2011年7月31日日曜日

トランスセクシュアルの悩み


トランスセクシュアルの性別変更(マレーシア


マレーシアの日刊英字新聞STARに最近3回続けさまにTJ・TSについての記事が載ったので、ご紹介します。

最初の記事は東海岸トレンガヌ州での性別変更に関する裁判での判決です。この州はイスラム教国マレーシアでも保守的なイスラム教徒の多い地域なので、判決が「ノー」だったのはべつに驚くことはないですが、裁判に訴えても性別変更を勝ち取ろうとした勇気あるTS当事者がいたことに正直おどろきました。

”Mykad”(マイカード)と呼ばれるIDカードが日常生活や職業の選択に直ちに障害になるだけに、SRSを済ませても性別変更ができないのは当事者にとっては深刻な問題です。日本でもそうだったように、法律の壁をやぶるのは並大抵なことではないので、同情は禁じえませんが、、、。


”性転換しても性別変更は認めない”
トランスセクシュアルに法廷は”ノー”
 (7月19日発行STAR紙)

26歳でメディカル・アシスタントとして働いているアシュラフ・ハフィズ(仮名)さんは、女性への性別変更を求めて高等裁判所に訴えていたものの、その願いは却下された。本人は出廷していなかったが、出生証明書と身分証明書の性別を女性名のアリーシャ・ファルナに変更を求めていた。

その女性名を運転免許証と2口の銀行口座、さらに医科大学のメディカル・アシスタント修業証明書に転記して欲しいというのが要求だった。

アシュラフ・ハフィズさんは首都クアラルンプールの有名病院パンタイ・メディカル・センターで精神科医のカウンセリングとホルモン治療を経たのち、2009年5月にタイで性転換手術を受けていた。

彼の裁判所への申請書では、小学校に入った頃から女性的なしぐさや行動を好むことが顕著にあらわれ、好んで女生徒たちと遊ぶ傾向があったことが記されている。

彼の母親の提出した委任状にも、彼の性器は小さすぎて正常な機能を果たしていなかったと書かれている。

ヤジッド・ムスタファ判事はアシュラフ・ハフィズの申請を却下するにあたり、性転換手術だけを根拠に性別変更の申請を認める法的な根拠がないことを挙げている。

その他にも、性染色体の数、外性器および内性器とも女性と認定する要素を満たしているとは認められないこと。また、医師の診断書も不完全で断定的でないことに加え、法廷での審理期間中に生物学的見解を述べるための医師の証人出廷申請もなかったことを指摘している。

さらに、人間の性別は妊娠中に決定されるもので、手術によって変えられるものではないと延べ、
当法廷での判断を下すにあたり、法律解釈に与えるインパクトとその判定が社会一般を混乱させる恐れがないかどうかも判断基準として考慮せざるをえなかった。

また、手術はあくまで当人の精神が安らげる体に適応させるために行われたことを考慮すれば、手術の事実だけをもって法的判断を求めるのは不十分であると認定せざるを得ない、との判決理由を述べた。

この性別変更申請の弁護士をつとめたホーリー・アイザークス弁護士は、当原告は地元の大学でさらに学びたい意欲があるにもかかわらず、普通の生活をするのも困難な状況におかれていることを当初から指摘してきた。

アシュラフ・ハフィズさんは5月25日の法廷出頭の際には、赤と白のクバヤ(伝統衣装)にピンクのヘッドスカーフという人目を引く服装で現れ、この保守的な地の人々の間でどよめきが起こった。その折には、詰め寄るレポーター達には目もくれず、顔をかくしてメディアから駆け去っていった、という経緯もあった。

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《私的コメント》
マレーシアでは宗教の自由は認められていて、アラブ諸国のようにガチガチではなく、キリスト教会、仏教寺院、ヒンズー教寺院などもあちこちで見かけます。

しかし、国教であるイスラム教の戒律はそれなりにきびしく、シャリアというイスラム法典が法律の基本になっているので、性別変更という人間の誕生にかかわる問題への兆戦と法的訴えが将来的にも認められる可能性は、残念ながら低いと思わざるを得ません。

また医師などの有利な証言につながる専門家の証人を呼ばなかったというのは、弁護側の大きな手落ちだったと思います。SRSの将来を左右する絶好の機会に十分なインパクトを与えないまま、逃してしまう結果になったのはなんとも残念なことです。

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《続報・悲報》
ここまで書いて投稿しようとした矢先の今朝(7月31日)のこと、日刊スター紙を見て仰天しました。当のアシュラフさんが心臓病のため急死したというニュースです。以下は記事の要約です。

