<クリスティーン・ジョーゲンセン赤裸々に語る>(Part II)
劇場の同僚とアクロバットに興ずるクリスティーン(1954年)
Q.ヨーロッパでの手術前には普通の男性の性器をもっていたわけですね。
「普通の男性という意味ではちょっと違います。手術前の男性としての生殖器は未発達か未成熟という感じで、たぶん肉体的にも性的にも感情面でも、男性としては十分成長していなかったと思います。」
Q.外見からは手も小さいし、身長も大きくないし、頬骨や顎の線もやわらかいし、元々女性的な体つきだったというわけですね。ところで、身体のサイズを伺ってもよいですか。
「世間では私は骨太の大柄な男性だったと思っているようですが、実際の身体はサイズ10で、身長5フィート6.5インチ(172cm)、体重は約120ポンド(54kg)。普通の女性はやせたがっているようですが、わたしは逆に130ポンド(58kg)くらいに太りたいですね。

Q.あなたの場合は医学的にも正当な手順を踏んで手術を受けたわけですが、世間では性的変質者のように安っぽい露出狂とかと思っている人も多いようですが、どう反論されますか。
「まず、わたしの治療をサポートしてくださった方々にはたいへん感謝しています。私にとっては素晴らしい体験とか悲劇的な思いとかとはまったく関係なく、また別に勇気とも関係ないと思っています。ただ自分が幸せになるには避けて通れなかった道だったからです。
「また、世間では私のような症状を理解できていないことと、性の問題について未成熟ではないかと思います。2年間のホルモン治療や、何回も何回も医学的検査を受け、合計3回にも及ぶ手術を堪えました。まずセックスとかセクシーなどという感じとはまったく無縁な体験でした。」
Q.世界でも前例のないほどのジャーナリズムのセンセーショナルな扱いを受けましたね。
「デンマークから帰国したときは、ニューヨーク空港始まって以来の大群衆が見物に押し寄せたそうです。またマスコミの扱いも記録的な大げさなものでした。出迎えがあるなどとはまったく予想していなかったので、飛行機の窓から外を見てパニックを起こしそうでした。
「新聞記事には女のように身体をくねくねとしながらタラップを降りてきた、と書いたのもありましたが、手に毛皮のコートを抱えていたのとタラップはゆらゆらと揺れるので、バランスを取るため自然にそうなっただけです。」
Q.また何千通もの手紙などで反響があった中には侮辱的な内容もあったと思いますが。
「世界中から何千通もの手紙をもらいましたが、ハリウッドのスターほどではないと思います。いやがらせは予想より少なく、私と同じ問題を抱えている方からの相談の手紙がたくさん来ました。私の体験に共感した人が多かったのと、それと同じ数の手紙が自分のかかえる問題になんらかの答えやガイダンスを求める内容でした。中国人や日本人からも手紙が来ました。わたしの母や父も感動して勇気づけられる内容が多かったのです。
「その一方で一部には侮辱的なものもありました。30から40通ほどですね。2,3万通からみれば嫌みの手紙は少なかったですね。その一人は“同封したカミソリでのどを掻ききって死ね、そうすれば俺たち同類は安心できる”、という内容のものもありました。自分も私のようになりたいという願望がありながら、私を成功のシンボルとしてねたんでいたのかもしれませんが、はっきりしたことは分かりません。このことで精神科医にも相談しましたが、それは精神障害の一種だから、たとえ私が地球の表面から消え去っても、その人たちの問題はなにも解決しないと言われました。」

Q.両親もたくさんの手紙を受け取ったわけですが、あなたのことを誇りに思っているのか、それとも恥だと思っているのでしょうか。
「両親とは親密な関係にありますが、あまり個人的なことは話さない家庭環境なので、はっきりした言葉では表現はしませんが、両親の言動から判断すれば誇りに思っていると感じています。」
Q.手術にまで踏み切るには勇気がいったと思いますが、後戻りできない決心がつくまでどれくらい時間がかかりましたか。手術への準備期間中も進むべきか、戻るべきか迷ったこともあると思いますが、いわゆる「ノーリターン」を決意した時点のことを覚えていますか。
「私のノーリターンの時点は、自分が他の子供とは違うという実感を持った子供時代からです。世界中どこでも子供というのは、グループの一員として仲間になるのに大変な苦労をします。群れの仲間になるのは自らの生存のための闘いなのです。群れから除外された孤独な子供は、心が引き裂かれるような疎外感を味わいます。私も引き返したいと思ったこともありましたが、手術を受けなくても肉体的には生き続けることは可能でも、正常な精神をもった人間として生きていくことはできなかったと思います。不退転の決心をして治療を受けましたが、もし手術を受けなかったら、自分の心の殻に閉じこもりになり、たぶん今頃はもう生きていないと思います。」
