2011年11月20日日曜日

子供を産んだ男 (その続き)


「妊娠した男」---その続き

このニュースはすでに2008年11月の時点でアメリカでは大きな話題になっていたのは知りませんでした。その後も引き続き、「男とは」、「女とは」、「家族とは」というテーマで多くのメディアで取り上げられています。

「妊娠した男」の最初の記事とビデオ映像を見て疑問に思ったこともあり、自らMTF当事者としてまた現役の医師として世界各地のGID関係者などに接して研究されている先生に以下のように質問してみました。

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<私の質問>
FTM男性が妊娠して出産したということは、女性の胸はすでに取っていたものの、
女性の生殖器官である卵巣と膣・子宮はそのまま残してあったということですよね。
ここにドナーから提供された精子を女性である奥さんの手で注入したと言っていますので。

CNNの動画ではオレゴン州に住んでいて、出生証明書や運転免許、生命保険、結婚許可書などすべての公式文書でちゃんと男性と認められているそうです。疑問になる点は、手術でクリトリスがマイクロペニスになっているとはいえ、女性の証である卵巣と子宮を残したままでも、アメリカでは男性と認められたということになります。州によって法律は違うとはいえ、これは性別の根幹に関わることなのでWPATHなどでは話題にはならなかったのでしょうか。日本では卵巣・子宮摘出が女性から男性への条件だと理解していますが?
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<先生からの返答>
ご指摘の通りだと思います。全く鋭い指摘だと思います。

個人的には「外性器が望む性に類似していること」って超馬鹿げていると思います。
また内摘だけで戸籍の性別が変えられるのも同様に超馬鹿げています。
ジェンダーに問題が有るのですから身体の変工は個人の問題です。
ペニスがあっても女性のジェンダーで生きて行けるヒト、生きて行けないヒト、いろいろあって良いんじゃないでしょうか。
寧ろ法律で規定することが変だと思います。

アメリカではgender incongruenceが確認されればGIDと診断され、GRS後にIDが変わります。
彼の場合はオッパイがなくて、ペニスがある?けど内摘はしていない状態ですよね。
外性器が希望の性のモノに近似していることの解釈は日本でも裁判所によってかなり違うようです。

彼の場合は微妙だと思いますが、恐らく社会組織化の過程、例えば事実上の奥さんが居る、男性としての職業を持っている、など総合的に判断されたのではないでしょうか。pregnant
manというのはそう言う意味で画期的だと思います。

この辺りの日本の裁判所の事情について暫く日本で調査してみようと思っています。
しかし、性別ってこんなもんなんでしょうか・・・・。

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<私からの返信>
しかし、この外見だけでパスすることはたいへん重要な要素だと思います。これで社会生活上の種々の制約から解放され、全部とは言えませんが(子なき条項など)自由度が高まります。ほとんどのGID当事者がこの第一関門を通過するために悩み苦しんでいるからです。裸になってチェック受けることはまずないからこそ、外観だけでパスできるのは”自由度”の面で重要な意味があると思っています。

先生の場合はこの関門はすでに通過されていて、日本の融通のきかない法律だけが障害になっているわけです。それにしてもこの「妊娠した男」のアメリカの例には驚きました。ハワイ州で認められた正式の異性結婚は他の州でも認められるので、今このカップルが居住するオレゴン州でも認められるというわけらしいです。二人目の子供も生まれるので、今後法律面でのトラブルがあり得ることは覚悟しなければ、と当人もインタビューで語っていました。

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<補足>
“What is a man? What is a woman? The journey of a pregnant man” というCBSテレビの特集番組(2009年10月22日)では、トーマス・ビーティーはすでに同じドナーの第3子を身ごもっていることを打ち明け、司会のバーバラ・ウォルターズも絶句していました。この時妊娠5週目だったので、2010年8月には3番目の子供が誕生しているはずです。

