2007年8月15日水曜日

DR. PREECHAのSRSセミナー参加御礼


Dr.PreechaのSRSセミナー参加御礼


このサイトでも予告しましたように、PAIのプリチャー先生のSRSセミナーは、8月11日と12日の二日間に分けて銀座東武ホテルにて開催いたしました。参加されたFTMとMTFの方々には、SRS手術に関する熟練した経験医師からの直接的な情報を得る数少ない貴重な機会であったと思います。

参加者の方々からも大変好意的なご感想をいただきました。この場を借りてあらためて参加者の方々にお礼申し上げます。プリチャー先生も結果には大いに満足で、大好きな日本食も堪能されて月曜日に帰国されました。

今回は参加できなかったGIDの方々からご要望があるようでしたら、次回のプリチャー先生の来日時にまたセミナーを開催することも検討しますので、私のメールアドレスまでご連絡ください。

PAI認定SRSカウンセラー
島村 政二郎

masa.shimamura@gmail.com


2007年7月21日土曜日

DR.プリチャーによるSRSセミナーのご案内


DR.プリチャーによるSRSセミナーのご案内

大の日本びいきであるPAIのプリチャー先生が、タイの週末連休を利用して8月に来日いたします。その機会にSRSの実際についてセミナーを催すよう依頼しておりましたが、日程をやりくりして実現できることになりましたのでご案内させて頂きます。

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セミナーの内容: 
SRS手術の実際について、スライド写真等を使った解説と参加者との質疑応答。(日本語通訳つき)

日時:(時間が以下に変更になりました) 
●8月11日(土曜日) 午後5時30分―7時30分[FTM手術の実際]

●8月12日(日曜日) 午後4時―6時 [MTF手術の実際]

場所: 
「マリオット銀座東武ホテル」B1会議室
東京都中央区銀座6丁目14-10 (昭和通りに面する)
電話 (03)3546-0111
http://www.tobuhotel.co.jp/ginza/

行き方: 
地下鉄銀座駅より徒歩5分、東銀座駅より1分。
銀座6丁目「松坂屋デパート」横の通りを東銀座方面に歩き、昭和通りに出ます。昭和通りに面した6丁目の角(7丁目手前)にホテルの入り口があります。

会場:
会場はロビーから吹き抜け階段をB1に下りると目の前に「DR.PREECHAセミナー」のサインがあるはずです。参加者は左手にある会議室「タブロー」に直接お入り下さい。受付は中で行います。

参加資格者: 
少人数のセミナーですので、GID当事者(10人まで)に限定させて頂きます。

参加費: 無料

申し込み(問合わせ): 
8月6日(月)までにEメールで下記アドレスに申し込んでください。お名前とFTM,MTFの別を明記してください。
Eメール: masa.shimamura@gmail.com

プリチャー医師について: 
DR.プリチャーの経歴・SRS実績等については、当サイトの1月18日付けの投稿「PAIについて」を参照してください。

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2007年7月10日火曜日

親・家族のためのGIDガイド (その3)

親・家族のためのGIDガイド (その3)


治療へのステップ

性的な違和感をやわらげるため、医師の診断なしに自分で女性ホルモンなどを購入して服用を始めるなどのケースも現実には少なからずあります。しかし、正式な治療に向けて進むには通らなければならないステップがあります。これには厳密な順序があるわけではありませんが、医学的な治療へ進むためには必要な段階を経ないと健康上の障害も起こり得ますので、まず精神科医の診断から入るのが常道です。

精神科医の診断
まず正式な治療の第一歩は専門医による診断です。精神科医なら誰でもよいわけではなく、GIDを扱った経験のある精神科医が望ましいですから、事前に医師の経験を確認してから訪問するようにしてください。また、医科大学などの付属病院にはジェンダークリニックを設置している病院もありますので、調べてから行動を起こしてください。

ホルモン治療
精神科医に相談のうえ、問題なしと判断された場合には、ホルモン注射・投与による女性化(MTFの場合)や男性化(FTMの場合)が始まります。すでに誰にも相談しないで、あるいは当事者同士の情報交換でホルモン剤を購入して治療を開始している人もいますが、専門医の指導を受けることが大事です。手術後もホルモン治療は続ける必要があり、素人判断では精神不安定などの症状に悩むことがあります。

治療費用の準備
いったんホルモン治療を始めると、身体の中で女性化(または男性化)が進行しているため、もう後戻りはできません。希望する最終目的に向けて費用を確保する計画を立てなくてはなりません。手術を希望する場合には多額の費用がかかりますので、計画的に資金計画を立てる必要があります。

手術を受ける医療機関の検討
MTFであれ、FTMであれ、精神科医やホルモン治療だけではGIDの症状は消えることはありません。ほとんどの場合、最終的には何らかの外科的手術が必要になります。日本では1964年に起こった「ブルーボーイ事件」という不幸な不祥事のため、性転換手術は医学界では異端視された結果、欧米諸国やアジアの他の国とくらべて大きく出遅れました。その結果、正式な形の性転換手術は1998年に再開されたものの、経験のある医療機関や医師は非常に限られていて、2007年現在でも日本全体の症例数は100例にも達していないのが現状です。いつまで待てばよいかわからない国内での手術よりも、経験豊かな外国の医師の手術を受けるという方法も、大いに現実味のある選択肢として検討する必要があるでしょう。

