直腸S状結腸膣形成術
Recto-Sigmoid Colon Vaginoplasty
一般的なSRSとは
MTFの手術方式といえば陰茎・陰嚢皮膚反転方が一般的で、ほとんどのSRSはこの方式で行われています。ただこの術式にも問題がないわけでななく、難点は手術の技術上の問題ではなく、術後のダイレーションという大変根気のいる、長期にわたる作業が待ちかまえていることです。これは患者に日課として課せられるメンテナンス作業ですが、6ヶ月以上の長期にわたるためついつい手抜きしたり、痛みにくじけて挫折するひともでてきます。
新たに造った新膣のポケットが縮小しないように、ダイレーターというアクリル製のペニス状の棒を膣内に挿入し、膣を構成する筋肉組織や内壁が縮まないように、毎日2回は30分ほどこの挿入作業をする必要があります。期間は最低でも術後6ヶ月、その後は回数をへらして1年ほどは続けます。アクティブな性生活を送れるひとは、性交がダイレーションの代わりになるので、この面倒な作業からは早く開放されます。
問題なのは、術後間もない時期はまだ膣内も安定していないため、ダイレーション中に出血したり、痛みがひどくて挿入を中断したり、または次の大きいサイズのダイレーターに進めなくて、途中でギブアップするケースがあることです。
自分で自分の膣内に挿入するわけですから、痛い場合にはどうしても弱気になりひるんでしまいます。所定の深さまで挿入できず中途半端なダイレーションで終わってしまい、それに妥協することがダイレーション失敗の原因となるのです。
特に最初の1-2ヶ月が大事な時期です。この期間に大きいサイズのダイレーターに成功していれば、あとはまず心配することはないでしょう。この時期にギブアップすることは膣の深さが浅いまま、膣径も小さいままで将来を過ごすことになるのです。
男性とのアクティブな性生活は期待していない人、また念願の本来の女性になれだけで十分です、と自分で納得できる人はそれでも構わないでしょう。
ところが、男女間の性交のできる膣がどうしても欲しいという場合には、残された方法はひとつです。それが、直腸S状結腸部分を使った膣形成術です。最初に行ったSRSのやり直しですから、再手術ということになります。
最初から直腸S状結腸膣形成術を選ぶ場合
SRSの術式として患者が最初からこの方法を選ぶ、または医師が推薦する場合があります。
それは生来ペニスが小さい、包茎手術で皮膚が足りない、または内壁に使える陰嚢皮膚が足りそうにない場合です。この場合にはダイレーションでも得られる深さは限られるので、最初からこの術式を選べばダイレーションの苦労を味わうことなく目的を達成できます。該当すると思われる方は、この術式を最初から検討する価値は大いにあると思います。
直腸S状結腸を利用した膣形成術の優れた面
1.この大腸内部には自然の膣粘液に似た成分が産出されており、やわらかいひだの多い腸の内壁は伸縮性にすぐれ、構造的にも見た目にも女性の膣内部と似通っている。
2.自発的な粘液の産出があるため、そのうるおいにより性行為が容易に行える。潤滑剤のジェリーなども必要ない。
3.長期にわたる膣内ステント(ダイレーター)を使用しなくても、十分な膣の深さと広さが確保される。
4.患者自身の満足感が高く、結果に対する医師の満足感も高いという評価が多い。
この術式の留意点
1.結腸を切除して移植する手術のため下腹部を切開する必要があり、帝王切開(横10cm)ほどの傷跡が残る。
2.結腸特有の粘液が自然に産出されるため、おりものに似た液が常に出るためナプキンが必要になるという報告がある。ただ、女性にはある種のおりものはつきものなので、実際に手術を受けた患者の満足度が高いという点を考慮すると大げさに考えるほどの問題ではない、というのが担当医師の見方です。
3.この手術法は二つのチームに分けて行い、内臓外科医が約10~15cmの直腸S状結腸部分を切り離し、SRS外科医チームが新膣のスペースを切り開いて、最後に膣口に接合するという方法をとる。二つの作業は同時進行的に行われる。
4.合併症として便通に異常(下痢、便秘など)が起こり得るが、2-3ヶ月で排便機能は正常にもどると考えてよい。
