2007年10月31日水曜日

レズビアンの娘を勘当した首相


カンボジア首相、レズビアンの娘を勘当する

「勘当する」とは最近はもう耳にしない古い言葉ですが、要するに親子の縁を切るということです。カンボジアのフンセン首相が自らのプライバシーを公にするのは珍しいことですが、娘がレズビアンであることが判明したため勘当したことを公の場で認めたというニュースを紹介しておきます。(Bangkok Post,Oct.31)

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首都プノンペンの卒業式に集まった3000人の聴衆を前にしての告白でした。「メディアや他の教育関係者などが同性愛を容認するよう教育しているのは知っており、自分なりに納得はしていた。しかし、それが現実に自分の家族の一員の問題となると、全くどうしていいかわからなかった。

「私の娘が他の女性と結婚したのです。今ちょうど、裁判所に娘を我が家から除籍するよう申請してきたところです。」 後ほど放送された国営放送では、このコメントは編集されて(つまりカットして?)放送されたそうです。

「私は全国民を教育することはできます。しかし、この養女だけは教育できませんでした。私は失望しています」と付け加えました。フンセン内閣の公式ウェブサイトによると、フンセン首相には5人の子供がいるが、一人の娘は養女だということです。

カンボジアの社会背景として、2004年2月に時のシアヌーク国王は自分のウェブサイトを通じて同性愛者の結婚を容認して、「民主カンボジアでは男と男、女と女の結婚を認めるべきである」との見解を発表しています。

ただ、保守的なカンボジアの仏教社会ではこのような進歩的な態度は支持されているとは言い難く、同性愛者は家族や周囲から異性間の結婚をせまられるケースが多いようです。

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首相という地位にある人の率直な発言にはちょっと驚きました。イタリアの前首相ベルルスコーニ氏も夫人の「公式謝罪」の要求をかわしきれずに、マスコミの前で一連の浮気を認め公式に謝罪しましたが・・・・

フンセン首相の率直さは評価するとして、ちょっと気になるのが「この養女だけは教育できませんでした」というくだりです。子供をちゃんと教育すれば同性愛は防げると思っているのではないか。当事者のみならず同性愛を理解する人はみな、同性愛は趣味や周囲の影響とは関係ない次元のことであることは周知のことです。しかし、社会全体がこの理解を共有していないのがまぎれもない現実です。

この状況はどの先進国でも発展途上国でも、同じようなものです。ただ、同性愛者にとって少し住みやすい地域があるだけです。州によっては同性愛者の結婚を認めるアメリカでさえ、ごく一部の州のことであり、その州内でも反対者が半分近くあると思って間違いないでしょう。

昨年7月にバンコクで開かれたゲイ・レズビアン会議で注意をひく発言があり、後日ネットで発表されたダイジェストニュースを興味をもって読みました。

会議のパネリストの一人が「同性愛の原因は脳内のプログラムに起因しているもので、これはこの世に生まれる前からすでに組み込まれている。生を受けてからの環境や教育とは関係ない」という主旨だったと思います。要するに、ゲイ、レズビアン、トランスセクシュアルなどの性的少数者はすべてこれに該当するわけで、私の考えと同じだったので記憶しています。

ただ、この時他の学者からも強烈な反対意見があり、「科学的根拠がない」のがその反対理由だったと思います。結局、けんけんがくがくのやり取りのあとこのテーマは痛み分けに終わったわけですが、今後の議論の向かう方向が見いだせたという大きな意義があったのではないかと思います。

性的少数者に寛大で比較的に住みやすいタイでも、法的な整備がされていないせいで、またタイ特有の遺産相続法もからんでくるため、同性愛者やSRS後のGID当事者の正式な結婚は認められていないのが現状です。

カンボジアのフンセン首相が縁を切った娘さんと和解する日がくるでしょうか。彼の言う「教育」ではなく、正しい教育には気の遠くなりそうな時間がかかりそうです。また、「科学的根拠」というのはいつ見つかるのでしょうか。

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2007年10月7日日曜日

タイのTSグループ、性別変更の立法化を求める


TSグループ、権利獲得の立法化を求めて立ち上がる

先回にビューティ・クイーンの話題を取り上げましたが、今回は個人のレベルから性的マイノリティーの人たちの社会的な権利獲得をめざす運動に目を向けてみましょう。

日本ではすでに戸籍上の性別変更に関する法律も実施されていて、まだ問題を残しているとはいえ性別適合手術などの一定の条件を満たせば、戸籍上の性別記載の変更や結婚もできるようになりました。

一方、性転換手術の先進国であるタイでは、TSやゲイなどの性的マイノリティーに対する社会的認知度は高く、表面的には自由のある暮らし安い社会に思えますが、実情はかなり違っていて他の国と同じ問題をかかえていることが以下の記事からもわかると思います。

これもタイの英字新聞ネット版に載っていた記事から要約したものです。(The Nation;August 15&27, 2007)

