昨日4月13日に投稿した同性愛についてのNYタイムズの記事はかなり重く、消化不良をおこしたかもしれません。12日付でまた同紙に今度は軽い記事が載っていましたので、同性愛の話題をとりあげた勢いで要点だけご紹介しておきます。
今のアメリカは比較的にゲイには寛大で(そこに至までの当事者の苦労と努力のたまものだと思いますが)、一つの文化的な流れを形成していると同時に、商品によっては無視できない大きなマーケットでもあります。
この記事で取り上げられているのは、アメリカ生活には欠かせない「くるま」のスタイルに関するものです。ちなみに、アメリカで「ゲイ」といえば、男性・女性を問わず同性愛者をさす言葉として広く使われています。
ここで使われている英語は比較的に簡単ですので、翻訳するのはやめにして解説だけにしておきます。抜粋して引用するのは以下のパラグラフ一段だけです。
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Gay by Design, or a Lifestyle Choice?
By Alex Williams, The New York Times, April 12, 2007
Subaru has been the most prominent company to embrace the gay market. As long ago as 2000, the automaker created advertising campaigns around Martina Navratilova, the gay tennis star, and also used a sales slogan that was a subtle gay-rights message: “It’s not a choice. It’s the way we’re built.” Little wonder that many lesbians refer to their Outbacks as “Lesbarus.”
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スバルのアウトバックという車種が2000年頃レズビアンの間で大人気だったそうです。プロテニス界の女王で、彼女自身がゲイであるマルティナ・ナブラティロワを起用した広告キャンペーンも評判で、その販売スローガンにさりげなくゲイの権利擁護のメッセージをこめたところが心憎いですね。「選んでこうなったのではなく、最初からこういう造りなのです」。この一行の英語が見事に効いています。
"It’s not a choice. It’s the way we’re built.”
先回紹介したニューヨークタイムズ記事の主旨と同じく、「ゲイは選んでなったわけではなく、生まれながらそう造られているのです」、というメッセージが秘められています。このスバルの広告キャンペーンにナブラティロワが起用されたということは、アメリカでは彼女がゲイであることは周知のことだったわけですね。わたしは知りませんでした。評判になったこの車にレズビアン自身が”Lesubaru”というあだ名をつけたというのもまたアメリカ的ですね。
一方、GIDはアメリカでもまだ少数派です。同性愛の地位に肩を並べるにはまだまだ時間がかかりそうです。日本でも東京世田谷区議として政治の舞台で声を上げ、現在再選を目指しているTSの上川あやさんのように、勇気ある当事者がもっと表に出られるように応援しなくてはいけないと思います。
2007年4月14日土曜日
2007年4月13日金曜日
性指向のパートナーは遺伝子が決める
4月10日に「タイのゲイ文化」について投稿しましたが、その直後に同性愛に関するニューヨークタイムズ紙の記事を見つけました。私には大いに参考になりましたので、かなりの長文ですが以下にその記事を少し要約して投稿させて頂きます。
同性愛とGIDとは別物であるとはいえ、GIDにも異性愛者も同性愛者もいます。この記事にもあるように、誕生前の遺伝子の作用がその後の性指向や性衝動を決定づけている可能性は大いにあり、まだ定説でないとはいえ、この分野のアメリカの専門家の見解として参考にして頂ければと思います。