Q.準備の一環として精神分析は受けましたか。
「精神科医とはヨーロッパでの手術前から全面的な信頼のもとにあらゆる面で相談していました。思ってもいなかったことに、私の手術の件がマスコミに漏れて騒がれるようになったことで、その精神科医も真剣に心配そうな声で電話してきました。私は気にしていないから大丈夫ですよと笑いながら答えると、やっと安心されたようです。じつは精神科医は、私が自分の症状も完全に理解しており、手術も成功して幸せな気分でいることは知っていましたが、マスコミに騒がれるようになり、世間の批判やいやがらせなどで、私が神経衰弱になりそれが昂じて精神的にポキッポキッと崩壊してしまうのを一番恐れていたそうです。」
{注}この精神科医とは、性同一性障害(GID)の先駆者となるハリー・ベンジャミン博士のこと。
Q.ところで恋愛には興味はありますか。
「たくさんの手紙をもらったり、会ったこともない何人かの男性からプロポーズもあったりしましたが、恋愛のことはあまり真剣には考えていません。結婚は考えないわけではないものの、友情はとっても大事なことで、身近には好感をもつ男性は少なくありませんが、正直な気持ちとしては将来的にも結婚するようになるとは思っていません。」
Q.この新聞記事によると、「ボストン市ではクリスティーン出演禁止」という見出しが出ていますが。
「ボストンはもともと保守的な土地柄ですが、なにか屈折した精神風土があるようですね。とにかく私を見る前から、また舞台で何をするのかも知らないうちに禁止令など出すこと自体がおかしいですね。ボストンで禁止された出版物、演劇、映画などは他の地域ではたちまち評判になる、というジョークがあるくらいです。(笑い)。
「実際わたしが舞台でするのは、何曲が歌ったりするのと、事前によく検討して準備したテーマの講演が中心で、背景にはスクリーンを使用したり、またその間4回衣装を替えて登場します。女性の観客は衣装にとくに反応しますので。内容のあるテーマのお話をするときは、また全く違った衣装でマイクに向かいます。」

Q.お客の興味はどうやって持続させるのですか。お客は頭の中であなたから何を期待していると思いますか。話しの内容から何かを得ることなのか、外見をじっくり観察することでフリーク的な好奇心を満足させるとか。
「好奇心から来るひとが多いのは事実だと思います。これはクラブのオーナーから聞いたことですが、劇場に入ってくる時と帰る時ではお客の表情が違うそうです。興味半分でくるお客が多いのはわかりますが、実際に私を舞台で見て話しを聞くと、新聞の見出しで知るのとは違い、私はトリプルカラーの人間で、単に“黒”とか“白”ではなく、その間に別の色があるのに気付き、何かを学んだように感じるので表情も変わるのではないかと思います。好奇心をもつのは大変結構なことです。わたし自身も好奇心旺盛で、ソ連の打ち上げたスプートニク宇宙衛星にまで興味があります。
「あるとき舞台に出るとすぐ大変面白いと思ったジョークを言ったのですが、観客はだれも笑いません。マネージャーのトニー・デュランテが後で言ったことを今でも覚えています。“クリスティーン、最初の15分間はウケ間違いないと思った面白いジョークを言ったとしてもだれも笑わないよ。観客はまず君の頭のてっぺんからつま先まで品定めすることにしか興味がないからだよ”、と言われました。好奇心と言えば、私だって大女優のグレタ・ガーボが歩いてきたら、帽子のへりをめくって顔を覗いて見たい誘惑にかられるでしょうから。実際にはしませんが。(笑い)」
Q.あなたをめぐる世間のさわぎが静まって、もう過去の話となる時がきた時には、どういう存在になりたいですか。「元男性から女性になったクリスティーン・ジョーゲンセン」ではなく、例えば写真家、とか女優とか。
「そのような時はまず来ないと思います。世間的には私は「元男性のクリスティーン・ジョーゲンセン」のままだと思います。私が結婚したり、急に死亡したりすれば、マスコミが大はしゃぎした後に忘れ去られることはあると思いますが。面白いことに、先日も演劇関係の友人とお互いにまったく意識せずに子供時代の話をしていましたが、相手の女性が“あらごめん、あなたの昔のこと忘れてた”と相手が気づいて大笑いしたことがありました。わたし自身も自分が男の子だった過去を忘れることはないでしょう。今の私があるのもそのような過去と経験を経てきているからです。家庭でも6歳の時の自分の写真はそのまま壁に飾ってあります。友達と話すときも、自分の過去のことを話すのは平気です。」