性の自由を標榜する6団体の当事者グループからも賛否両論の声があり、固定観念に凝り固まった個人などからも嫌がらせの電話や郵便などが届くそうです。生まれた二人の子供にはいつ打ち明けるのかという質問には、すでに絵本などを通じてわかる範囲で、生命の誕生と多様性について教えているそうです。子供たちはトーマスを”daddy”、ナンシーを “papa” と呼び分けているそうです。

勇気付けられるのは、妻ナンシーの最初の結婚で生まれ、成人した二人の娘が全面的にこのカップルの生き方を応援していることです。今後への不安はかかえながらも、あくまで前向きに明るく生きている勇気あるカップルですね。

さらに補足ですが、アメリカではこのような「妊娠した男」で子供を産んだ例は35人から40人は知っている、と実名で登場した看護助産婦がCBSテレビで話していました。ただ、トーマス・ビーティーのように、ラリー・キング、バーバラ・ウォルターズ、オプラ・ウィンフリーのような超有名トークショー番組に出演し、雑誌に記事を書き、さらに本まで出版して堂々とカムアウトした例はこれが始めてであっただろうと推測しています。

ジェンダーという人間の根源的な存在要因を、単に生殖器という物体にとじこめるのではなく、形をもたない精神の象徴として自由に開放する社会現象として捉えると、この「妊娠した男」の性の歴史に果たす役割はいつか評価される日がくるのではと思います。

最初に引用させて頂いた当事者で医師でもある先生の言葉をくりかえしますと、
“「外性器が望む性に類似していること」って超馬鹿げていると思います。また内摘だけで戸籍の性別が変えられるのも同様に超馬鹿げています。”

これは日本のことですよね?「妊娠した男」トーマス・ビーティーはとっくにこのこのレベルを超越しているという印象を強く受けました。

ジェンダーの問題はGIDの根幹である問題ですから、今後ともこのテーマはとりあげていきたいと思っています。

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2011年11月19日土曜日

子供を産んだFTM男性

妊娠した男とその妻:"Pregnant man and wife"

アメリカのCNNテレビの看板番組「ラリーキング・ライブ」が取り上げた話題のFTM男性トーマス・ビーティとその妻ナンシーのあっと驚く実話をご紹介しましょう。

女の子として生まれたものの、いつも自分は男の子だと感じていたトーマスは、FTM男性としてナンシーとハワイで夫婦として正式に結婚。現在はオレゴン州に住むふたりは女の子を出産したばかりだが今また二度目の妊娠をしている。

二人の関係とどういう経緯で子供の両親となったか、ラリー・キングの司会で二人の話を聞いてみましょう。次のサイトからCNNの放送にアクセスできますので、ビデオ画像でも確認してください。
http://edition.cnn.com/2008/US/11/18/lkl.beatie.qanda/index.html
http://edition.cnn.com/2008/US/11/18/lkl.beatie.qanda/#cnnSTCVideo

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(CNN) -- 「妊娠した男」として知られるトーマス・ビーティはCNNのラリー・キングのインタビューに妻ナンシーと7月に生まれた長女のスーザンを伴って出演した。トーマスはすでに第二子を身ごもっている。
トーマスは「愛の陣痛:ひとりの男の世にも珍しい出産の物語」を出版したばかり。(以下のインタビューは一部編集してCNNネット版に掲載されています。)

Larry King interviews the Beatie family -- Thomas, Nancy and their daughter, Susan.

Larry King: トーマスとナンシー、よく来てくれましたね。まずおめでとうございます。調子はどうですか。

Thomas Beatie: 大丈夫です。ありがとう。

King: 世間から注目をあびてびっくりしていることでしょうが、それは予期していました?

Thomas: 正直言ってほんとに驚いています。誰にも知られないままに、私が産んで済ませられるだろうと単純に考えていました。妊娠がわかった後、大勢の医師に相談したのですが通常の妊娠ではないため、医学的な差別も受けましたし、出生証明書の問題や結婚が成立するかまで追及されそうでした。そこで”Advocate”というレズビアン誌に記事を書いたのがきっかけで、大騒ぎになったというわけです。

King: ちょっと話を整理するために初めから聞きましょうか。あなたは女性だったですよね。今は自分を男性と呼んでいますが、女性として生まれたのは間違いないですね。

Thomas:  はい、間違いないです。.