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Pas de Deux of Sexuality Is Written in the Genes
By Nicholas Wade, The New York Times
April 10, 2007
性的な欲求ということになると、進化の法則は偶然にまかされることはまずない。人間の性行動は自由気ままに選べるものではなく、あらゆる過程で遺伝子プログラムが誘導していると、生物学者たちは気づき始めている。
異性間の性衝動は選択によって選ぶものではない。ストレートな男は女を相手として選ぶように仕向ける神経回路があり、ゲイの男にはほかの男性を求める神経回路がある。女性の脳には、自分と子供のために最善の保護を与えてくれるような男性を選ぶために、神経回路を整備する能力さえあると思われる。
その他の神経回路の働きも手伝って、ロマンチックな恋愛や長期の同居生活などを可能にするように、性行動に関する取り決めはすでに遺伝子により決定済みである。欲望が人間の性行動の根源だと思われがちであるが、それは長いドラマの中段の一幕にすぎず、台本のほぼ全体が遺伝子に書かれている。
母親の胎内では、胎児の身体はすべて女性とデフォルト設定されていて、男の性を決定づけるSRYとして知られる遺伝子が存在する場合だけ男性になる。この優性遺伝子はY染色体の誇るべき、また唯一とも言える属性で、これが卵巣になる運命の生殖組織を脇道にどかせて精巣(睾丸)になるようにポイントを切り替える。精巣から出るホルモンは主にテストステロンで、これが男性の身体を形成していくことになる。
過去10年間にわたる研究の成果として、脳はれっきとした性器官であり、男と女はそれぞれ根本的に異なるバージョンの機能をもっている、という思いも寄らぬ事実が明らかにされてきた。これは身体全体だけでなく、脳をも完全に男性化するというテストステロンの芸術的な仕事に他ならない。
男性と女性の脳の違いはあったとしても、それは小さな違いか何かの偶然の結果によるエラーで、ごくまれな少数のケースにしか見られない、という従来からの説は間違いである、とカリフォルニア大学アーヴァイン校のラリー・ケーヒル博士は述べている(Nature Reviews Neuroscience)。脳内で高度な情報処理の大部分を行う、広い面積を占める脳の外側の層である大脳皮質は、女性の方が層が厚い。最初の記憶装置として作用する脳海馬は、女性の脳の半分以上を占めている。
脳の働きをイメージ化する技術の進歩により、同じことをするにも男と女は脳の使い方が違うということがわかってきた。大脳側頭葉の核である扁桃体は、感情の強弱により記憶に優先順位をつける作業をうけもつ左右に一対ある器官であるが、女性は左の扁桃体を、男性は右側を使う傾向がある。
人間は文化の影響を強く受けるとはいえ、人間の脳は男と女の間の機能には明確なパターンの違いがあるのにはもはや驚くにはあたらない。男の脳はその性的欲望の対象は女性に向けられるように設定されている。その最も顕著な例は、包茎の手術ミスでペニスを失ってしまい、女の子として育てられた男の子のケースである。女の子として育つようあらゆる社会的な配慮がなされたものの、成熟するに従ってパートナーとしては男でなく女性を選ぶようになっていった。
脳の男性化が始まると、女性を好ましい思わせる何らかの神経回路が形成されていくものと思われる。そうだとすると、ゲイの男性においてはこの回路の配線は違っているはずである。欲望を感じる対象の男と女の写真を見せる実験では、ストレートの男性は女性を、ゲイの男性は男の写真を選んだ。
このような実験を女性に行っても同じような明確な結果は得られない。女性がストレートかレズビアンか自己申告しても、「女性の性的興奮の相手は無差別と言ってもいいぐらいで、男でも女の写真でも興奮を感じるようだ」、とノースウェスターン大学の性指向の専門家マイケル・ベイリー博士は言っている。「女性が性指向をもっているかどうかさえ、はっきりしない。ただ、女性は性的に好む相手はちゃんとわかっていて、非常に選り好み傾向が強く、ほとんどの女性は男とのセックスを選ぶ。」
