、食費、交通費、雑費などの経費の見積もりのお手伝いをします。別途コーディネーター関係経費もお見積もりいたします。

バンコク渡航日程の検討
手術内容により最短で必要なバンコク滞在日数から、また患者さんの仕事上のスケジュール等も考慮して、滞在日数と渡航日程を確定します。

チケット・ホテル等の予約確保
旅行代理店やインターネットを通して患者さん自身で行っても結構ですが、心当たりのない方はコーディネーターがお手伝いします。なお、退院後に移るホテルはできるだけ病院に近いホテルを選ぶようにしてください。帰国前に必ず医師の最終チェックがあるからです。

バンコク空港送迎
一足先に現地に行っているコーディネーターが空港でお出迎えし、ホテルまたは病院までお連れします。帰国時には空港までお送りし、航空会社のカウンターで搭乗前および飛行中の患者さんへの特別な配慮をお願いする手配をします。場合によっては車イスの手配もしてもらうことができます。

バンコク滞在中の通訳・コーディネーション
病院には日本人(またはタイ人)通訳が勤務しており、医師との手術前の説明や手術後の回診のときの立ち会いはしてくれます。ただ、病院所属通訳はあくまで病院全体の通訳であり、プリチャー先生のPAI専属ではありませんので、通訳が必要なときにタイミングが合わなくて困ることもあります。術後の経過の説明や帰国後のケアについては、手術内容により、また患者さんの状況により医師側の説明は大切ですので、通訳の同席はたいへん重要なことです。

医師とのコミュニケーション
外国人の患者を扱いなれたタイの有名病院の医師は英語ができますので、医師との会話は英語で十分です。ただ、手術のことや術後の症状について質問して答えを理解するには、かなりの英語力と手術内容の理解が必要です。日常会話程度の英語ではかえって誤解が生じるもとにもなりますので、日本人で少々英語ができますという程度では、過信は禁物です。この意味で、医師とも面識があり、SRS手術について知識と経験のある日本人通訳の存在意義は大きいとお考えください。

滞在中のパーソナルケア
個室に入院中は原則として食事制限はなく、なにを食べても自由です。果物などを食べたいとか、日本から必需品の忘れ物をした場合でも、物資が豊富なバンコクではほとんどのものを買うことができます。病院付きの通訳には個人的な用事は頼めませんので、同行のコーディネーターがいれば気楽に頼めます。また、退院後には体力の回復を見てから、買い物や街の見物に出かけることもできますが、日本からのコーディネーターは要望があれば同行しご案内いたします。帰国後に使用する医薬品などもバンコクの薬局で安く仕入れることができます。

帰国後のアフターケア
SRSは手術が終わっても術後のケアがたいへん重要です。回復期間中の症状の変化や痛みなど、当事者が不安に思うことはよくあり得ます。そういう時に、気軽に相談できるコーディネーターの存在は欠かせません。手術の性質上、他人には相談しずらいですが、カウンセラーは手術の写真や映像、患部の状態などには慣れていますので、遠慮なく相談できます。気になる症状があればコーディネーターが医師に問い合わせて指示を仰ぎます。また症状によっては日本の病院での検診と治療をおすすめする場合もあります。

PAIを再訪して安心チェック
問題らしい問題もなかった場合でも、半年とか一年後にバンコクに観光旅行する機会があれば、その機会に手術部位の回復状況のチェックを受ければ、さらに安心してその後の生活を送ることができます。日本からの事前予約が必要ですが、PAIではアフターサービスの一環として特別なケースを除き無料でチェックが受けられます。

コーディネーター費用について
PAIに支払う手術費実費とは別に、別途コーディネーター費用をご負担頂きますが、この中には私自身の旅費・滞在費も含まれます。現地でのパーソナルケアは必要ないと判断される方には、ご希望に沿ったアレンジをいたしますのでご相談ください。MTFとFTMでは入院期間、滞在日数やその他の条件が異なる場合が多いため、コーディネーター関連経費については個別に見積もりさせて頂きますので、お問い合わせください。