5.腹部切開による結腸を切除する手術が必要となるため、通常のSRSの場合より経費が2千ドルほど高くなる。
プリチャー医師がいつも言うように、どんな手術にも完璧というものはない。アジアのSRS先駆者であるPAIでは、1980年から2011年までの30年間に1158例に及ぶこの術式の経験を重ねている。患者の満足度の高さからもいっても、プリチャー医師はこの術式のプラス面がもっと前向きに評価されるのを期待しているとコメントしています。
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2011年6月14日火曜日
2011年6月1日水曜日
イスラム教国マレーシアのTSの現状
マレーシアのトランスセクシュアルの話題
今マレーシアに滞在しています。イスラムを国教とする国ですが、中近東などと違い包容力のある政策で他宗教にも寛大で、キリスト教、ヒンズー教、仏教なども認められています。現時点の国民の構成は、マレー系59%、中国系32%、インド系9%という構成になっている。
ただマレー系の人々はまず全員がイスラム教徒であることが原則で、イスラムの戒律を守ることが要求されている。
イスラムでは豚肉はご法度なので、ホテルなどではソーセージやハムもチキンか牛肉で、ぱさぱさしておいしくない。ほとんどのフードコート(食堂街)でもさまざまな料理が注文できるが豚肉だけは出てこない。中華料理のレストランなら豚肉も問題なく食べられる。そこにはイスラム教徒は近寄らないからである。
イスラム教徒も男性は普段着では区別がつかないが、女性はまず全員がヘッドスカーフをかぶっているので遠くからでも識別できる。暑い気候なのに長袖とジーンズやくるぶしの隠れる長いワンピース姿が普通。スカーフは色やデザインはとりどりで、衣服のファッションのコーディネートを楽しんでいるのは見ていても心が華やいでくる。
マレーシアではイスラム系の女性の社会進出は活発で、サウジアラビアのように女性の運転は禁止などという戒律はなく、街の風景もカラフルで、女性のファッションが目を楽しませてくれる。
人種や文化が違っても世界中のどこの国にもトランスセクシュアルは存在する。イスラム諸国では表立っては認められていないが、TSや同性愛などイスラムの認めない性指向をもつ人たちの存在は否定のしようがない。ただ社会的には表立って話題になることが少ないのは隣国タイなどとの違いである。それだけに当事者にとっては理解してくれる味方が少なく、孤立した環境におかれているのは大いに同情に値する。
今回クアラルンプールへに着いた日の英字新聞に、珍しくトランスセクシュアルの記事があったので以下にご紹介しておきます。
**********
Helping transsexuals blend into society (New Straits Times, 28th May 2011)
トランスセクシュアルが社会に溶け込むために
マレーシアの東海岸パハン州のクアンタン市は南シナ海に面するリゾート地として有名なところです。ここのリゾートホテルのセミナー会場に集まってくるデザイナーバッグを携えて颯爽としたみなりの女性たち、立ち止まった人たちの目が追いかけます。
ただこの女性たちは見世物的なイベントやひんしゅくを買うような目的のために集まったのではありません。30歳から40歳台の30人のこのグループが集まった目的は、ここでの4日間のセミナーでこれからの人生の目標とモチベーション向上を図り、自らの暮らしと人生の充実を目指す手がかりをつかむことです。
”プリティウーマン”と言われてもおかしくないような人は美容師やドレスの縫製などの仕事で生計を立てているものの、家族から疎外され社会からは横目でみられる人たちの行き着く場所は夜の世界しかないのが現実です。
このセミナーではいろいろなキャリア向上プログラムや人生を新たに始めたい人のためのプログラムに加えて、健康管理や道徳問題にも時間をさいている。
午前中いっぱい真剣な課題に取り組んだあとは、参加者たちはファッショナブルなアクセサリーや衣服からスポーツ着に着替えて、チームで行動する野外プログラムに参加する。その中には3時間のジャングルトレッキングもある。