ベイリー博士によると、性指向と性的興奮を司る神経回路のせいか、男は外に出てセックスの相手を探すのに対し、女性はセックスを求めてやってくる相手を受け入れるか拒むかに神経を使っているように考えられるそうである。
ミシガン大学の神経科学者マーク・ブリードラブ博士も、男女間の性指向の違いについては同じような考えを持っている。「たいていの男性はどっちのセックスを追求したいか、頑固なまでにはっきりした考えを持っているのに反して、女性の方はもっと柔軟性がある。」
男性の性指向については、誕生前にもう決まっているようだ。「この問題を研究している学者のほとんどは、男性の性指向を決定づける先行条件は人生の早い時期、おそらく誕生前に、作られていると確信している。女性の方はと言えば、同性愛者として生まれてくる人もいるであろうが、人生かなり年数がたってからそこに到達する人がいるのも確かである。
性行動というのは単にセックスのことだけではない。ラトガーズ大学の人類学者ヘレン・フィッシャー博士は言う。「三つの主要な脳神経システムが進化して、人間の再生行動に方向付けを与えるようになった。一つは、パートナーを探すように仕向ける性衝動である。二つ目は、特定のパートナーに結びつけようとするロマンチックな求愛プログラムである。三つ目は、親としての役割を果たすため長期にわたり生活を共にしたいという、長期的な結合を求めるメカニズムである。
「ロマンチックな恋愛は、初期の熱烈な段階では12ヶ月から18ヶ月続く、というのが人種・文化を問わず共通に見られる現象であり、脳にそのような回路が備わっていると思われる。」、という見解をフィッシャー博士は昨年発表している。脳をイメージ化した研究では、被験者が恋人の写真を見せられると、脳内のごほうびと認識する特定の部分が活発な反応を示すことが検証されている。
男性と女性における同性愛を理解するため、研究者たちは多大な努力を傾注していろいろな可能性を探ってきた。例えば、男性のゲイは遺伝子との関連からみて遺伝的なものではないかという見解であるが、ゲイの男性で子孫を残す割合はストレートな男性の約5分の一しかないことを考えると、同性愛と相性の良い遺伝子は急速に世界の人口から消えてしまう運命にあることになり、現状にそぐわない。
しかし、まだ可能性として残る説がある。それは、他の家族に子孫が多く生まれるチャンスを増やすために執拗に生き残る遺伝子があり、同性愛はその遺伝子の副産物として生まれるのではないか、というものである。ある調査によると、ストレートの男性にくらべるとゲイの男性には親族が多い、とくに母方に多い傾向があるそうである。
ベイリー博士は、同性愛の影響はもっとはっきりした形で現れるはずだと考えている。つまり、同性愛と相性の良い遺伝子が次の世代にわずかしか引き継がれないなら進化の法則で選ばれるはずはない。その意味では、男性の同性愛は進化論的には不適合であるとしか言いようがない。
同性愛の起源についてはもっと単刀直入な手がかりが指摘されていて、それは男兄弟の誕生順というものである。二人のカナダ人学者、レイ・ブランチャードとアンソニー・F・ボガートによると、複数の年上の男兄弟をもつ男性が同性愛になる可能性は目立って高くなるという。姉の数は問題にならず、また兄たちが同じ家に同居して生活を共にしているかどうかも関係ない。
この見解の意味するところは、男性同性愛は母親の子宮内部でのある出来事により引き起こされるもので、例えば、引き続き何回か男の子を妊娠したことへの母親の免疫反応ではないか、と昨年の学会誌に発表している。反男性の抗体が組成され、それが普通なら誕生前に男性化する脳をその過程で妨害するからではないか。ただ、そのような抗体は実際にはまだ検出されてはいない。
男兄弟の誕生順という説は実際には大きな影響をもっている。1パーセントから4パーセントの男性がゲイであると推定すると、約15パーセントのゲイ男性はその同性愛の原因が兄弟の誕生順に起因するといえる。また、兄の数が一人増えるにつれて同性に魅力を感じる可能性は33パーセントも増えるのである。