家族へのカムアウト
親や兄弟だから理解してくれるだろうと楽観はできません。逆に身内だからこそ認めたくないという心理が働くのもわかります。家庭内の平穏を乱すような内容だからです。同居している親なら、日頃の言動から何かおかしいとは感じているはずなので、時間をかけて徐々にGIDの情報を与えて理解を助ける準備期間も必要でしょう。全員に同時にカムアウトする必要はなく、家族の中でも一番信頼できる人にまず打ち明けてみるのもいい方法かもしれません。

社会的カムアウト
いつ誰に、どのように打ち明けるかは大変重要です。友人はともかく、職場での人間関係や仕事の関係先に対しては慎重に考えて行動する必要があります。信頼できるGID当事者、職場の上司、友人にまず相談して、時間をかけてあせらずに行動してください。手術が無事終わってからも、以降の仕事や社会生活にいかに適合していくかはますます大事になります。

名前の変更手続き
精神科医の性同一性障害との診断書が下りれば、名前を変更する手続きができます。パスポートなどの性別欄変更は性別適合手術が終了するまで待たなくてはなりません。

脱毛処理など
男性から女性の場合(MTF)では、顔のひげ、手足の脱毛などの女性化に向けての準備にかかります。これには長期の時間とかなりの費用がかかりますので、できるだけ早めにとりかかる必要があります。またSRSに直接関係する部分の脱毛は個人差がありますので、できるだけ早い段階で医師またはカウンセラーに相談して必要な処置をすることが大事です。

声の女性化
MTFの場合には女性的な声をどのようにしたら出せるか、というのは大いに気になる問題です。男性的なのど仏を小さくするには外科的な手術が可能ですが、声の質を変えるのは外科的な方法ではほぼ不可能と考えた方がよいでしょう。声のピッチを高くするのは手術で可能といえば可能ですが、結果としてどのような声になるかは予測ができませんので、リスクの高い方法といえます。世界の専門家の最大公約数としての意見では、俳優のようにじょじょに女性的な発声法を練習して身につけていくのが一番現実的であるということです。FTMについても同様のことが言えます。

メーキャップ・服装
これも自分なりに試してみて、時間をかけて慣れていくしかないようです。ただ、あまりに女性を強調したメーキャップをすると不自然さが目立ち、違和感を与えてしまいます。服装も同じです。まず中性的(ユニセックス)な印象をイメージしてじょじょに慣らしていくのがよいでしょう。

戸籍の性別記載の変更
これは性別適合手術が終了して、医師の診断により反対の性に類似した外観の生殖器官をもつことが確認されるまで待たなくてはなりません。手続きは各地の家庭裁判所の管轄となり、必要書類提出後3ヶ月ほどで許可がおります。これで、パスポートなどの公的書類の性別変更も可能になり、社会生活に関連する書類等もすべて性別表記の変更ができます。

社会生活への適合
これで本来の自分の性での生活が本格的に始まることになり、それまで周囲へのカムアウトはある程度進んでいるわけですが、これで解決と考えるのは危険です。まだまだ周囲は自分が期待するほど理解しているわけではありませんので、慎重に配慮しながら職場や社会環境に適応していかなければなりません。まだまだショックを受けるような周囲の反応がありうるという心の用意はしておかなくては無防備というものです。周囲に悪意があるわけではありません。GIDというのはそれほど普通人には理解がむずかしいという一言につきます。

手術後の治療の続行
手術が終わればすべて完了というわけではありません。術後1ヶ月ほどで社会生活に復帰できます。約6ヶ月で安定して手術跡も気にならなくなりますので、それまでに大きな問題がなければひとまず安心してよいでしょう。ホルモン治療は引き続き専門医の定期的な診断を受けながら続けなくてはなりません。

性別適合手術(SRS)について
前にもふれたように、すべてのGID当事者が手術を望んでいるわけではありません。手術しなくても反対の性での社会生活さえ満足にできればよい、と考えているGID当事者もいるのは事実です。ただし、世界的にみても性転換手術なしには自分の長年の悩みは解消できないと思う人が大部分を占めているのも事実です。また、医者の方から「あなたは手術すべきです」とか「手術は必要ありません」と言うことはありません。通常の病気とは違うため、手術するかどうかはGID患者自身しか決められないのです。

ほとんどの国で性転換手術には保険は適用されず、日本でも同様です。また多額の費用を覚悟しなければなりません。さらに実施している医療機関や経験医が少ないため、数ヶ月から1年上の待ち時間が必要なのが実情です。

 MTF手術(男性から女性)の概略

病院や医師により手術方法が異なる場合があります。以下はタイのPAIを主宰するプリチャー医師(MTF手術実績は3,300例と世界で最も実績のある医師の一人)の手術方法を参考例とします。