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SRSコーディネーターの役割


SRSコーディネーターの役割

手術のために外国に行くには、かなりの勇気と決断がいります。SRSという手術自体が不安なのに、タイのことなどほとんど予備知識がない。タイ語はもちろん、英語もおぼつかない。入院中はともかく、退院後から帰国までの期間はだれか面倒を見てくれるだろうか。

MTF手術の場合は5日の入院期間のあとホテルに移ってからは、すべて自己管理で帰国までの約10日間を過ごすことになります。病院所属の日本人通訳はいますが、個人的な面倒まではみてくれません。一人での食事も味気なく、どこで何を食べればよいかも迷います。話し相手もいない、術後の経過についても相談相手もいないのでは、精神的な不安はつのります。友人や家族の付き添いが可能な方はいいとして、単独で来られる方も時折見受けられますが、その不安な心中を察すると胸が痛みます。

私自身は東京に住んでいますが、原則としてバンコク空港でのお出迎えにはじまり、無事に帰国されるまでの個人的なお世話もふくめて、バンコク滞在中のあらゆる面倒を見させて頂くのが私のSRSコーディネーターとしての役目だと思っています。

また手術を済ませて帰国すればすべてが終了というわけではありません。MTFの場合は手術後6ヶ月から1年に及ぶ、当事者個人の自己管理と責任で行うダイレーションという非常に大事な作業があります。(FTMは数段階に分けた手術を行うこともあります。)本来の性での本格的な生活を目指している回復期間中には、医師に聞きたいことが必ずあります。その場合に医師との仲介役として、対処法などを聞き不安材料を取り除くお手伝いをするのもコーディネーターの重要な役目です。プリチャー先生も常に帰国後のフォローアップ・ケアの重要性を強調されております。

コーディネーターの役割を要約しますと、次のような場面でパーソナルケアを提供することです。

1) 事前のSRS手術の概略説明
2) 医師や病院、バンコクについての予備知識
3) 適格条件のチェック・予備カウンセリング
4) 手術日の予約、バンコク渡航の相談
5) バンコク国際空港での出迎え
6) 医師のカウンセリング時の通訳
7) 手術日の付き添い
8) 手術後の入院中のお世話
9) ホテル移動後の個人的なお世話
10) 帰国後に使用する薬品類などの購入手配
11) 食事、買い物、観光の付き添い
12) 退院後帰国までのPAI通院時の付き添い
13) バンコク空港までのお見送り
14) 手術後1年間のフォローアップ・ケア

次回ではコーディネーターの仕事内容をより具体的に説明いたします。

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2007年8月19日日曜日

酷暑お見舞い


日本は暑い、タイより暑い、とこぼしていたら、タイからお見舞いのメールが届きました。

中を開けてビックリ!タイミングのよいお見舞いだったので、暑気払いに皆さんにもおすそわけさせてください。

ここをクリックして、ヤフーメールの画面から「ファイルをダウンロード」を選び、ポップアップが出たら「アプリケーションで開く」を選んで「OK]すれば、パワーポイントのスライドショーが始まります。クリックする毎に画面が進行し、最後にクリックしてアウトします。

酷暑と酷寒。その中間が来るのがまちどおしいですね。くれぐれもお大事に。


2007年8月15日水曜日

DR. PREECHAのSRSセミナー参加御礼


Dr.PreechaのSRSセミナー参加御礼


このサイトでも予告しましたように、PAIのプリチャー先生のSRSセミナーは、8月11日と12日の二日間に分けて銀座東武ホテルにて開催いたしました。参加されたFTMとMTFの方々には、SRS手術に関する熟練した経験医師からの直接的な情報を得る数少ない貴重な機会であったと思います。

参加者の方々からも大変好意的なご感想をいただきました。この場を借りてあらためて参加者の方々にお礼申し上げます。プリチャー先生も結果には大いに満足で、大好きな日本食も堪能されて月曜日に帰国されました。