性指向を決定づけるのに決定的な役割を果たすのは、誕生前に循環しているテストステロンの量であるという考えは前述の説からも支持されている。しかしながら、胎児のテストステロンの量は計ることができず、成人したゲイやストレート男性はそのホルモン量は同じで、誕生前のホルモン量に関しては追跡のしようがない。というわけで、信憑性は高いものの、あくまで仮説であって証明されたわけではない。
性行動と欲望の基本を理解しようとする最近の研究の成果は、遺伝子が脳の性区別に直接的な影響を与えている可能性があるという発見である。テストステロンやエストロゲンのようなステロイド・ホルモンが、男性と女性の脳を形作るのに主要な役割をまかされている、と専門家も長年信じてきた。しかし、UCLAのアーサー・アーノルド博士の発見によると、試験管の中では男性と女性の神経細胞はすこし違った行動をとるのが見て取れる。同じくUCLAのエリック・ヴィラン博士の昨年の発見では、少なくともネズミを使った実験では、脳のある細胞においてはSRY遺伝子が活動していることがわかった。SRY遺伝子の脳での役割は、テストステロン関連の活動とは全く違っており、女性の神経細胞はその同じ役割を別の方法で行っていると推測される。
脳に関連する遺伝子が異常なほど多く「X」染色体上に存在しているのは偶然の仕業だろうか。脳の機能に関連して「X」、「Y」染色体が急に脚光をあびるようになり、進化生物学者たちも注目している。男性はただ一個の「X」染色体しか持たないため、「X」の遺伝子の一個になにか有利な変異が起これば自然淘汰の原理が素早くそれに乗っかり推進してしまう。そこで、もし選り好みのきびしい女性が理想の男性パートナーに頭の良さを求めるとするなら、なぜ脳に関連する遺伝子が「X」に数多く集中して存在するのか説明がつくのではないだろうか。
この世界を回転させている原動力は欲望であることを、それでも疑いますか?
(訳責:島村政二郎)
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同性愛とGIDとは別物であるとはいえ、GIDにも異性愛者も同性愛者もいます。この記事にもあるように、誕生前の遺伝子の作用がその後の性指向や性衝動を決定づけている可能性は大いにあり、まだ定説でないとはいえ、この分野のアメリカの専門家の見解として参考にして頂ければと思います。
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Pas de Deux of Sexuality Is Written in the Genes
By Nicholas Wade, The New York Times
April 10, 2007
性的な欲求ということになると、進化の法則は偶然にまかされることはまずない。人間の性行動は自由気ままに選べるものではなく、あらゆる過程で遺伝子プログラムが誘導していると、生物学者たちは気づき始めている。
異性間の性衝動は選択によって選ぶものではない。ストレートな男は女を相手として選ぶように仕向ける神経回路があり、ゲイの男にはほかの男性を求める神経回路がある。女性の脳には、自分と子供のために最善の保護を与えてくれるような男性を選ぶために、神経回路を整備する能力さえあると思われる。
その他の神経回路の働きも手伝って、ロマンチックな恋愛や長期の同居生活などを可能にするように、性行動に関する取り決めはすでに遺伝子により決定済みである。欲望が人間の性行動の根源だと思われがちであるが、それは長いドラマの中段の一幕にすぎず、台本のほぼ全体が遺伝子に書かれている。
母親の胎内では、胎児の身体はすべて女性とデフォルト設定されていて、男の性を決定づけるSRYとして知られる遺伝子が存在する場合だけ男性になる。この優性遺伝子はY染色体の誇るべき、また唯一とも言える属性で、これが卵巣になる運命の生殖組織を脇道にどかせて精巣(睾丸)になるようにポイントを切り替える。精巣から出るホルモンは主にテストステロンで、これが男性の身体を形成していくことになる。