参加者の一人ララ(仮名)はジョホールバル市出身で、彼女の言いうにはこのセミナーは眼からうろこが取れる新鮮なもので、TSコミュニティーの他の人たちにもぜひ広めてもらいたい、とこのセミナーの意義を高く評価している。
「私たちはいつも差別されていると感じています。自分の家族は現実を受け入れる心の用意ができていても、周辺の人々はやはり受け入れを拒む態度なので、私たちは透明人間のように感じながら生きています。このようなプログラムの助けがあればもっといい将来を期待することができます。」
ララは現在はドレスの縫製で生計を立てているが、地域社会の偏見のため彼女と同じ立場の人たちが職場を見つけるのは容易ではないと言う。
「私たちの中には大学卒もいるが、悲しいことに社会が拒むため仕事を見つけるのはむずかしく、そのうちに夜の世界に吹き寄せられてそこしか居場所がない人が多いのです。」
アンパン出身でフリーランスの美容師をしているジム(仮名)は言う。「このようなプログラムがもっとあれば、国内のトランスセクシュアルたちが日ごろから抱いている社会に出る恐怖憾に打ち勝つ助けになると思います。また、このようなプログラムは同じような境遇にいるトランスセクシュアルと知り合い助け合ういい機会になります。」
**********
(注1)この新聞記事では、インタビューされたLara(女性名)は、文面ではheと男性として扱われている。もう一人のJimは男性名なので違和感はない。イスラム教国家であるマレーシアでも性的マイノリティが存在することは知られているが、公には認知されていないため、たとえSRSを済ませても性別変更はできない。
(注2)イスラム教国家ではSRSを行う病院は存在しないので、手術をする場合は隣国のタイかシンガポールということになる。手術費と滞在費用を考えると、SRSまで踏み込めるTSは多くないと推測される。このセミナーの参加者の中にはまだSRSを済ませていないTSがかなりの割合で混じっているのではないかと思われます。
(注3)このセミナーは政府機関であるイスラム開発局やマレーシア・エイズ協議会など4団体の主催で行われたものです。
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今マレーシアに滞在しています。イスラムを国教とする国ですが、中近東などと違い包容力のある政策で他宗教にも寛大で、キリスト教、ヒンズー教、仏教なども認められています。現時点の国民の構成は、マレー系59%、中国系32%、インド系9%という構成になっている。
ただマレー系の人々はまず全員がイスラム教徒であることが原則で、イスラムの戒律を守ることが要求されている。
イスラムでは豚肉はご法度なので、ホテルなどではソーセージやハムもチキンか牛肉で、ぱさぱさしておいしくない。ほとんどのフードコート(食堂街)でもさまざまな料理が注文できるが豚肉だけは出てこない。中華料理のレストランなら豚肉も問題なく食べられる。そこにはイスラム教徒は近寄らないからである。
イスラム教徒も男性は普段着では区別がつかないが、女性はまず全員がヘッドスカーフをかぶっているので遠くからでも識別できる。暑い気候なのに長袖とジーンズやくるぶしの隠れる長いワンピース姿が普通。スカーフは色やデザインはとりどりで、衣服のファッションのコーディネートを楽しんでいるのは見ていても心が華やいでくる。
マレーシアではイスラム系の女性の社会進出は活発で、サウジアラビアのように女性の運転は禁止などという戒律はなく、街の風景もカラフルで、女性のファッションが目を楽しませてくれる。
人種や文化が違っても世界中のどこの国にもトランスセクシュアルは存在する。イスラム諸国では表立っては認められていないが、TSや同性愛などイスラムの認めない性指向をもつ人たちの存在は否定のしようがない。ただ社会的には表立って話題になることが少ないのは隣国タイなどとの違いである。それだけに当事者にとっては理解してくれる味方が少なく、孤立した環境におかれているのは大いに同情に値する。