●睾丸摘出 (これだけは利用価値のない唯一のものです。残りはすべて役に立ちます。)
●陰茎の加工 (陰茎の周辺をとりまく海綿体はそぎ落とされますが、陰茎は切り取ることはなく、亀頭の一部はクリトリスとして利用されます。ひも状の神経組織もそのまま生かされます。尿道も短くして再利用されます)
●新膣形成 (深さ約15センチの膣となるポケットが、内部の周辺組織を傷つけないように慎重に造られます)
●陰茎の皮膚及び陰嚢の皮膚を利用して、膣の内壁が造られます。
●クリトリスの形成 (亀頭部分を小さくして恥骨部分に埋め込み、感覚はそのまま残ります)
●新尿道が形成されます。(術後5日間はカテーテルで排尿します)
●陰嚢の皮膚を利用して大陰唇、小陰唇が形成されます。
●MTF手術の所要時間は3時間で、このワンステージですべての手術が完了します。
●病室はすべて個室で、入院期間は5日間。その後ホテルに移り、その10日後には帰国できます。
●MTF手術費用はUS$8,100です。(2007年6月より)
●豊胸手術や顔などの女性化のための美容整形手術も同時に受けることができます。


 FTM手術(女性から男性)の概略

FTM手術も280例の実績のあるPAIの手術法を参考例とします。通常は4段階に分けて、また3ヶ月から6ヶ月の間隔をおいて次のステージに進みます。

●第1ステージ: 卵巣・子宮摘出、尿道延長術、乳房切除術 
(手術費US$8,100)(バンコク滞在:7-9日間)
●第2ステージ: 陰茎形成術 (腹部皮弁使用) 
(手術費US$6,900)(バンコク滞在:16日間)
●第3ステージ: 尿道形成術、シリコン睾丸形成術 
(手術費US$3,500)(バンコク滞在:8日間
●第4ステージ: 陰茎にシリコン挿入、亀頭形成術、必要な場合の修正手術 
(手術費US$3,500)(バンコク滞在:6日間)
●手術後にはペニス自体の性感はありませんが、クリトリス性感は維持され、性的満足感を得ることは可能です。また立ったまま小便ができるため、男性としての実感がわきます。
●第4ステージまでの手術費総額はUS$22,000です。(2007年6月より)


親はどう対応すべきでしょうか

息子や娘から性の違和感について打ち明けられたときは、当人にとってはもう我慢の限界に来ているときと思って間違いありません。しばらく様子を見ていれば変な症状は消え去るのではないか、という希望的観測や理解できないからと無視する態度をとるのは最悪です。

まず子供の決心を尊重してあげること、そして前向きに協力して進めるようサポートする意志を伝えることです。何ヶ月もかけるのでなく、出来るだけ短期間に親の意向を明確にして勇気づけてあげることが大事です。

前途にはまだ直面しなくてはならない多くの問題がありますが、家族が理解し合うことによって、悲観的ではなく現実的な対応策が必ず見つかるものです。

子供の性的違和感の症状について親として自らを責めてはなりません。本当に信頼できる一人の友人にまず相談するのもよいでしょう。家族全員に伝えるのは急ぐ必要はなく、タイミングをみて判断した方がよいでしょう。

気分が落ち着いたら地元にある自助グループに連絡してみるのも、今後の方針を探るのに役立つかもしれません。すでに多くの困難を乗り越えてきている体験者、先駆者の話を直接聞ける機会でもあります。

医師やカウンセラー、自助グループなどを共犯者とし敵視してはなりません。かれらはあなたの息子や娘を誘拐しようとしているのではなく、サポートの手を差しのべているだけです。

医師の診断を経て姓名変更ができた場合には、本人の希望する新しい名前で呼ぶように心がけるのも大きな精神的サポートになります。

新しい性での服装やメーキャップについては、傷つけない配慮はしながらも当人の参考になる意見を言うのも新しい親子関係を築くのにはいいことでしょう。

性同一性障害についての出版物はすでに数多くあります(参照:amazon.co.jp)。インターネットでも参考になる情報が次々と提供されていますので、できるだけ目を通して知識と共通の言語を身につけるのは大いに役立ちます。「知識は力なり」を早速実践してみましょう。


治療へのガイドライン

日本精神神経学会が2002年に提言した「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン-第2版」に、治療へのガイドラインが示されています。その中で基本方針とみなされる部分を、本稿の最後に治療への指針として以下に引用させて頂きます。

「性同一性障害の当事者における性のありかたは、極めて多様である。このことは、社会において価値観が多様化するなかで性のありかた自体も変化し、従来築かれた男女の性意識が変遷し、求める性役割も大きく変貌しつつあるという状況とも関係すると考えられる。このような実態を踏まえると、性同一性障害の治療は、単に男か女かという二分法的な性のとらえかたに依拠するのではなく、本人のなかで培われ、一貫性をもって持続するようになったジェンダー・アイデン ティティを尊重して、本人が最も良く適応できる諸条件を個々のケースにそって探り、その達成を支援することであるといえる。」