今回は参加できなかったGIDの方々からご要望があるようでしたら、次回のプリチャー先生の来日時にまたセミナーを開催することも検討しますので、私のメールアドレスまでご連絡ください。

PAI認定SRSカウンセラー
島村 政二郎

masa.shimamura@gmail.com


2007年7月21日土曜日

DR.プリチャーによるSRSセミナーのご案内


DR.プリチャーによるSRSセミナーのご案内

大の日本びいきであるPAIのプリチャー先生が、タイの週末連休を利用して8月に来日いたします。その機会にSRSの実際についてセミナーを催すよう依頼しておりましたが、日程をやりくりして実現できることになりましたのでご案内させて頂きます。

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セミナーの内容: 
SRS手術の実際について、スライド写真等を使った解説と参加者との質疑応答。(日本語通訳つき)

日時:(時間が以下に変更になりました) 
●8月11日(土曜日) 午後5時30分―7時30分[FTM手術の実際]

●8月12日(日曜日) 午後4時―6時 [MTF手術の実際]

場所: 
「マリオット銀座東武ホテル」B1会議室
東京都中央区銀座6丁目14-10 (昭和通りに面する)
電話 (03)3546-0111
http://www.tobuhotel.co.jp/ginza/

行き方: 
地下鉄銀座駅より徒歩5分、東銀座駅より1分。
銀座6丁目「松坂屋デパート」横の通りを東銀座方面に歩き、昭和通りに出ます。昭和通りに面した6丁目の角(7丁目手前)にホテルの入り口があります。

会場:
会場はロビーから吹き抜け階段をB1に下りると目の前に「DR.PREECHAセミナー」のサインがあるはずです。参加者は左手にある会議室「タブロー」に直接お入り下さい。受付は中で行います。

参加資格者: 
少人数のセミナーですので、GID当事者(10人まで)に限定させて頂きます。

参加費: 無料

申し込み(問合わせ): 
8月6日(月)までにEメールで下記アドレスに申し込んでください。お名前とFTM,MTFの別を明記してください。
Eメール: masa.shimamura@gmail.com

プリチャー医師について: 
DR.プリチャーの経歴・SRS実績等については、当サイトの1月18日付けの投稿「PAIについて」を参照してください。

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2007年7月10日火曜日

親・家族のためのGIDガイド (その3)

親・家族のためのGIDガイド (その3)


治療へのステップ

性的な違和感をやわらげるため、医師の診断なしに自分で女性ホルモンなどを購入して服用を始めるなどのケースも現実には少なからずあります。しかし、正式な治療に向けて進むには通らなければならないステップがあります。これには厳密な順序があるわけではありませんが、医学的な治療へ進むためには必要な段階を経ないと健康上の障害も起こり得ますので、まず精神科医の診断から入るのが常道です。

精神科医の診断
まず正式な治療の第一歩は専門医による診断です。精神科医なら誰でもよいわけではなく、GIDを扱った経験のある精神科医が望ましいですから、事前に医師の経験を確認してから訪問するようにしてください。また、医科大学などの付属病院にはジェンダークリニックを設置している病院もありますので、調べてから行動を起こしてください。

ホルモン治療
精神科医に相談のうえ、問題なしと判断された場合には、ホルモン注射・投与による女性化(MTFの場合)や男性化(FTMの場合)が始まります。すでに誰にも相談しないで、あるいは当事者同士の情報交換でホルモン剤を購入して治療を開始している人もいますが、専門医の指導を受けることが大事です。手術後もホルモン治療は続ける必要があり、素人判断では精神不安定などの症状に悩むことがあります。

治療費用の準備
いったんホルモン治療を始めると、身体の中で女性化(または男性化)が進行しているため、もう後戻りはできません。希望する最終目的に向けて費用を確保する計画を立てなくてはなりません。手術を希望する場合には多額の費用がかかりますので、計画的に資金計画を立てる必要があります。

