2011年4月8日金曜日
声の女性化手術
声の女性化手術について
このテーマについては患者さんから問い合わせがあり、今年2月にバンコクに行った折にプリチャー先生に相談したばかりでした。というわけで、前回投稿した女声と男声を自在に歌い分けるタイの女性歌手のニュースは、ほんとにタイミングよく飛び込んできたわけです。
プリチャー先生に声の女性化手術でだれか推薦できる医師はいますかと聞くと、ためらいなく返事が返ってきた。
「世界中どこを探してもそんな医師はいない。手術で声帯のピッチは変えることはできても、その結果どういう声になるかは予測できない。耳障りなピッチの高い声になるかもしれないし、ヒューヒュー息が漏れるような声になるかもしれない。それを修正するのはさらに大きなリスクが伴う。のどに傷跡も残る。どんな手術でも完璧は期待すべきではないが、この手術は患者にとってリスクが大きすぎる。PAIではこの手術は行わない」、ときっぱり言う。
「タイでもこの手術を行っている医者はいるが、手術後に声が出なくなったケースもあったことも知っている。国際的な学会でもこの話題がでるたびに、その手術の効果に否定的な見解が圧倒的である。やはり、時間はかかるが女性の声をまねる訓練を行うのが一番安全な方法だと考えている。」
手術ではなく発声訓練で
2004年にバンコクで行われたSRSワークショップで講演したオランダの医師は、「一番現実的でお勧めできるのはプロの役者のように女声の発声法を時間をかけて身につけることだ。腹から声を出すのではなく、意識的に少し上にあげて胸あたりから出すように訓練すれば、声のピッチも高くなり女性的な発声になる。あせらずに時間をかけて訓練すれば、違和感のない女声の話し方ができるようになるでしょう。」と言っていました。
発声法についてはその分野の専門家もいるようですので、ネットで調べるなどして指導を受けるのもいい方法かもしれません。
数年前の日本のGID学界でもこのテーマの講演がありましたが、経験あるその医師も手術の結果どういう質の声になるかは予測できない、とこの手術の難しさを指摘されていました。
予測できるリスクの大きさと、うまくいった場合の価値とのバランスをどう判断するか。それは個々人の価値判断によりますので、いちがいに決め付けるべきことではないと思います。ただ、SRS関連の他の手術にくらべてリスクが高い手術であることは念頭に置くべきでしょう。
日本のテレビによく出る有名TSタレントでも、声の女性化手術を受けているひとはいないのではないかと思います。それぞれ自分の自然な発声法と、女性でも男性でもない中性的な感じの声で話されているのを見ても違和感はありません。女性的な身のこなしや話しぶりが身についている限り、声の質という物理的な要素はそんなに大きな意味は持たないと私自身は感じています。
TSと俳優の人生
もともとジェンダーは女性だといっても、身についた男性としての身のこなし、マナーなどは簡単には女性化できません。服装やヘアスタイルなど外見は女性化しても、周囲に与える印象は男性時代のなごりをひきずっているのが普通です。
まず周囲の女性の身のこなし、立ち振る舞い、テーブルマナー、しゃべり方、ジェスチャーなどをよく観察することです。俳優はよく観察することで、その人物になりきった自然な演技ができるようになります。“言うは易し、行うは難し”なのはよく分かりますが、シェークスピアの言ったように“人生は劇場であって、それぞれが登場人物の役割を演じている」のです。むずかしいからと言って役を降りることは許されていません。完璧にその役になりきることはできないし、またその必要はないのです。
SRSで肉体的に本来の性になるのは(完璧を求めない限り)比較的に簡単です。ただ、それで終わりではないことがやっかいなのです。TSとして社会の中で生きていくためには俳優の人生が待っていることを自覚するのが必要ではないかと、SRSの現場にたち会うたびにつくづく思います。
毎日舞台に立っている俳優のつもりで本来の自分の性の役割を演じてみてください。何事にも完璧はありません。一生続く稽古のつもりで、めげずに励んでください。ご健闘を!
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