「性同一性障害の多様性について、初版ガイドラインにそった治療を求めるもの以外に、次のような例も認められる。身体的性別の特徴を希望する性別のものに変えたいと願いながらも、ホルモン療法を受けずに性器に関する手術のみを希望するケースや、あるいは乳房切除術ないしはホルモン療法だけを望み、性器に関する手術を希望しないケースもみられる。また強い性別違和に悩み種々の矛盾を感じながらも、家庭生活や社会生活を優先させるために精神的サポートのみを希望するケースなどがある。」

「このように当事者が求める治療は多様なものであるが、治療の必要性が性同一性障害に由来しており、治療によって社会に適応しやすくなるという恩恵がもたらされるのであれば、医療の立場から貢献するに十分な理由があると考えられる。性同一性障害にみられる多様性に対して画一的な治療を遵守させるのではなく、ジェンダー・アイデンティティのありかたと当事者自身の求める社会適応のありかたを尊重すべきである。したがって合理的で正当な範囲において、自己の責任において治療を選択し決定してゆくことが最善であると考えられる。」

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3回に分けたこの稿を一応しめくくりますが、家族の方に一番求められているのは、この性同一性障害に長年苦しんできた自分の家族の一員を、できるだけ理解しようと努め、物心両面でサポートしてあげること、そして大事なのは当人の選ぶ治療方法、生き方を尊重して見守ってあげることではないでしょうか。


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参考文献:
●イギリスのTS当事者団体「GIRES」のウェブサイト(http://www.gires.org.uk/)(GIRES=Gender Identity Research and Education Society)
●日本精神神経学会「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン-第2版」
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2007年6月19日火曜日

親・家族のためのGIDガイド (その2)


男と女は脳内構造が違う

GID(性同一性障害)がどのようにして発生するかまだ解明されているわけではないですが、仮説として受け入れられつつある説が前稿でもふれた生物学的な要因です。つまり、胎児の発生段階から生物学的な生成過程において、遺伝子やホルモンなどの相互作用によって脳内の構造が決定されていきます。この胎児の成長過程で、脳内の性意識の発達に生物学的な要因が大きな役割を果たしているという説が有力視されています。性意識とは、「男」か「女」であるかを自ら認識する脳の機能の一部です。これは身体の特徴の外観で「男」「女」を識別できる、外観による自己の性別認識とはまったく別ものと考えてください。

頻繁ではないにしろ、脳の性自認と、身体の性別を示す特徴が一致しないという現象が起こります。これは男女を問わず起こりますが、自らの意識している性自認と身体の性別との違いに気づく過程や、何歳ごろから意識するようになるか、またその違和感の程度などは個人により大きな開きがあります。このミスマッチが、何が引き金になって、どのようにして起こるのかが解明されていないのは何とも歯がゆいばかりですが。


トランスジェンダー(TJ)

この性自認と身体の性別との違いに違和感をもつ人たちは、「トランスジェンダー」または「TJ」の総称で知られています。トランスジェンダーの人たちが自らの性自認に基づいて表現している、社会的な行動はバラエティーに富んだものです。ある人は別の性別での行動は(例えば男性が女装する)、週末だけでも精神的に満足する。ある人は、行動範囲を広げて女装での買い物などの外出機会を増やし、またある人たちはグループの集まりに参加したりして、性自認を社会的にも自ら検証しながら違和感のない生活を送ろうと努めたりしています。


トランスセクシュアル(TS)

トランスジェンダーは医学的な治療は必要としない人たちもいて、カバーする範囲が広い総称です。その中に、自らの性自認に合わせて、身体の性とは別の性役割で生涯生きていきたいという、強い押さえることのできない感情を抱く人たちがいます。こういう人たちは一般人口から見れば少数ながら存在し、この人たちが「トランスセクシュアル」と呼ばれています。この用語には性別をトランス(=横断)するという意味合いがあり、それには、「男から女」へ、また「女から男」との両方があります。

「トランスジェンダー」と「トランスセクシュアル」の人たちの間で明確な定義があるわけではないですが、「トランスセクシュアル」という言葉は身体の「外観上の性別」から「性自認の性」に向けて横断中か、またはすでに横断をすませてしまった人たちを指す場合に使われているようです。男性から女性へのトランスをしている人は「トランス女性」、女性から男性へトランスする人は「トランス男性」となるわけです。このけわしく長い距離を横断して目的地にたどりついた人たちの多くは、その後は単なる「男性」、または「女性」として生きることを望んでいて、また周囲からもそのように扱って欲しいと願っているはずです。


ホモセクシュアル(同性愛)との違い

「性指向」と呼ばれるのは、性行動において同性を好むか異性を好むかという、パートナーとしての好みの方向性の問題です。その意味で、性指向が同性のみに向けられるゲイやレズビアンの同性愛者と、頭の性自認と身体の性の不一致に悩むトランスセクシュアルとは明確に区別して考える必要があります。簡単に言えば、同性愛者は性自認と身体の性に違和感はなく、身体の性を変えたいなどと考えたこともなく、今のままでハッピーなのです。一方、トランスの場合は、手術までしても身体の構造を変えて、頭で自認している性に合わせたいと切望している人たちです。