手術を受ける医療機関の検討
MTFであれ、FTMであれ、精神科医やホルモン治療だけではGIDの症状は消えることはありません。ほとんどの場合、最終的には何らかの外科的手術が必要になります。日本では1964年に起こった「ブルーボーイ事件」という不幸な不祥事のため、性転換手術は医学界では異端視された結果、欧米諸国やアジアの他の国とくらべて大きく出遅れました。その結果、正式な形の性転換手術は1998年に再開されたものの、経験のある医療機関や医師は非常に限られていて、2007年現在でも日本全体の症例数は100例にも達していないのが現状です。いつまで待てばよいかわからない国内での手術よりも、経験豊かな外国の医師の手術を受けるという方法も、大いに現実味のある選択肢として検討する必要があるでしょう。

家族へのカムアウト
親や兄弟だから理解してくれるだろうと楽観はできません。逆に身内だからこそ認めたくないという心理が働くのもわかります。家庭内の平穏を乱すような内容だからです。同居している親なら、日頃の言動から何かおかしいとは感じているはずなので、時間をかけて徐々にGIDの情報を与えて理解を助ける準備期間も必要でしょう。全員に同時にカムアウトする必要はなく、家族の中でも一番信頼できる人にまず打ち明けてみるのもいい方法かもしれません。

社会的カムアウト
いつ誰に、どのように打ち明けるかは大変重要です。友人はともかく、職場での人間関係や仕事の関係先に対しては慎重に考えて行動する必要があります。信頼できるGID当事者、職場の上司、友人にまず相談して、時間をかけてあせらずに行動してください。手術が無事終わってからも、以降の仕事や社会生活にいかに適合していくかはますます大事になります。

名前の変更手続き
精神科医の性同一性障害との診断書が下りれば、名前を変更する手続きができます。パスポートなどの性別欄変更は性別適合手術が終了するまで待たなくてはなりません。

脱毛処理など
男性から女性の場合(MTF)では、顔のひげ、手足の脱毛などの女性化に向けての準備にかかります。これには長期の時間とかなりの費用がかかりますので、できるだけ早めにとりかかる必要があります。またSRSに直接関係する部分の脱毛は個人差がありますので、できるだけ早い段階で医師またはカウンセラーに相談して必要な処置をすることが大事です。

声の女性化
MTFの場合には女性的な声をどのようにしたら出せるか、というのは大いに気になる問題です。男性的なのど仏を小さくするには外科的な手術が可能ですが、声の質を変えるのは外科的な方法ではほぼ不可能と考えた方がよいでしょう。声のピッチを高くするのは手術で可能といえば可能ですが、結果としてどのような声になるかは予測ができませんので、リスクの高い方法といえます。世界の専門家の最大公約数としての意見では、俳優のようにじょじょに女性的な発声法を練習して身につけていくのが一番現実的であるということです。FTMについても同様のことが言えます。

メーキャップ・服装
これも自分なりに試してみて、時間をかけて慣れていくしかないようです。ただ、あまりに女性を強調したメーキャップをすると不自然さが目立ち、違和感を与えてしまいます。服装も同じです。まず中性的(ユニセックス)な印象をイメージしてじょじょに慣らしていくのがよいでしょう。

戸籍の性別記載の変更
これは性別適合手術が終了して、医師の診断により反対の性に類似した外観の生殖器官をもつことが確認されるまで待たなくてはなりません。手続きは各地の家庭裁判所の管轄となり、必要書類提出後3ヶ月ほどで許可がおります。これで、パスポートなどの公的書類の性別変更も可能になり、社会生活に関連する書類等もすべて性別表記の変更ができます。

社会生活への適合
これで本来の自分の性での生活が本格的に始まることになり、それまで周囲へのカムアウトはある程度進んでいるわけですが、これで解決と考えるのは危険です。まだまだ周囲は自分が期待するほど理解しているわけではありませんので、慎重に配慮しながら職場や社会環境に適応していかなければなりません。まだまだショックを受けるような周囲の反応がありうるという心の用意はしておかなくては無防備というものです。周囲に悪意があるわけではありません。GIDというのはそれほど普通人には理解がむずかしいという一言につきます。