King: お二人はどういう経緯で会われたのですか。

Thomas: かれこれ18年前になりますが、ハワイのジムで知り合いました。

King: 一緒に生活するようになって何年ですか。 

Nancy: 11年ですが、もうすぐ12年になります。 

Thomas: そうです、11年です。結婚してからはもうすぐ6年になります。

King: 見た目も明らかに男性ですよね。あなたは男性ですね。そのための手術は受けましたか。

Thomas: (男性としての)胸の再建手術を受けました。それとホルモン治療です。

King: それで自分自身にとっても男性なのですね。

Thomas: そうです。 

King: 彼か彼女のどちらかが妊娠した方がよいというアイデアはどこからきました?

Nancy: 私たちはまず家族を持ちたかったのです。女である私は子宮摘出手術を受けていましたので、養子縁組やその他のいろんなオプションを考えたのですが、二人の間で子供を産むには彼より適任者はいないことに気づいたのです。

King: それで、どういう方法をとったのですか。

Nancy: ええ、そこでまずドナーを探しました。それから自宅で行いました。私が自分でやりました。

King: あなたが自分で?ドナーというのは精子提供者という意味ですね?

Nancy: そうです。精子を注文し、それは自宅に届けられました。それを針のない注射器に移しました。

King: そしてそれを注入したわけですね?

Nancy: そうです。 

King:  ということは、トーマス、その部分を変更するための下半身の手術は何もしていなかったということですか。

Thomas: 男性ホルモンのテストステロンが自然に行う作用だけです。

King: 常識では考えられない方法で妊娠に成功したわけですね。

Nancy: まあ、そういうことですね。

King: 彼は今また妊娠しているのですね。そのやり方はどうやって学んだのですか。

Thomas: ネットで調べる方法しか考えられませんでした。助けになる医者を探すのは骨が折れました。やっと精子銀行に出す書類に署名してくれる医師が見つかったことで、自宅で自分たちだけで行うことができるようになったのです。でも、その方法などは全部やはりネットで調べました。

King: どうして養子縁組をしなかったのですか。

Thomas: それも可能な方法なので実際に考えましたが、自分の遺伝子を残す必要を切実に感じていたので、まず試しにやってみて、結果がだめだったら代理出産を考えようというつもりでした。しかし、代理出産は自分が受精能力がある身体であることを証明してくれる内分泌科医師の介入が必要になるなど、多くの問題があるのが予想できたのであきらめました。

Nancy: 私たちの産んだ子供が欲しかったのです。

King: 出産するというのはどんなものでした、トーマス?

Thomas: イヤー、なんとも言葉では表せないような経験ですね。実際に出産を体験したことのない人には何と表現したらいいか・・・・。まちがいなく、人生の見方が変わる体験であるとは言えます。

King:今はオレゴン州に住んでいるわけですが、 法律面での問題にはぶつからなかったですか。

Thomas: 自分の出生証明書も男性に、健康保険、運転免許証、生命保険などすべて男性として記載されています。実際にこの子の出生証明書ももっています。

King: それにはどう書いてあります?

Thomas: それには私を父親、ナンシーを母親と記入して提出しましたが、役所は最終段階になって彼女を父親、私を母親と変更してしまいました。それがまた変更になり、結局われわれ二人が両親として登録されました。それはそれで一向にかまわないですが、わたしたちは同性婚ではないので同棲パートナーシップは認められません。わたしたちはあくまで法的に認められた夫と妻の関係なのです。

King:  その違いは大きいですよね。

Thomas: そのとおりです。ところが、政府の一部ではわたしを男性と認定しているので、生まれた子供の出生証明書をどう説明するのか、見解の相違がでてきています。それがわたしたち家族の将来の妨げになるのではないかと本当に心配しています。

King: こんなことを言っては失礼ですが、もしあなたが死亡した場合にはどういうことになりますか。誰かが名乗り出て子供の親権を争うことになるとか?