話しがさらに複雑になりますが、トランスの人たちの間にもストレート(異性愛)の人もいれば、ゲイ・レズビアン(同性愛)、バイセクシュアル(両性愛者)、エイセクシュアル(性無関心者)、などがいて性指向の点では普通の人と変わりません。また性指向が胎児の脳の発育過程と関係あるとの見方が研究者の間では支持されつつあり、それは根拠のない説ではなさそうです。それが証明されると、ゲイやレズビアンの同性愛者も、この世に生まれる前にすでにその性指向が決められていたということになります。

性的少数者を総称して英語の頭文字から取った「LGBTI」(=Lesbian,Gay,Bisexual,Transgender,Intersex)には共通して、生物学的な要因が関係していますが、これまでの説明からも両方にまたがるケースもあることがわかります(例として、TS+Lesbian)。また、共通しているもう一つの問題は、これら「LGBTI」の人たちは自らの責任ではないにもかかわらず、社会的に差別を受けているという事実です。社会の無知と無理解と、そして理解できない人たちを恐れて遠ざける心理がその根底にあるのではないでしょうか。


「セックス」と「ジェンダー」の区別

基本のおさらいになりますが、男性と女性を区別する特徴には二つの要素、「セックス」と「ジェンダー」、があります。「セックス」とは、肉体上の構造のことを指し、性器の外観だけでなく精巣(睾丸)や卵巣などの内性器も含み、男性と女性ではそれぞれが異なった構造になっています。「セックス」は日本語としては狭い意味の性行為を指して使われることが多く、海外旅行で記入する書類などに「SEX」という欄を見るとなんとなく違和感を持つことがあります。要するに、体の性別のことなのですが・・・・。

「ジェンダー」は二つの要素に分かれます。その一つが「性自認」で、誰から言われなくても自分で自覚している「男の子」か「女の子」かの性別意識のことです。もう一つは、「性役割」(=Gender Role)というもので、自分が社会的に男か女のどちらの役割で行動するかという規範です。昔にくらべると大幅に男女間の平等意識が高い社会になったとはいえ、学校では服装は明確に分けられ、スポーツや遊びゲームも別々なのが普通です。また、興味の対象もそれぞれ違っていて、付き合う友達も性別にグループが分かれます。

社会一般的には、性自認と性役割は一致していて、人間はみんな「男」と「女」の二つの種別に分類されると思い込んでいます。「男の子」は大きくなると「男」になり、「女の子」は「女」になるわけです。誕生して体の性別が判明するやいなや、自動的にその子の性自認も同じだと想定されるのです。ところが、時には少数とはいえミスマッチが起こるのに驚いてはいけません。外観の性別から周囲や社会が期待するものと、当人が内面で感じて行動で表現したいことがまったく合わないのです。このような状態が、当人にとっては深刻な「性別違和感」となって意識されるようになります。それはうつ病に近い症状かもしれません。


手術による治療に向けて

幼児期から思春期を経て、さらに成人期を迎えるにつれてこの性別違和感はますます激しくなり、我慢の限界と感じる人も少なくありません。違和感の程度には差はありますが、トランスセクシュアルと自認する人たちは自ら自覚している性自認に従って生きることを決意して、医学的治療を開始する人も多くいます。これはそれまでの社会的通念とは反対の性で生きるということであり、軽々しくできる決心ではありません。もう後戻りはできないのです。

その一歩としての精神科医による「性同一性障害」であるという診断に基づき、ホルモン投与の治療に入り、最終的には外科手術により身体の性別を本来の性自認に合わせる「性別適合手術」(=性転換手術)を受けるという順序で進みます。最初の治療開始から手術までは最短でも2年間はかかるのが普通です。男性から(本来そうあるべきだった)女性にもどるトランスセクシュアルは「トランス女性」であり、女性から本来の男性にもどる人は「トランス男性」と呼ばれます。手術の結果として自分本来の性にやっと戻れたことにより精神的な調和を得て、新たな人生を前向きに歩み始める当事者が多いという事実から、この性別適合手術の持つ医学的、社会的意義をもっと肯定的に評価すべきではないでしょうか。


手術後の性指向

前にもふれたように、性違和感は性指向とはまったく関係ありません。トランスの当事者も普通の人たちと同じように、パートナーの好みの対象は反対の性の場合もあれば同性の場合もあり、またどちらの性でも良い人、さらには性行動には興味を示さない人など、さまざまなケースがあります。興味深いのは、性別適合手術を済ませるまでは、手術後に自分の性指向かどの方向に向かうのか分からないというケースが多いことです。それまでと同じかもしれないし、また変わってしまうかも知れないということです。