Q.話しは変わりますが、脱毛などはまだしていますか。
「体毛はもともと多い方ではないですが、ひげの問題はあり今でも顔の脱毛は時々しています。電気脱毛による永久脱毛です。最初はたいへん恥ずかしかったですが、ウィーンの女医さんが体中が毛だらけのような女性患者を紹介しながら、彼女でも脱毛は問題なくできるからあなたの場合など簡単ですよ、と言ってくれました。実際にやってみるとその通り簡単でした。ここに来院する体毛の多い女性は多く、女性的でないことで精神的に不安定な患者さんが多いそうです。」
Q.デンマークで手術を受けたわけですが、おかげでこの国はアメリカでも有名になりました。デンマークの国民はあなたのことをどう受け止めていますか。
「デンマークは小国ですが、わたしの先祖の国でもあり、“北のパリ”と呼ばれるとてもチャーミングな国です。小さな国土のせいか、世の中の出来事をあるがままに冷静に受けとめる姿勢で、国民は思慮深い人が多いです。私はアメリカ人ですから、アメリカに戻り生活していますが、思いやりのあるデンマークの人々には恩恵の念を抱いています。現地の新聞記者も、センセーショナリズムを追うアメリカの新聞と違って、私のようなケースにも偏見はもっていないようで、たいへん客観的で冷静な扱いの記事でした。
Q.手術中は麻酔で眠ったままだったでしょうが、手術で身体のどの部分が除去され、それがどう処分されたか知っていますか。
「全然知りません。どこの病院でも片脚を切断しても、それがどう処分されたか教えないでしょう。」
Q.しかし、これは世界的に有名になった手術ですから、例えば、保存処置がされているとか。
「その可能性はないとは言えませんが、そうは思いませんし、とにかく私は何も知りません。」
Q.今後の人生の計画についてですが、映画会社などからさそいがありましたか。
「何社からさそいがありました。ただ、問題だと思ったのは、あなたが出演をOKしてくれるなら、どういう物語がいいか考えましょう、というアプローチでした。これは私にとってはネガティブなアプローチです。こういう物語を映画にしたいのであなたに出演して欲しい、というのならOKしたと思います。
Q.「クリスティーン・ジョーゲンセン物語」をあなたの主演で作りたかったのでないですか。
「いいえ、わたし自身が演じるとあまりにも役柄に近すぎて適役ではないと思います。」
Q.では他の男優が演じるのがいいのかもしれませんね。
「しかし、その映画の出来が悪ければ、もう俳優としての将来がなくなってしまうかも知れませんね。
男優よりは女優が演じるのが適していると思います。」
Q.あなたをモデルにした映画はすでにあるのではないですか。
「結構ありますね。承諾した覚えはぜんぜんないような作品で、ひどいものもあります。フランケンシュタインのような男が医者によって美女に生まれ変わるというようなストーリーで、クリスティーン・ジョーゲンセンがモデルだという宣伝文句ですが、私のケースとは無関係のひどい内容です。」
Q。将来の仕事については、アーチストの道に進むとか、舞台芸能関係か、または写真家としてもっと活躍したいのですか。
「写真家が一番向いているのではないかと思います。私的旅行でもどこに行くにもカメラと映画撮影機を持っていきます。先日も、デンマークで国王の戴冠式の映画を撮りに行ってきました。たいへん印象に残る宗教的なスペクタクルで、国王と女王にも直接お会いしました。各界の有名人とも会う機会があり、スポーツ界やマスコミ、演劇関係者など多彩な人々と会うことができました。とくに演劇界の人たちには親近感をもっています。」
Q.あなたとお住まいの家族構成はどうなっていますか。
「年上の姉ひとりとその小さな姪っ子が二人います。5歳と7歳です。」
Q.その小さな姪っ子さんですが、彼女たちが15歳、17歳になったときに、「クリス、学校の友達からあなたは以前は男だったと聞いたけど、それ本当なの」と不思議そうな顔で言われたらどう答えますか。
「まあ、17歳ではそのようなことは起こらないでしょう。私は7歳の時から自分の性に違和感を覚えていましたから。私の姉は自分の子供にはやがてわかる時がくるとは覚悟していたのですが、その時は意外に早くやってきました。ある日、年上の姪が姉のところにきて、お母さん、小さな男の子が女になることなどありえるの、と聞きました。姉はその意味を直感的に理解して、そういうこともたまには起こりますよ、とだけ答えた。すると姪は、この家の近くにそういう人いるの、と聞く。姉が、いるわよ、と答えると、姪は納得したような顔でだまって出ていったそうです。その下の姪も彼女から聞いて、二人とも私のことを理解したのだと思います。」