過去10年間にわたる研究の成果として、脳はれっきとした性器官であり、男と女はそれぞれ根本的に異なるバージョンの機能をもっている、という思いも寄らぬ事実が明らかにされてきた。これは身体全体だけでなく、脳をも完全に男性化するというテストステロンの芸術的な仕事に他ならない。
男性と女性の脳の違いはあったとしても、それは小さな違いか何かの偶然の結果によるエラーで、ごくまれな少数のケースにしか見られない、という従来からの説は間違いである、とカリフォルニア大学アーヴァイン校のラリー・ケーヒル博士は述べている(Nature Reviews Neuroscience)。脳内で高度な情報処理の大部分を行う、広い面積を占める脳の外側の層である大脳皮質は、女性の方が層が厚い。最初の記憶装置として作用する脳海馬は、女性の脳の半分以上を占めている。
脳の働きをイメージ化する技術の進歩により、同じことをするにも男と女は脳の使い方が違うということがわかってきた。大脳側頭葉の核である扁桃体は、感情の強弱により記憶に優先順位をつける作業をうけもつ左右に一対ある器官であるが、女性は左の扁桃体を、男性は右側を使う傾向がある。
人間は文化の影響を強く受けるとはいえ、人間の脳は男と女の間の機能には明確なパターンの違いがあるのにはもはや驚くにはあたらない。男の脳はその性的欲望の対象は女性に向けられるように設定されている。その最も顕著な例は、包茎の手術ミスでペニスを失ってしまい、女の子として育てられた男の子のケースである。女の子として育つようあらゆる社会的な配慮がなされたものの、成熟するに従ってパートナーとしては男でなく女性を選ぶようになっていった。
脳の男性化が始まると、女性を好ましい思わせる何らかの神経回路が形成されていくものと思われる。そうだとすると、ゲイの男性においてはこの回路の配線は違っているはずである。欲望を感じる対象の男と女の写真を見せる実験では、ストレートの男性は女性を、ゲイの男性は男の写真を選んだ。
このような実験を女性に行っても同じような明確な結果は得られない。女性がストレートかレズビアンか自己申告しても、「女性の性的興奮の相手は無差別と言ってもいいぐらいで、男でも女の写真でも興奮を感じるようだ」、とノースウェスターン大学の性指向の専門家マイケル・ベイリー博士は言っている。「女性が性指向をもっているかどうかさえ、はっきりしない。ただ、女性は性的に好む相手はちゃんとわかっていて、非常に選り好み傾向が強く、ほとんどの女性は男とのセックスを選ぶ。」
ベイリー博士によると、性指向と性的興奮を司る神経回路のせいか、男は外に出てセックスの相手を探すのに対し、女性はセックスを求めてやってくる相手を受け入れるか拒むかに神経を使っているように考えられるそうである。
ミシガン大学の神経科学者マーク・ブリードラブ博士も、男女間の性指向の違いについては同じような考えを持っている。「たいていの男性はどっちのセックスを追求したいか、頑固なまでにはっきりした考えを持っているのに反して、女性の方はもっと柔軟性がある。」
男性の性指向については、誕生前にもう決まっているようだ。「この問題を研究している学者のほとんどは、男性の性指向を決定づける先行条件は人生の早い時期、おそらく誕生前に、作られていると確信している。女性の方はと言えば、同性愛者として生まれてくる人もいるであろうが、人生かなり年数がたってからそこに到達する人がいるのも確かである。
性行動というのは単にセックスのことだけではない。ラトガーズ大学の人類学者ヘレン・フィッシャー博士は言う。「三つの主要な脳神経システムが進化して、人間の再生行動に方向付けを与えるようになった。一つは、パートナーを探すように仕向ける性衝動である。二つ目は、特定のパートナーに結びつけようとするロマンチックな求愛プログラムである。三つ目は、親としての役割を果たすため長期にわたり生活を共にしたいという、長期的な結合を求めるメカニズムである。
「ロマンチックな恋愛は、初期の熱烈な段階では12ヶ月から18ヶ月続く、というのが人種・文化を問わず共通に見られる現象であり、脳にそのような回路が備わっていると思われる。」、という見解をフィッシャー博士は昨年発表している。脳をイメージ化した研究では、被験者が恋人の写真を見せられると、脳内のごほうびと認識する特定の部分が活発な反応を示すことが検証されている。