性に関することはこのように不思議なことが多いのは事実で、当人だけでなく家族にとっても大きなストレスになりますが、性違和感・性同一性障害という症状は、病気ではないと同時に精神の病とはまったく関係ないということを、治療への第一歩の段階でよく理解しておく必要があります。


法的な環境整備も進む

国際的にも広く認められるようになった性同一性障害は、日本でもその対象者であるトランスの人たちの法的な権利がだんだん認められるようになっています。治療の一部は保険の対象にもなり、また名前の変更、さらに2004年からは性別適合手術を済ませた人には戸籍上の性別変更も可能になり、すでに50人をこえる対象者の戸籍変更が家庭裁判所で認められています。その他のあらゆる公的・私的書類の性別変更も可能になり、さらに、新しい性別にもとづき正式に結婚する道まで開らかれています。

もし家族の方が成人した息子または娘からその悩みを打ち明けられたとしたら、そのときは当人にとってはもうすでに我慢の限界に来ているときだと解釈してもよいと思います。家族の精神的サポートをもっとも必要としているのです。その時に家族、とくに両親の理解が得られるか、少なくとも理解しようとする姿勢が見られるかどうかが、当人の今後の治療に向けての取り組みに大きな影響を与えるのは間違いありません。

打ち明けるには勇気がいるのです。それを尊重して、理解を示してあげるのが親にできる大きな第一歩です。それが何よりも力強いサポートになります。現実には親から拒絶されるケースが多いのを見聞きするにつけ、なにはできなくても我が子を理解しようとする親らしい態度だけは示して欲しいと願わざるをえません。

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前稿のおさらい的な内容が多くなりましたが、次回は具体的な治療に向けてのステップを追っていきます。
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参考文献としてイギリスのGID研究・TS当事者支援団体「GIRES」のウェブサイトを利用させて頂きました。(http://www.gires.org.uk/)(GIRES=Gender Identity Research and Education Society)
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2007年6月9日土曜日

親・家族のためのGIDガイド (その1)



性同一性障害(GID)とはどういうこと?

人間は幼少のころから自分が男であるか、女であるか、人から言われなくても自覚するようになります。その自覚にもとづいて男の子は男らしい、女の子は女らしい行動を自然にとるようになり、これを性の自己認識、つまり「性自認」と言います。その頭で自覚している性自認が、身体に表れている男の特徴(または女の特徴)と合致しないという症状が日本では「性同一性障害」と呼ばれています。同様のケースが世界中に数多くありますので、国際的には「GID」(=Gender Identity Disorder)として認知されています。

ざっくばらんに言えば、頭では自分は女の子だと思っているのに、オチンチンがくっついている。この違和感に気付くのは早い人では2-3歳ごろから、遅い人では思春期から自覚するようになり、歳とともにその深刻さが増してくるのが普通です。その違和感のもたらす深刻さは、おそらく常人には想像できない性質のものでしょう。

この性自認と身体の違和感には軽度の場合もあれば、どうにも我慢のできないほど深刻に悩むケースなど、さまざまです。年齢によっても悩みの度合いは違います。深刻な場合にはその最終的な治療方法としては、身体の方に手術で手を加えて(いわゆる性転換手術)、頭の性自認に合わせる方法しかありません。そこまで考えている性同一性障害者は「トランス・セクシュアル」、略して「トランス」と呼ばれています。トランスとは「男から女へ、女から男へ横断する」という意味です。また「トランス・セクシュアル」を略して「TS」とも呼ばれます。これらは蔑称ではなく、当事者たちが世界中で共通に使っている言葉です。医学上は「トランスセクシュアリズム」(=性転換症)という名称が付けられています。


GIDはなぜ起こる?

科学、医学の進歩した今日でもまだその正確な原因は解明されていません。ただ、仮説の段階ではありますが、男と女の脳の神経回路には明確な違いがあり、その回路構造の違いが「男」、「女」の性自認を区別している、という見解が研究者の間で注目されています。この「男」「女」に分かれる性分化は胎児期から始まり、誕生直前、そして誕生後も発達を続けます。これは他の哺乳動物でも同じことです。この性分化の進行にホルモンが重要な役割を果たしている、という仮説が一般的になっていますが、具体的に何がどうしてそうなるのか、というメカニズムはまだ解明されていません。

子供の性自認は普通ならば身体の特徴と一致しています。つまり、男の子なら男の子らしく振る舞い、女の子は他の女の子と同じような言動を好むものです。ところが、少数ながら身体の性別とは違った性自認をもつ子供が生まれます。この頭と身体の不一致は成人するにつれて変化する場合もあり、変化しないケースもあるため、子供の段階で将来を決めつけることはできません。ただ、身体の特徴に合わせて男(または女)として育てても、また親としてそのための環境を整えてあげても、この頭と身体の不一致が大人になっても執拗に続き、その結果トランス・セクシュアルとしての生き方を選ぶ場合も少なくありません。そして、その症状が精神科医や専門医によって「性同一性障害」として認定された場合には、ホルモン投与を手始めとして治療を開始し、最終的には「性別適合手術」(=性転換手術)に進むことになります。


「左利き」や「ゲイ」も先天性?