今回クアラルンプールへに着いた日の英字新聞に、珍しくトランスセクシュアルの記事があったので以下にご紹介しておきます。
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Helping transsexuals blend into society (New Straits Times, 28th May 2011)
トランスセクシュアルが社会に溶け込むために
マレーシアの東海岸パハン州のクアンタン市は南シナ海に面するリゾート地として有名なところです。ここのリゾートホテルのセミナー会場に集まってくるデザイナーバッグを携えて颯爽としたみなりの女性たち、立ち止まった人たちの目が追いかけます。
ただこの女性たちは見世物的なイベントやひんしゅくを買うような目的のために集まったのではありません。30歳から40歳台の30人のこのグループが集まった目的は、ここでの4日間のセミナーでこれからの人生の目標とモチベーション向上を図り、自らの暮らしと人生の充実を目指す手がかりをつかむことです。
”プリティウーマン”と言われてもおかしくないような人は美容師やドレスの縫製などの仕事で生計を立てているものの、家族から疎外され社会からは横目でみられる人たちの行き着く場所は夜の世界しかないのが現実です。
このセミナーではいろいろなキャリア向上プログラムや人生を新たに始めたい人のためのプログラムに加えて、健康管理や道徳問題にも時間をさいている。
午前中いっぱい真剣な課題に取り組んだあとは、参加者たちはファッショナブルなアクセサリーや衣服からスポーツ着に着替えて、チームで行動する野外プログラムに参加する。その中には3時間のジャングルトレッキングもある。
参加者の一人ララ(仮名)はジョホールバル市出身で、彼女の言いうにはこのセミナーは眼からうろこが取れる新鮮なもので、TSコミュニティーの他の人たちにもぜひ広めてもらいたい、とこのセミナーの意義を高く評価している。
「私たちはいつも差別されていると感じています。自分の家族は現実を受け入れる心の用意ができていても、周辺の人々はやはり受け入れを拒む態度なので、私たちは透明人間のように感じながら生きています。このようなプログラムの助けがあればもっといい将来を期待することができます。」
ララは現在はドレスの縫製で生計を立てているが、地域社会の偏見のため彼女と同じ立場の人たちが職場を見つけるのは容易ではないと言う。
「私たちの中には大学卒もいるが、悲しいことに社会が拒むため仕事を見つけるのはむずかしく、そのうちに夜の世界に吹き寄せられてそこしか居場所がない人が多いのです。」
アンパン出身でフリーランスの美容師をしているジム(仮名)は言う。「このようなプログラムがもっとあれば、国内のトランスセクシュアルたちが日ごろから抱いている社会に出る恐怖憾に打ち勝つ助けになると思います。また、このようなプログラムは同じような境遇にいるトランスセクシュアルと知り合い助け合ういい機会になります。」
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(注1)この新聞記事では、インタビューされたLara(女性名)は、文面ではheと男性として扱われている。もう一人のJimは男性名なので違和感はない。イスラム教国家であるマレーシアでも性的マイノリティが存在することは知られているが、公には認知されていないため、たとえSRSを済ませても性別変更はできない。
(注2)イスラム教国家ではSRSを行う病院は存在しないので、手術をする場合は隣国のタイかシンガポールということになる。手術費と滞在費用を考えると、SRSまで踏み込めるTSは多くないと推測される。このセミナーの参加者の中にはまだSRSを済ませていないTSがかなりの割合で混じっているのではないかと思われます。
(注3)このセミナーは政府機関であるイスラム開発局やマレーシア・エイズ協議会など4団体の主催で行われたものです。
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