Q.あなたのケースは自然の犯したミステークだと理解する人が多いと思いますが、あなたの性転換手術は自然のミスに対する修正手段だと思っていますか。
「私たちの社会教育のせいで、この世には男と女だけが存在する、という観念を植え付けてしまったのです。この固定した観念が科学的な事実を受け入れられなくしています。つまり、男性も女性もそれぞれが両性の特徴を備え持っているということで、男は80%の部分が男性的で、残りは女性の特徴をもっているということです。女性にも同様なことが言えます。」
Q.ここにあなたのスクラップブックがありますが、この写真に写っているのは中国人ですか。
「いいえ、ホノルルの日本人です。有名になったおかげで世界中あちこち旅行しましたし、ファンレターを世界中から頂きました。」
Q.歌や踊りもできるし、ショービジネスがあなたにぴったりだと思いますが、お金もたくさん入っているでしょう。
「芸能界で働くひとは多額の収入があるので、金庫にため込んでいるお金もすごいと思われがちですが、実際はそう簡単ではありません。エージェントやマネージャーに払う費用、宣伝費、旅費や宿泊費、他の出演者のギャラなど、組織を維持していく経費も収入に応じて多額になります。それに毎週のように仕事があるわけではなく、6週間も仕事がないことも珍しくありません。もっと家族や私自身も楽にしてあげたいのですが・・・。」
Q.他にも録音インタビューなどの予定もあるでしょうが、将来やりたい仕事は考えていますか。
「私同様の悩みを持つ方の助けになりたいです。子供の頃から違和感をもっていても、どうしてよいのかわからないひとは大勢います。医者ではないので直接の助けにはなりませんが、どういうことを知りたいのか教えてもらえれば、その分野にくわしく信頼できる医師を紹介できます。暗い夜道をさまよい歩き続ける人たちに、進むべき方向をアドバイスしてもらう手助けは私にもできます。
「それと、4年ほど前から自伝を書いていましたが、やっと原稿が出来上がりました。複雑な感情や悩みなど自分自身の人生について書くのは結構むずかしいもので、「私」という一人称ばかりでは気恥ずかしいだけでなく見方も狭くなります。自伝なので「私」から逃れることはできませんが、自分の都合のよい解釈にならないように、できるだけ客観的に自分を観察することを念頭において書きました。近々出版されると思います。」
Q.ミス・クリスティーン・ジョーゲンセン。今日はとても興味深いお話を伺うことができてありがとうございました。
「ミスター・ラッセル。こちらこそありがとうございました。」
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その後出版されたクリスティーンの自伝

この投稿の締めくくりにふさわしいのが、上のクリスティーン・ジョーゲンセンの自伝本のジャケットに引用されている序文です。クリスティーンという人物の本質をよく表現していると思いますので、以下これも翻訳しておきます。
「1952年12月1日、ニューヨーク・デイリーニュース紙の読者の目に飛び込んできた大見出しは<元GIがブロンドの美女に。ブロンクスの若者が手術で変身>であった。それに続く18ヶ月の間に、クリスティーン・ジョーゲンセンについて50万語以上の言葉が世界の新聞紙上に踊ったのです。彼女自身の個性ある文体で、ジョーゲンセンは世界で初めての有名なトランスセクシュアルの先駆者としての人生の歩みを語っている。<自然は誤りを犯し、私はそれを修正した>と彼女は語る。
ラスベガスからハバナまで、クラブなどに出演するエンターテーナーとして、ジョーゲンセンはボストンでは出演禁止とされる一方で、ニューヨークでは<今年の選ばれた女性>の栄誉を受ける。同時代の有名人である、ジュディ・ガーランド、テネシー・ウィリアムス、ナタリー・ウッド、トルーマン・カポーテなどとも親交がある。
運命のいたずらか、クリスティーン・ジョーゲンセンは時代の脚光を浴びたが、彼女の才能とカリスマ性がその地位をしっかり守っている。世界初の有名なトランスセクシュアルとして、全身全霊を込めて彼女の役割を演じており、世間を啓蒙し、楽しませ、そのエレガントな立ち居振る舞いと魅力で、すべての個人が生来の権利としてもっている尊厳が与えられるよう尽力している。彼女の人生は限られた狭い道しかないものの、彼女は威厳と誇りをもって歩いている。この単純とも言える尊厳が、彼女の達成した持続する成果であり、後世に残る最大の遺産である。」<スーザン・ストラトカーの序文より>
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