男性と女性における同性愛を理解するため、研究者たちは多大な努力を傾注していろいろな可能性を探ってきた。例えば、男性のゲイは遺伝子との関連からみて遺伝的なものではないかという見解であるが、ゲイの男性で子孫を残す割合はストレートな男性の約5分の一しかないことを考えると、同性愛と相性の良い遺伝子は急速に世界の人口から消えてしまう運命にあることになり、現状にそぐわない。
しかし、まだ可能性として残る説がある。それは、他の家族に子孫が多く生まれるチャンスを増やすために執拗に生き残る遺伝子があり、同性愛はその遺伝子の副産物として生まれるのではないか、というものである。ある調査によると、ストレートの男性にくらべるとゲイの男性には親族が多い、とくに母方に多い傾向があるそうである。
ベイリー博士は、同性愛の影響はもっとはっきりした形で現れるはずだと考えている。つまり、同性愛と相性の良い遺伝子が次の世代にわずかしか引き継がれないなら進化の法則で選ばれるはずはない。その意味では、男性の同性愛は進化論的には不適合であるとしか言いようがない。
同性愛の起源についてはもっと単刀直入な手がかりが指摘されていて、それは男兄弟の誕生順というものである。二人のカナダ人学者、レイ・ブランチャードとアンソニー・F・ボガートによると、複数の年上の男兄弟をもつ男性が同性愛になる可能性は目立って高くなるという。姉の数は問題にならず、また兄たちが同じ家に同居して生活を共にしているかどうかも関係ない。
この見解の意味するところは、男性同性愛は母親の子宮内部でのある出来事により引き起こされるもので、例えば、引き続き何回か男の子を妊娠したことへの母親の免疫反応ではないか、と昨年の学会誌に発表している。反男性の抗体が組成され、それが普通なら誕生前に男性化する脳をその過程で妨害するからではないか。ただ、そのような抗体は実際にはまだ検出されてはいない。
男兄弟の誕生順という説は実際には大きな影響をもっている。1パーセントから4パーセントの男性がゲイであると推定すると、約15パーセントのゲイ男性はその同性愛の原因が兄弟の誕生順に起因するといえる。また、兄の数が一人増えるにつれて同性に魅力を感じる可能性は33パーセントも増えるのである。
性指向を決定づけるのに決定的な役割を果たすのは、誕生前に循環しているテストステロンの量であるという考えは前述の説からも支持されている。しかしながら、胎児のテストステロンの量は計ることができず、成人したゲイやストレート男性はそのホルモン量は同じで、誕生前のホルモン量に関しては追跡のしようがない。というわけで、信憑性は高いものの、あくまで仮説であって証明されたわけではない。
性行動と欲望の基本を理解しようとする最近の研究の成果は、遺伝子が脳の性区別に直接的な影響を与えている可能性があるという発見である。テストステロンやエストロゲンのようなステロイド・ホルモンが、男性と女性の脳を形作るのに主要な役割をまかされている、と専門家も長年信じてきた。しかし、UCLAのアーサー・アーノルド博士の発見によると、試験管の中では男性と女性の神経細胞はすこし違った行動をとるのが見て取れる。同じくUCLAのエリック・ヴィラン博士の昨年の発見では、少なくともネズミを使った実験では、脳のある細胞においてはSRY遺伝子が活動していることがわかった。SRY遺伝子の脳での役割は、テストステロン関連の活動とは全く違っており、女性の神経細胞はその同じ役割を別の方法で行っていると推測される。
脳に関連する遺伝子が異常なほど多く「X」染色体上に存在しているのは偶然の仕業だろうか。脳の機能に関連して「X」、「Y」染色体が急に脚光をあびるようになり、進化生物学者たちも注目している。男性はただ一個の「X」染色体しか持たないため、「X」の遺伝子の一個になにか有利な変異が起これば自然淘汰の原理が素早くそれに乗っかり推進してしまう。そこで、もし選り好みのきびしい女性が理想の男性パートナーに頭の良さを求めるとするなら、なぜ脳に関連する遺伝子が「X」に数多く集中して存在するのか説明がつくのではないだろうか。
この世界を回転させている原動力は欲望であることを、それでも疑いますか?