手術後の治療の続行
手術が終わればすべて完了というわけではありません。術後1ヶ月ほどで社会生活に復帰できます。約6ヶ月で安定して手術跡も気にならなくなりますので、それまでに大きな問題がなければひとまず安心してよいでしょう。ホルモン治療は引き続き専門医の定期的な診断を受けながら続けなくてはなりません。

性別適合手術(SRS)について
前にもふれたように、すべてのGID当事者が手術を望んでいるわけではありません。手術しなくても反対の性での社会生活さえ満足にできればよい、と考えているGID当事者もいるのは事実です。ただし、世界的にみても性転換手術なしには自分の長年の悩みは解消できないと思う人が大部分を占めているのも事実です。また、医者の方から「あなたは手術すべきです」とか「手術は必要ありません」と言うことはありません。通常の病気とは違うため、手術するかどうかはGID患者自身しか決められないのです。

ほとんどの国で性転換手術には保険は適用されず、日本でも同様です。また多額の費用を覚悟しなければなりません。さらに実施している医療機関や経験医が少ないため、数ヶ月から1年上の待ち時間が必要なのが実情です。

 MTF手術(男性から女性)の概略

病院や医師により手術方法が異なる場合があります。以下はタイのPAIを主宰するプリチャー医師(MTF手術実績は3,300例と世界で最も実績のある医師の一人)の手術方法を参考例とします。

●睾丸摘出 (これだけは利用価値のない唯一のものです。残りはすべて役に立ちます。)
●陰茎の加工 (陰茎の周辺をとりまく海綿体はそぎ落とされますが、陰茎は切り取ることはなく、亀頭の一部はクリトリスとして利用されます。ひも状の神経組織もそのまま生かされます。尿道も短くして再利用されます)
●新膣形成 (深さ約15センチの膣となるポケットが、内部の周辺組織を傷つけないように慎重に造られます)
●陰茎の皮膚及び陰嚢の皮膚を利用して、膣の内壁が造られます。
●クリトリスの形成 (亀頭部分を小さくして恥骨部分に埋め込み、感覚はそのまま残ります)
●新尿道が形成されます。(術後5日間はカテーテルで排尿します)
●陰嚢の皮膚を利用して大陰唇、小陰唇が形成されます。
●MTF手術の所要時間は3時間で、このワンステージですべての手術が完了します。
●病室はすべて個室で、入院期間は5日間。その後ホテルに移り、その10日後には帰国できます。
●MTF手術費用はUS$8,100です。(2007年6月より)
●豊胸手術や顔などの女性化のための美容整形手術も同時に受けることができます。


 FTM手術(女性から男性)の概略

FTM手術も280例の実績のあるPAIの手術法を参考例とします。通常は4段階に分けて、また3ヶ月から6ヶ月の間隔をおいて次のステージに進みます。

●第1ステージ: 卵巣・子宮摘出、尿道延長術、乳房切除術 
(手術費US$8,100)(バンコク滞在:7-9日間)
●第2ステージ: 陰茎形成術 (腹部皮弁使用) 
(手術費US$6,900)(バンコク滞在:16日間)
●第3ステージ: 尿道形成術、シリコン睾丸形成術 
(手術費US$3,500)(バンコク滞在:8日間
●第4ステージ: 陰茎にシリコン挿入、亀頭形成術、必要な場合の修正手術 
(手術費US$3,500)(バンコク滞在:6日間)
●手術後にはペニス自体の性感はありませんが、クリトリス性感は維持され、性的満足感を得ることは可能です。また立ったまま小便ができるため、男性としての実感がわきます。
●第4ステージまでの手術費総額はUS$22,000です。(2007年6月より)


親はどう対応すべきでしょうか

息子や娘から性の違和感について打ち明けられたときは、当人にとってはもう我慢の限界に来ているときと思って間違いありません。しばらく様子を見ていれば変な症状は消え去るのではないか、という希望的観測や理解できないからと無視する態度をとるのは最悪です。