この医学的には「性転換症」(=トランスセクシュアリズム)と呼ばれる症状は、脳の神経構造が身体の構造と反対になっていることから起こると信じられていますが、その原因には生物学的な要素が関係していることは他の例からも証明されつつあります。例えば、左利きの人の場合です。多数を占める普通の右利きの人には、左手で字を書いたり箸を持ったりするのは奇異な感じがしますが、左利き当人にとってはごく当たり前のことなのです。生物学的にそういう脳の構造で生まれてきているのが原因の場合が多いそうです。また、ゲイやレズビアンなどの同性愛もすでに生まれる前に生物学的に決定づけられているという見方が近年注目されるようになり、近い将来の科学的解明を期待するばかりです。


治療の方法は?

性同一性障害の子供を、その身体の特徴に合わせて、家庭内でも社会的にも適切に扱っていけば、その症状を軽減しまたは防止できるのではないか、と誰しも考えることですがその有効性は未だに証明されたことはありません。反対に、性器の外観からは男女の区別がむずかしい「半陰陽」(=インターセックス)の過去の症例から証明されていることは、頭の性自認は性器官の外観とは関係なく機能しているという事実で、たとえ医学的に外観を変えても、またその変えた外観に合うように周囲が社会的な配慮をほどこしても、性自認は変えることはできないことです。

つまり、性同一性障害・性転換症の場合には、最終的には頭の性自認に合致するように身体を外科的な手術で変えるしか方法がないことになります。その一方、手術までしなくても日常生活に支障を感じない当事者の方も少なからずいるはずです。いずれにしても、性同一性障害を一つの単純な原因に決めつけるのは不可能で、複雑な多面的な要素がからみ合っていることは確かなようです。その診断に際しては当事者本人の自己申告が大きな要素となり、それを専門医の医学的な見解に基づいて将来の方向を探るという診断プロセスをとることになります。

結論として言えることは、性同一性障害・性転換症は脳の神経組織の発達過程と深い関係があることです。社会的な人との交わりや心理学的・精神科的な治療だけでは、この症状は解消されないことはすでに証明されています。継続的なホルモン治療に引き続き、性自認と肉体的外観を一致させるための形成外科手術(性別適合手術)に進み、当人を社会・心理面から支える連携したサポート態勢、そして当人に適した職場や社会的な役割を用意し補佐していく態勢があれば、当事者には大きな恩恵と精神的な支えになるでしょう。それにはまず、両親をはじめとする家族の理解が不可欠です。


親の責任ではない!

性同一性障害・性転換症は、医学的な治療の必要から、また将来の保険適用の可能性を視野に入れて、便宜的に「障害」とか「症」を付けて呼ばれています。この本来病気ではない「症状」は、数千年前のギリシャ時代から存在し、日本でも平安時代の文献に記述があることから、大気汚染や公害・薬害とも関係なく、また世界中のあらゆる地域に存在していることから、人種や文化とも関係ない。また、仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンズー教など、宗教にも一切関係なく広く分布しているのは驚くばかりです。原因がはっきり究明されていない現段階では、「神様のイタズラ?」と言いたくなるのも無理ありません。どこの国でも無理解や偏見が根強くあるのは残念ですが、そのため英国では「トランスセクシュアリズム(性転換症)は精神病ではない」と、政府見解として公式に表明していることを付け加えておきます。

以上のことから、少なくとも親の責任ではないことは理解して頂けたと思います。根拠のない罪の意識から子供を遠ざけたり、親子や兄弟関係が疎外されているケースも少なくありません。社会的に少数者であるGID当事者は、親には想像もできない疎外感を味わっているはずです。親に求められているのは、ひとりの正常な精神をもった人間として理解するための、一歩の歩み寄りだと思います。そこから新しい親子関係が築けるのではないかと思います。

次回も引き続き、性同一性障害・性転換症について両親や家族の参考になると思われる情報を取り上げます。

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参考文献としてイギリスのGID研究・TS当事者支援団体「GIRES」のウェブサイトを利用させて頂きました。(http://www.gires.org.uk/)(GIRES=Gender Identity Research and Education Society)
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2007年5月16日水曜日

埼玉医大、性転換手術を中止


GID当事者やSRSに関心を持つ方々には大変驚きのニュースです。
1998年に最初の性別適合手術をして以来、現在まで約70例のFTM、約20例のMTFの手術を行ってきた埼玉医大が内部事情により性転換手術を当面中止する事態になったことが明らかになりました。

とりあえず、5月13日から14日にかけて一部の新聞やNHKテレビニュースでも報道されましたので、ここではご参考までに「アサヒ・コム」の記事をそのまま掲載させて頂きます。

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性転換手術、中核病院が中止 埼玉医大、担当医定年で
2007年05月13日

 心と体の性が一致しないことで苦しむ性同一性障害(GID)の治療の中核を担ってきた埼玉医科大学が5月から性転換手術(性別適合手術)の実施を中止したことが明らかになった。形成外科の教授の退職で手術の態勢がとれなくなったという。この手術は患者が戸籍上の性別を変える場合に必要とされる。GIDはようやく社会的に認知されてきたが、約1万人といわれる患者の治療の最終手段が断たれる懸念が出ている。