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「TGタイランド」というグループを結成したTGビューティ・クイーンのヨランダさんは、女性としての権利を得るために<ミス>と正式に呼ばれるように性別記載変更を求めるキャンペーンを開始しました。2005年の「ミス・アルカザー」に選ばれたヨランダさんをはじめ、有名なTSボクサーで<ノントゥム>として知られるパリニャさんなどが発起人として名を連ねており、TSやトランスベスタイトが自らの性自認により本来の<ミス>と呼ばれるように性別記載変更を求める運動を起こし、国会の立法委員会に法律変更を求める要求書を提出しました。この問題は女性及び家族問題に関する協力推進協議会で審議され、国会での法案提出に向けて準備が整えられています。本日(8月15日)も人権擁護委員会のナイヤナ女史とのキャンペーンに関する説明会が予定されています。

政府側の見解では、男女どちらの側であれ性別変更を伴うこの案件は婚姻届や不動産所有権などとも関係してくるため、また多くの省庁や法律と関連するため公聴会を経なければならないということです。

ヨランダさんによれば、このキャンペーンが成功すればさらにトランスジェンダーを兵役義務から除外するという現行の規定を変えるための闘争も考えているとのことです。それは兵役義務免除の理由が<精神的倒錯により>とされているからです。

ヨランダさんによれば、銀行取引時の書類作成、求職活動時の面接、海外旅行、などに際して数多くの問題にぶつかった経験を味わっている。「これは書類上の性別と自分の女性としての外観がマッチしないからです。わたしたちのジェンダーが変わったならば、個人的な書類上の記載も変わってしかるべきです。実際には、わたしたちは普通の女性と同じ扱いを求めているのではなく、われわれTSの権利を認めて法的な保護を与えてくれること、そして政府・民間を問わずわれわれを社会の一員として受け入れて欲しいだけです。」

24歳のクロスドレッサー、サシパットさんは性別を女性に変えることで就職活動がずっとやりやすくなると言う。男性向けの仕事に応募しても女装しているためその場で不採用になるからです。「性転換手術をして本来の女性になるのがわたしの夢ですが、トランスジェンダーやトランスベスタイトの多くがそれを望んでいると思います」とサシパットさんは言う。

同じく24歳のトランスジェンダー、ラモンさんも似たような経験を話す。スウェーデンまで行って英語を勉強し、帰国後ホテルの仕事に応募しテストの成績は最高点を取れたのに、書類の性別が男性であったため採用されなかったのです。

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(2点の写真はいずれもMiss Tiffany Thai 2004の優勝者で、この記事とは直接の関係はありません)
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この記事の数日後に別のグループ(Gay Political Group of Thailand)が声を上げ、トランスセクシュアルだけに法律を変えるのは問題があると立法委員会に申し立てを行いました。

このグループの委員長のナティーさんによると、「肉体上の性別は精神の性別ほどは重要ではないと思う。トランスベスタイトもその精神的な特徴やライフスタイルは女性と同じであり、立法委員会はトランスセクシュアルと同じ権利をわれわれにも与えるよう考慮すべきです。トランスベスタイト人口はTSよりはるかに多いはずです。TSの人たちと同じようにわれわれも就職や海外旅行などにおいて同じ問題を経験しているのです」。

ナティーさんはさらに、トランスベスタイトたちは(ゲイも含め)性別変更の権利が得られたにしても、決して気軽に性別変更してあとで後悔するような軽率な行動はとらないこと、踏み切る前に自分の本当の性をじっくり確認すること、また政府もそのためのくわしい情報を提供すること、などを要求しています。

一方、先行の「TGタイランド」グループのヨランダさんは、立法小委員会の会合に10人の代表を送り込み、さらにオーストラリアから専門家を招き、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどの法律上の詳細につき説明してもらうことにしています。

トランスセクシュアルとトランスベスタイトに<ミス>への性別変更は、あくまで希望する者だけを対象とすべきで、肉体的及び精神面の診断、社会的な適応性なども考慮したのちにその権利が与えられるべきでしょう。ヨランダさんとそのグループは当面の要求として、IDカード、パスポート、運転免許証などの個人的な書類上の性別変更だけしか考えていないことも付け加えました。

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日本のいわゆる「身分証明書」は会社や所属する組織が個別に発行するのが普通で、日常的には健康保健証や運転免許証がIDカード代わりに使われています。タイなどの東南アジアではIDカードは最も重要な書類で、これがないと社会的に存在しないも同然です。

性転換手術では先進国であるタイですが、GIDに関する法的な整備は全くされていないのは驚きと同時に残念なことです。しかし、今年になって性的マイノリティーの社会的な運動が活発になっていて、5月には有名なノボテルホテルのナイトクラブに入場を断られたトランスベスタイトがホテル側を訴え、同情する幅広い層がボイコット運動をしかねない状況にまで発展し、ついに世界有数のホテルチェーンであるノボテルの経営陣が公式に謝罪するという出来事がニュースになりました。

表面的には大らかで住やすく見えるタイの社会ですが、性的マイノリティーの実情は必ずしもそうではなさそうです。今後スムーズに法的な整備が進むことを願うばかりです。

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