Thomas: そういうことはじゅうぶん起こり得ます。わたしが一番恐れていることです。それで助けが必要なのです。法的な課題をちゃんと整理するために弁護士の助力が必要なのです。

King: お二人が出会ったときはどんなカップルだったのですか。

Thomas: 普通のカップルです。

King: 聞きたかったのは、おふたりはゲイ(同性愛)だと思っていましたか。

Thomas: いいえ。その時点ではわたしは女としての生活をしていました。わたしは法的には女でしたが、心の内部では依然として男でした。ほかの人たちがわたしたちを見れば、レズビアンのカップルだと思ったことでしょう。

King: 自分がゲイ(同性愛)だと感じることはありますか。

Nancy: ゲイの感じはありません。

King: ナンシー、自分は男性と結婚しているという感じはありますか。

Nancy: あります。

King: あらゆる面で、完全に?

Nancy: はい。彼が妊娠しているときでも、彼はわたしにとっては男でした。

King: どんな出産でしたか。

Thomas: 自然分娩でした。

King: 帝王切開ではなくて?

Thomas: いいえ、そんなうわさがあったようですが、違います。

King: 次の子供の誕生を心待ちにしていますか?今何ヶ月ですか。

Thomas: 10週間です。

King: 同じドナーですか。

Thomas: 同じドナーです。

King: どこでこのようなやり方を学んだのですか。インターネットと言っていましたね。しかし普通の性行為はできないと思いますが、どうですか?

Thomas: できます。

King: あれ、そうですか?

Nancy: 赤ん坊を産むための方法ではないですが。.

Thomas: ホルモン治療のせいで、わたしのクリトリスは肥大していてペニスのように見えます。妻と性行為はできるのです。

King: それは驚きですね。知りませんでした。つまり、あなたにはペニスのように見えるクリトリスがあり、それで愛を交歓する行為を営むことができるというわけですね。

Thomas: まあ、そういうことですね。.

Nancy: わたしが母親です。

Thomas: わたしが父親です。

King: 出産のサイクルはこれで終わりですか。この赤ちゃんが最後の子供になりますか。

Nancy: まだわかりません。決めてないものですから。

King: あなたたち、本当に素晴しいカップルですね。お二人がやったことはとてもとても簡単にできることではありません。しかも、それを世間に公表することはたいへんなことです。美しいかわいいお嬢さんですね。今後とも将来の幸せを祈っております。

今日はトーマス・ビーティと奥様をお招きしました。出版された本の題名は“Labor of Love, the Story of One Man's Extraordinary Pregnancy." 「愛の陣痛:ある男の世にも珍しい出産の物語」 その題名どおり、アメージングな物語です。

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<補足解説>
常識にとらわれず思いついたことをまず実行に移すという、アメリカ人の性格が如実に現れているお話です。

FTMでありながら子宮・卵巣は摘出しないまま、ホルモン治療と乳房切除、それに肥大したクリトリスを転換したミニペニスだけで、男性と認定されるのもアメリカならの大らかさでしょうか。

日本の現行の法律では正規の夫婦、親子関係は認められないと思います。

ビデオでは大きなお腹をかかえた彼の姿が見られます。しかも出産は帝王切開ではなく、自然分娩だったのも驚きです。

ミニペニスでの挿入性行為はむずかしいと言われていますが、愛し合うカップルの間なら愛の交歓方法はあるはずです。

しかし、やはり印象に残るのは二人の自信あふれるこの言葉です。
ナンシー: I am the mother.
トーマス: I am the father.

肉体の器官・外観はともかくとして、やはり当事者自身のジェンダー意識がどこまではっきりしているかが決め手になるのでは、というのが強く印象に残ります。

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