 埼玉医大は98年、国内で初めて公的に性別適合手術を実施。形成外科教授だった原科(はらしな)孝雄医師によると、現在までに延べ357人が手術を受けた。6割は乳房切除術だが、技術的に難しく、国内では前例がなかった男性器形成手術を21例実施している。

 山内俊雄学長によると、3月に定年を迎えた原科医師が4月末で退職し、執刀医らによるチーム医療態勢がとれなくなった。手術には熟練した医師が複数必要で、スタッフに経験を積ませてきたが、中心メンバーが体調を崩すなど継承できなかったという。

 形成外科は5月から10月までに手術予定だった60人弱に手紙などでキャンセルを伝えた。山内学長は「大学として性同一性障害の治療を続ける方針は変わっておらず、なるべく早く再開したい」と話す。

 GID治療は精神科、婦人科、泌尿器科など各科にまたがる。心の性と異なる性器を傷つけるなど深刻なケースもあるが、最終段階にあたる性別適合手術の受け皿は広がっていない。3年前から患者は家裁に申し立てて戸籍の性別を変更することが可能になったが、性別適合手術を受けていることなどが条件になっている。

 埼玉医大以外にも岡山大、関西医大などで実施されたが、件数は限られる。特に女性から男性にする場合には高度な技術と経験が必要で、病院挙げての態勢が必要なためだ。「形成医の間で理解が浸透しておらず、やろうという医師はまれなのが現実」と原科医師は話す。一般病院で治療を続けられないか探っているが、手術のリスク、医療保険の対象外なことなどでためらう病院が多いという。

 渡航して手術する人もいるが、安全性や手術後の継続的な治療の面で懸念がある。

 埼玉医大ですでに手術を受けた敦賀ひろきさん(39)は「あえて公に認められたプロセスで治療を進めてきた患者の立場を考えてほしい」と言う。手術後も機能的な問題が残り、再手術が必要な人も少なくないと指摘している。

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SRSを予定されていた方で今後の方針を決めかねている方には出来るだけの対応をさせて頂きますので、当サイトにご遠慮なくご連絡ください。
Email: masa.shimamura@gmail.com


2007年4月14日土曜日

同性愛と車のデザインは関係ありや?

昨日4月13日に投稿した同性愛についてのNYタイムズの記事はかなり重く、消化不良をおこしたかもしれません。12日付でまた同紙に今度は軽い記事が載っていましたので、同性愛の話題をとりあげた勢いで要点だけご紹介しておきます。

今のアメリカは比較的にゲイには寛大で(そこに至までの当事者の苦労と努力のたまものだと思いますが)、一つの文化的な流れを形成していると同時に、商品によっては無視できない大きなマーケットでもあります。

この記事で取り上げられているのは、アメリカ生活には欠かせない「くるま」のスタイルに関するものです。ちなみに、アメリカで「ゲイ」といえば、男性・女性を問わず同性愛者をさす言葉として広く使われています。

ここで使われている英語は比較的に簡単ですので、翻訳するのはやめにして解説だけにしておきます。抜粋して引用するのは以下のパラグラフ一段だけです。

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Gay by Design, or a Lifestyle Choice?
By Alex Williams, The New York Times, April 12, 2007

Subaru has been the most prominent company to embrace the gay market. As long ago as 2000, the automaker created advertising campaigns around Martina Navratilova, the gay tennis star, and also used a sales slogan that was a subtle gay-rights message: “It’s not a choice. It’s the way we’re built.” Little wonder that many lesbians refer to their Outbacks as “Lesbarus.”

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スバルのアウトバックという車種が2000年頃レズビアンの間で大人気だったそうです。プロテニス界の女王で、彼女自身がゲイであるマルティナ・ナブラティロワを起用した広告キャンペーンも評判で、その販売スローガンにさりげなくゲイの権利擁護のメッセージをこめたところが心憎いですね。「選んでこうなったのではなく、最初からこういう造りなのです」。この一行の英語が見事に効いています。

"It’s not a choice. It’s the way we’re built.”

先回紹介したニューヨークタイムズ記事の主旨と同じく、「ゲイは選んでなったわけではなく、生まれながらそう造られているのです」、というメッセージが秘められています。このスバルの広告キャンペーンにナブラティロワが起用されたということは、アメリカでは彼女がゲイであることは周知のことだったわけですね。わたしは知りませんでした。評判になったこの車にレズビアン自身が”Lesubaru”というあだ名をつけたというのもまたアメリカ的ですね。

一方、GIDはアメリカでもまだ少数派です。同性愛の地位に肩を並べるにはまだまだ時間がかかりそうです。日本でも東京世田谷区議として政治の舞台で声を上げ、現在再選を目指しているTSの上川あやさんのように、勇気ある当事者がもっと表に出られるように応援しなくてはいけないと思います。