(訳責:島村政二郎)
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2007年4月10日火曜日
タイのゲイ文化
(写真は華やかなレディーボーイ中心の舞台ショーで、ゲイとは直接の関係はありません。人気グループは世界中で公演しています。美形のTSにとっては晴れ舞台です。)
よくタイにはゲイが多いというコメントを聞きます。本当でしょうか。たしかに明らかにゲイとわかる人、またはゲイらしく見える人が多く目に付くのは事実です。タイで有名な風俗業のことではありません。
サラリーマンや、ホテル、レストラン、旅行会社の窓口、店員、病院、などいたる所で見かけます。普通の男性の服装もいれば、うっすらと化粧している人もいます。しかも、本人だけでなく、同僚やお客もべつに気にしている様子はありません。これがいたる所で見かける昼間のゲイの普段着の姿です。風俗業は別格としても、日本にくらべればゲイが多いという印象は旅行者がもつ正直な感想でしょう。
これは要するにタイはゲイに対する寛容度が高いからです。偏見がないと言えばウソになるかも知れませんが、社会的に受け入れられているだけでなく、職業によっては一般人より優遇されている面もあります。たとえば、ホテルのフロント、病院などの案内・説明係、学校の職員、店員、ウェイター、などです。また普通の会社員でもべつに問題にされることはありません。
私のよく知っているサムイ島のリゾートホテルのフロントに二人のゲイがいました。マネジャーによると、まず他の女性の従業員とは男女間の問題は起こさない、ちゃんとした教育も受けている、お客さんへの接客態度がていねいで細かいことにも気が付く、普通の男性より真面目で頼りになる・・・など良いことづくめでした。
またバンコクのある専門病院でも同じような見方をしていました。そこは男性の接客スタッフは少数ですが全員がゲイで、しかも院長の方針でゲイしか採用しないという徹底ぶりです。べつに、院長がゲイというわけではなく、前述のようにゲイの方が女性以上に細やかな気配りができるので、患者へのサービス面で得策であるという理由です。たしかにこの病院は繁盛しています。
タイ人の会話の中でよくゲイの同僚の話がでますが、特別視している感じはまったくありません。それはゲイが社会的に受け入れられていて、生活にも仕事にも特別な支障なく社会参加ができているからです。そのため、「タイではゲイが多い」という印象につながっているのではないかと思います。
性同一性障害と同じように、同性愛も生まれる前から決まっていた性指向だとすると、タイに特別多いわけはなく、ほぼ同じ率で日本にもゲイが存在するはずです。歴史的にも日本にはゲイについての文献は多くありますが、違いは現在の日本社会の寛容度に差があり、社会的に表に出にくいため、目立たないだけではと思います。
宗教的な偏見から、アメリカなども一部の都会を除けば決してゲイには住みやすいところとは言えません。TSにはさらに偏見が強いようです。先日バンコクのPAIでSRSを終えたばかりのイタリア人女性と話す機会がありました。彼女の言うところでは、イタリアもカトリック教の影響がつよく決してTSにとっては住みやすい国ではない。できればタイに住みたいくらいです、と言っていました。
そのタイでもゲイにくらべれば少数派であるGIDへの理解度はまだまだ低いという印象を受けます。私のよく行くレストランのウェイトレスにTSの女性がいます。けっして美形ではない彼女ですが、ニコッと笑顔でかいがいしく働いています。華やかなナイトライフ向きでない彼女にも、このような職場はちゃんと用意されているのがタイ社会の救いです。
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