まず子供の決心を尊重してあげること、そして前向きに協力して進めるようサポートする意志を伝えることです。何ヶ月もかけるのでなく、出来るだけ短期間に親の意向を明確にして勇気づけてあげることが大事です。

前途にはまだ直面しなくてはならない多くの問題がありますが、家族が理解し合うことによって、悲観的ではなく現実的な対応策が必ず見つかるものです。

子供の性的違和感の症状について親として自らを責めてはなりません。本当に信頼できる一人の友人にまず相談するのもよいでしょう。家族全員に伝えるのは急ぐ必要はなく、タイミングをみて判断した方がよいでしょう。

気分が落ち着いたら地元にある自助グループに連絡してみるのも、今後の方針を探るのに役立つかもしれません。すでに多くの困難を乗り越えてきている体験者、先駆者の話を直接聞ける機会でもあります。

医師やカウンセラー、自助グループなどを共犯者とし敵視してはなりません。かれらはあなたの息子や娘を誘拐しようとしているのではなく、サポートの手を差しのべているだけです。

医師の診断を経て姓名変更ができた場合には、本人の希望する新しい名前で呼ぶように心がけるのも大きな精神的サポートになります。

新しい性での服装やメーキャップについては、傷つけない配慮はしながらも当人の参考になる意見を言うのも新しい親子関係を築くのにはいいことでしょう。

性同一性障害についての出版物はすでに数多くあります(参照:amazon.co.jp)。インターネットでも参考になる情報が次々と提供されていますので、できるだけ目を通して知識と共通の言語を身につけるのは大いに役立ちます。「知識は力なり」を早速実践してみましょう。


治療へのガイドライン

日本精神神経学会が2002年に提言した「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン-第2版」に、治療へのガイドラインが示されています。その中で基本方針とみなされる部分を、本稿の最後に治療への指針として以下に引用させて頂きます。

「性同一性障害の当事者における性のありかたは、極めて多様である。このことは、社会において価値観が多様化するなかで性のありかた自体も変化し、従来築かれた男女の性意識が変遷し、求める性役割も大きく変貌しつつあるという状況とも関係すると考えられる。このような実態を踏まえると、性同一性障害の治療は、単に男か女かという二分法的な性のとらえかたに依拠するのではなく、本人のなかで培われ、一貫性をもって持続するようになったジェンダー・アイデン ティティを尊重して、本人が最も良く適応できる諸条件を個々のケースにそって探り、その達成を支援することであるといえる。」

「性同一性障害の多様性について、初版ガイドラインにそった治療を求めるもの以外に、次のような例も認められる。身体的性別の特徴を希望する性別のものに変えたいと願いながらも、ホルモン療法を受けずに性器に関する手術のみを希望するケースや、あるいは乳房切除術ないしはホルモン療法だけを望み、性器に関する手術を希望しないケースもみられる。また強い性別違和に悩み種々の矛盾を感じながらも、家庭生活や社会生活を優先させるために精神的サポートのみを希望するケースなどがある。」

「このように当事者が求める治療は多様なものであるが、治療の必要性が性同一性障害に由来しており、治療によって社会に適応しやすくなるという恩恵がもたらされるのであれば、医療の立場から貢献するに十分な理由があると考えられる。性同一性障害にみられる多様性に対して画一的な治療を遵守させるのではなく、ジェンダー・アイデンティティのありかたと当事者自身の求める社会適応のありかたを尊重すべきである。したがって合理的で正当な範囲において、自己の責任において治療を選択し決定してゆくことが最善であると考えられる。」

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3回に分けたこの稿を一応しめくくりますが、家族の方に一番求められているのは、この性同一性障害に長年苦しんできた自分の家族の一員を、できるだけ理解しようと努め、物心両面でサポートしてあげること、そして大事なのは当人の選ぶ治療方法、生き方を尊重して見守ってあげることではないでしょうか。


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参考文献:
●イギリスのTS当事者団体「GIRES」のウェブサイト(http://www.gires.org.uk/)(GIRES=Gender Identity Research and Education Society)
●日本精神神経学会「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン-第2版」
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