<州都:クアラトレンガヌより>
アシュラフ・ハフィズさん(26歳)が死亡した、彼が裁判所に訴えても欲しかった女性名アリーシャ・ファルハナとともに。

当地の病院の医師たちによると、彼は金曜日に心臓発作と低血圧症のため入院したが、昨日土曜日午前4時55分に狭心症と心発性ショックが原因で死去した。

2年前にバンコクで性転換手術を済ませ、身分証明書の性別を男性から女性に変更するための裁判で敗訴したばかりだった。彼の遺族は高等裁判所の判決にしたがい、同日午後4時30分に当地のムスリム墓地に男性として埋葬をすませた。

アシュラフさんの父親(60歳)は、”近親者がみんな集まり最期の時を迎えるまで見守っていたので、心にぽっかり穴があいたような気持ちだ”。また母親(51歳)は、”まもなく来るイスラムの祭典ハリラヤに備えて気に入った衣装を注文したばかりだったのに・・・・”と悲嘆にくれていた。


一方、首都クアラルンプールでは、女性・家族・地域開発担当大臣(女性)は、”アシュラフさんの件は気にかかってはいたのに、相談相手になる機会がなかったのは残念です。門戸はいつも開いているのですが、呼びつけるわけにもいかなかった。”
また昨夜、50人ほどの人々がひマレーシア司法会館前に集まり、キャンドルライトのもとアシュラフさんの追悼集会が開かれた。社会活動家でセクシュアリティ協会の設立者のひとりであるパン・キー・テイクさんは、”女性名「アリーシャ」さんの公正な判断を求める権利が否定されたことに抗議する意思を訴えたかったのです。”
            (5月の出廷時のアリーシャさん)

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2011年7月28日木曜日

SRS目前の迷い

SRSを目前にして迷う

まだ20台前半のMTF当事者の方とメールでのやりとりが数回続いたあと、具体的な手術日程を検討する段階にきて急に連絡が途絶えました。まだ若い方なのでいろいろ事情もあるだろうと思い、念のためもう一度連絡したところ、いろいろ迷うことがありもう少し考えた上で決断したいので・・・・という丁重なお返事がありました。

以下はそれに対する私の返答です。ご参考までに私の返答をそのまま投稿させて頂きます。

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00さん、お便り頂きありがとうございます。たいへん気持ちが楽になりました。

実際のところ、00さんのように若い人は始めてだったので、面談もなしに本当に話を進めて大丈夫かなという一抹の不安は感じていました。その意味で私自身の反省もふくめていい教訓の機会になりました。

迷いの理由はわかりませんが、SRSを決断するに当たって自分のジェンダーに確信がもてなくなった(本当に女性になるのが本望なのか?)、それとも一時の迷いなのか(そう主張する精神科医もいます)?

自分のジェンダーに自信がもてない場合は、体の性を変更するSRSにはぜったい進むべきではないと思っています。いずれにしろ、迷いが解決するまではSRSは避けるべきです。後戻りのできない手術になりますから。

先日バンコクに行ったとき、FTM(女性から男性)の人たちと会食の機会があり貴重な経験談を聞きました。その人(30台前半)はまだ乳房を除去しただけの段階ですが、ホルモン治療のせいであごひげ、口ひげを生やし、外見、話しぶりなども精悍な男性そのものです。

彼の話では、ポルノビデオを見るきは、自分が上になってセックスしている男の気持ちになって観ている、というのです。これは明確に「彼」が体はまだ女性でありながら、ジェンダー(性意識)は完全に男性のものであるという証拠だと思いました。ジェンダー意識とはこんなものだという一例に過ぎないかもしれませんが、面と向かって聞いた生々しい個人体験談ですから参考にはなるでしょう。

ホルモン治療も1年も続けていると後戻りできないと理解していますので、この点も医師に相談したうえで、慎重に行動してください。まだお若いですから、あわてることはありません。いつでもご相談に応じますのでご連絡ください。

くれぐれもお大事に。

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《さらに思う》最近はGID・SRSに関する情報も多くなっただけに、若い当事者にとっては自分はどうすればいいのか迷うひとが増えてもおかしくありません。逆に30台や40台の当事者は、自分たちが一番悩んで苦しんだ時期には何の情報もなかったという、語りつくせない痛切な思いがあると考えると、私自身も複雑な思いです。しかし、物事は深刻に考えても解決しないことは学びましたので・・・・。
(クアラルンプールにて)